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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
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十七の一、言の葉の力

第二部 諸国巡り

十七、混迷

 陽射しの明るい空中庭園の片隅で、アーカンスと男は険悪に言い合っている。アカルテルの忠実な部下らしく、物言いもたたずまいも硬い印象を与える。


「それから、こちらも」

 男は、アーカンスの着ている制服の肩章に手を掛けた。

「第三騎士団の名残のある物は、外してください」

 第四騎士団に気を使ってのことではなく、第三騎士団に対する侮りがこの男にはある。

 アーカンスは、男の手を片手で払った。

「……お断りだ。このまま行く」


 背を向けたアーカンスを、男は怒るわけでもなく見据え、ぼそりと呟く。

「相変わらずですな……後悔なさいますよ」

 アーカンスも、挑発に挑発を返すように問う。

「何をだ? おじ上の機嫌を損ねることがか?」


「そういう態度が……敵地ではいかに危険か。知らぬあなたではありますまい」

 敵地、と明確に口にした男の本心に、アーカンスは薄笑いを浮かべる。

 その敵地とやらに手を引いて連れて行こうというのだから、この男も穏やかではない。


 第四騎士団の詰め所は、ファーナム聖殿内にある。

 ここから聖殿に向かうには、ファーナムでも古い町並みの残る外海側を迂回する。その道中は断崖に家々が張り付くように建っている。

 アーカンスは、遠く眼下に望める旧市街の、白壁の連なる様を見るともなく見ている。


 ファーナムの建造物というのは、新旧に関わらず直線、特に立方体が目に付く。新しい物ほど巨大な立方体になり、古い物は四角い箱の積み重ねだ。


 崖の傾斜に沿って積み上がるように建てられていて、ある家の屋上が別の家のベランダ、という具合に階段状に繋がっている。古い家屋の壁面には太陽、月、星の紋章が描かれ、最上階の建物は蒲鉾型の屋根かドームを持つ。最上階は集会所として、かつては祈りの場としても使われたという。


 アーカンスは陽射しに輝いて見える白い色に、ふとドロワ市の新市街を思い出した。

 そしてドロワ市での月魔騒動を思い出し、自分がその事件の核心に近いと思われる第四騎士団に向かう奇遇に思いを馳せる。

(……そういえば)

 アーカンスは、自分の言った言葉も思い出した。


(第三騎士団とドロワ騎士団、いずれまた共闘する日を望むと、そう言ったのは私だったか)

 それはレニと白騎士団が衝突した後、アーカンス自身がヘイスティング・ガレアンに言った言葉だ。


 よもや、言った自分がその約束をたがえようとは。

 そして思う。

(今の状況、ガレアン殿が知ったら……今度こそ誤解の避けようがないだろうな)

 それみたことか、とファーナムを快く思わない者たちの反応が見えるようだ。


 白騎士団への釈明のために、自分はあれほど綺麗事を言い並べたのだ。

 いざ事態が逆回転した今、それがどれほど彼らの感情を逆撫でするかと思うと背筋が寒くなる思いがした。


 アーカンスは、短い時間の間に考えを改めた。

 そして自分の後ろを控えめに歩いている男に突然向き直り、手短に謝罪した。


「申し訳ない、事態に混乱して不遜な物言いになってしまったが、もう頭は冷えた。この上は、今一度貴方のお力添えをお願いします」

「……」

 アーカンスは騎士らしく身を正した後、頭だけ下げて男に言った。

 言われた方はというと当惑の表情を隠さず、眉をゆがめたままで一言だけ答える。

「でしょうな」


 アーカンスは、男の反応はさておき、自身の考えを口にする。

「私には、おじ上の思惑など到底理解できるものではないが、貴方ならば違うでしょう。今この場に置いて私に言うべき何か、代わって言い付かっていることなどはありませんか?」

「……」

 男はというと、また困惑しているのか、しばし沈黙している。


 男はまたぼそりと答える。

「ないわけではありませんが……」


「それを口にして、あなたが素直にそう行動しますかな?」

「と、仰いますと?」

 男は、自分の頭を指差しつつ答える。

「私の頭にある考えは、耳から聞いたクライサーの言葉と、私の腹の中の考えが入り混じったものでしょう。あの方の仰る言葉というのは、実に曖昧――いえ、広がりのある物ばかりです」


 男は、平素から思う所のことをうっかりと口にしたが、それを聞いたアーカンスは意外だと感じた。

 男は言う。

「私の考えはこうです。あなたはこれから裏切り行為を働くのです。第三騎士団、かつて共に行動した仲間、同じ目的を持っていた人々、知り合った者たち。皆が、あなたの本心を知りたがるでしょう」


「でも弁解する機会も、必要もありません」

 男はさらりと言い放ち、アーカンスは言葉に窮した。

「裏切り、か……」

 自覚はあったが、はっきり言葉にされるとやはり気分は良くない。


 男はそんなアーカンスの内心を見透かしたのか、宥めるように薄い笑みを浮かべる。

「所詮、言葉ですよ。あぁ、そう言葉といえば」


「あなたの言葉は、クライサーとは真逆の性質をお持ちだ」

「言葉?」

「いえ、私の主観です……」

 男はそれ以上は話を横に逸らすことは止め、二人は第四騎士団の詰め所へと向かった。


 この日以降、アーカンスはぷっつりと第三騎士団との連絡を絶ってしまった。

 団長であるジグラッド・コルネス以下、関わりのあった者たちは仔細を知ろうとしたが、評議会という壁に阻まれて果たせなかった。


 また、別行動中のバーツたちがこのことを知るのは、もっと後のことになる。


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