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アモルファス  作者: 霧音
第一部 ドロワ
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二ノ六、評議会

 「珍しい組み合わせじゃねぇか」

 バーツたちは水場の手前まで騎乗のまま来て、揃ってその背から降りた。アーカンスが二頭分の手綱を取り、水呑場に二頭を誘導してやる。

 バーツはイシュマイルたちのところに来て、砕けた口調で言う。


「おぅ、どうした。イシュマイル。竜馬には慣れたか?」

 そしてロナウズに

「何かあったか?」と問うた。

 ロナウズはバーツの前では気楽に、砕けた口調で返事をする。

「いや? 時間が出来たので立ち話をしているたけだ」

 イシュマイルも同時に答える。

「うん。今から厩舎に戻してやるところ。……どこに行ってたの?」


 バーツはロナウズの返答に「ふぅん」とだけ返し、イシュマイルには「あぁ、ちょっとな」と適当に言って、また自分の竜の所に戻る。

 そして鞍を外してやりながら、声高に愚痴を言う。

「……それにしても。参るぜ? 二日続けて門前払いだぜ」


 そして少し声を落として、ロナウズに言う。

「ドロワの連中はよっぽど俺らが鬱陶しいんだな。俺らをこの屋敷に閉じ込めとくつもりだぜ」

 話を振られた格好のロナウズは、首を傾げるような仕草で言う。

「なに? では、まだ評議会に面通しできていないのか? すでにもう三日目ではないか」

 アーカンスが横から答える。

「内門すら開けてもらえないんです。まさに門前払いですよ」


 そしてイシュマイルを見ながら

「だからイシュマイル君の通過符も滞在許可証も出ないんですよ。口約束で見逃して貰えてるようなものですね、今は」

 書類上の話などはわからないイシュマイルだが、何か面倒が起こっていることだけは理解し、迷惑そうな顔をした。

「……つまり、僕は街を歩いてるだけでも、捕まって放り出されるの?」

「ありえるな」

 バーツは外した鞍を置きながら、笑う。


 だがロナウズは思案顔のままだ。

「妙だな。私の兵団に対してはそのような不手際はない。毎日定例の報告も通過している」

「そりゃあ――」

 バーツは竜馬の頭に肘を置いて言う。

「アリステラ騎士団に街道警備なんて、便宜上のもんだろ? 本音は俺たちファーナムに対する牽制のために、あんたらを呼んだんだ」

「……確かにな」


 ロナウズはまだ納得しない。

「一度、私の名前で通してみよう。その上で探りを入れてみる」

 ロナウズの提案に、アーカンスが慌てて言う。

「いえ、そのような。貴方にまで手間をかけさせるわけには」

 アーカンスの言葉を遮って、ロナウズが言う。

「いや、裏で起こっていることを私は把握する必要がある」


 ロナウズは語気を強めた。

「私の情報が正しければ、君たち第三騎士団はファーナムの議会とも折り合いが悪いのではないか? 後方の味方に注意を払い、友軍たるドロワからもその扱いで砦奪取など出来るのか?」

「……む、まぁ……」

 バーツは珍しく言葉に詰まり真顔になる。

 ロナウズは続ける。

「君たち遊撃隊が、何らかの理由でこの地に留め置かれ、情報を遮断されているとしたら、それは由々しき事態だ。政治的にはどうであれ、軍事的には脅威だ」


 アーカンスは自然と身を硬くした。同じ聖殿騎士ではあるが、新米隊長の自分と、一軍団の長ではその視界の広さが違う。それを肌で感じた。

 その一方で、バーツは感心するように長いため息をついてみせた。

 そして言う。

「……なるほど、内海に面したアリステラは、ノルド・ブロスの海からの侵攻を常に警戒している。確かに街道警備なんざやってる気分じゃねぇよな」


 ロナウズはしばしバーツの顔を見、「そうだ」と頷いた。

 アリステラを離れての街道警備という任務に、団員たちも少なからず不満を抱いていた。ロナウズは立場上、言葉には出さずにいたことを、バーツたちの前では吐露した。

「帝国に対しては常に危機感を抱いている。だが、ファーナムに対しても油断はしていない」


「恐れるべきは、サドル・ムレス連合国自体の分裂だ」

 ファーナムの独断専行が、連合に軋みをもたらしている。それは皆が感じるところでもある。

 ロナウズの言葉に、バーツは反論した。

「だが、レミオールはそれ以上に重要拠点だってこと、理解してねぇな」

「……なに?」

「レミオールは、何を捨てても向こうに渡しちゃあいけねぇんだよ」


 ロナウズは、不可解さをにじませて眉根を寄せた。

「君のいう意味が理解できない。ならば尚のこと、ドロワと足並みをそろえるべきではないか? 勿論、我々とも、他の軍団とも」

「あぁ、当然だ」

 バーツは今度は頷いた。


 そして言い訳するように付け足した。

「あんたは街一つを守る軍団長で、俺はエルシオンに仕えるガーディアンだ。……その意識の差だ」

 バーツは言うだけ言うと、ふいっと向こうを向いた。


 話半分の理解度で聞いていたイシュマイルが、そっと口を挟む。

「……ロナウズさん。なぜドロワの評議会は、バーツたちに冷たくするんです? 足を引っ張るような真似をしていたら、砦は落とせないでしょ?」

「……」

 ロナウズは答える必要の無い問いに、言葉を返せずにいた。


イシュマイルが続ける。

「僕は騎士団のことは部外者だけど、許可証とかいうのをいつ貰えるかで行き先が変わってしまうんです。ことによっては何もしないでノアの森に帰らないといけないかも知れない。……それは、嫌だ」

 イシュマイルは繰り返した。

「なぜ、評議会は僕たちを通そうとしないんですか?」


 ロナウズはイシュマイルの顔をしばし、見る。

 そして折れたように目を閉じて頷いた。

「……ドロワは」


「ドロワの評議会と聖殿の関係者は今、レミオールと単独で交渉している最中なのだよ」

「単独?」イシュマイルが言うと、「聖殿?」とバーツが続いた。

「これは内々の情報だが」

 ロナウズは話しだした。

「聖殿の祭祀長である、オルドラン・グース殿は今レミオールにいる」

 バーツだけがことの重大さを理解し、表情を変えた。


「氏は、レミオール解放の交渉に赴きそのまま帝国の捕虜となってしまったんだよ。これは民心を混乱させない為に伏せてあるが、ね」

 バーツが珍しく深刻な表情を見せる。

「……まてよ。じゃあドロワの聖殿は今まともに機能してないってことか?」

「いいや。幸い、ウォーラス・シオン殿がいるおかげで現状を維持出来ている。が、ドロワはこれが大事に至る前に、秘密裏に解決したい」


 ロナウズは後半はバーツに説明していたが、イシュマイルを見て続けた。

「こういう状況の時に、ファーナムに横槍を入れてこられると、ドロワの評議会もまともな対応はできないのだ。……あまつさえ、その騎士団に領内で往来されるとね」

 そしてロナウズは続ける。

「君たちに情報を遮断しているということは、裏で何事か動いている可能性がある。どちらのどのような情報なのかはわからないが、私はそれを把握していたい」


「……」

 一同は言葉が続かなかった。

 しばらく置いて、バーツがつぷやく。

「……ちっ。相変わらず水臭ぇ師匠だぜ」


「俺に一声かけてくれりゃあ、聖殿に駆けつけるのに」

 バーツはぶつぶつと不平を言ったが、それを聞いたアーカンスは不満顔になってバーツに言う。

「その場合私たち遊撃隊はどうなるんです? 貴方抜きで任務を全うしろと?」

 アーカンスは続ける。

「第一メンツを考えれば、なおさら貴方を呼ぶはずがありませんよ。自分たちで解決するつもりならばね」

 バーツは自分をガーディアンだと主張するが、周囲は彼をファーナムの軍人だと扱う。実際、どちらとも言えない状況だった。


 イシュマイルは黙って聞いていたが、理解はした。

「それって……つまり、バーツ」

 イシュマイルが尋ねる。

「僕は当分、バーツの師匠とは会えないかもしれない、てこと?」


 尋ねられて、ようやくバーツも気が付いた。

「……かもしれねぇな」


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