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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
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十六ノ八、ルトワの奸計

 アカルテルは、アーカンスやロブロを無視して一人で話している。

「元々お前は祭祀官として聖殿に入るか、もしくは第一騎士団に入るはずだった」


「しかし儂が神聖派と反目していたがために、第三騎士団などで無為に過ごさせてしまった。余計な苦労をかけたな?」

 彼らしからぬ謝罪の言葉ではあるが、アーカンスの意思ははなっから無視している。


「そうでしょうか? おじ上」

 アーカンスは、アカルテルを親族としての馴染みの呼称でそう呼んだ。

 平静を取り繕いながら反論する。

「私が聖殿騎士団に入ることは、私が生まれる前からお決めになっていたこと。兄アーウィンと私が入れ替わっていても、結果は同じでしたでしょう」


「フン」

 アカルテルは鼻を鳴らしたが、不満ではなく笑いである。

 アカルテルに面と向かって屁理屈を言うのは、アーカンスくらいかも知れない。


 アーカンスは、三人兄弟の三番目で、二人の兄アーウィンとアルウィスは双子である。ただ二人はまるで似ていない。


 長兄アーウィンは、父の後を継いでファーナム市内にある店舗を数店経営しているが、弟らと違って厳つい容貌と体格をしており、店主というより用心棒のような風情の男だ。


 アーカンスとアーウィンをして「逆にすべきだった」と言った人々は、その見た目の印象を口にしているのかも知れない。

 実際アーウィンは接客には出ず裏方にいることが多い。大抵の店員よりも力が強く腕も立つので、オーナーとは知らずに怖がった女性客もいたそうだ。

 もし本当に聖殿騎士団に入ってたら、毛色の違う騎士になっていたかも知れない。


 一方、次兄のアルウィスは三人の中で最も人当たりがよく、商工人組合で事務官をしており、政治家志望でもある。アカルテルの意向に一番近いのがこのアルウィスだろう。


 ちなみに、アカルテルの息子たちは、アカルテルに言わせれば『凡庸』なのだと言う。またアーカンスらの父で、アカルテルの従兄弟にあたるアルウィーンも、やはり凡庸だと言われており、影は薄い。

 その他の親族もアカルテルが一族の生き方全てを決定し、地盤固めに成功している。

 かなりの豪腕である。


 そのルトワ家の帝王・アカルテルが、それまで所属していた解放派から転向し神聖派に鞍替えするという。

 アーカンスでなくとも、ロブロとの関わりを勘ぐるだろう。


 アカルテルは言う。

「第三騎士団は、もはや終わりだが……今となっては第一騎士団では意味がない。この上は、お前を第四騎士団に入れるよう、準備させよう」

「それは――!」

 アーカンスは即答に詰まった。


 第三騎士団が終わり、という表現にも驚いたが、アカルテルが名指ししたのがいわく付きの第四騎士団というのもアーカンスを驚かせた。


 第四騎士団といえば、先のドロワ市での月魔騒動の時にその剣などが発見され、関与が疑われている。

 ジグラッドもそしてアーカンス自身も、ファーナムでの目的の一つがこの第四騎士団の調査のはずだった。


「なぜ、第四騎士団なのですか」

 アーカンスは、ともかくも口を動かした。

 さもないとアカルテルはどんどん話を進めてしまうからだ。


 アカルテルは、癖で髭を撫で付けながら言う。

「第四騎士団はファーナム拝殿と密接に変わる特務機関でもある。神聖派に加担する以上は、一枚噛んでおく必要があるだろう」


 以前ならば第一騎士団に入ることに意味があった。

 第一騎士団は、評議会にもっとも近い位置にあり、その繋がりも強かったからだ。しかし今は評議会よりもファーナム聖殿である。


「か、噛んでおくなどと――!」

 アーカンスは気色ばんだが、アカルテルは飄々としたものだ。

「第四騎士団内で……ファーナム聖殿で何が起きているか、お前のその目で見よ」


 アーカンスは、従伯父の言葉に表情を変える。

 そしてわざと言葉にして言った。

「それは……神聖派の目的である聖殿守護の立場をとれということですか? それともそれを利用して、内部に潜入し――」

 別の目的で活動せよという意味なのか、と問おうとした時。


 外の廊下に複数の気配を感じて、アーカンスは口を閉じた。

 それまでその場に居ながら知らぬ顔をしていたロブロが、ふと顔を廊下に向けた。


 室内の隅の扉が開き、数人の女性が入室してきた。

 一人はアカルテルの秘書である。

 彼女らは室内の下座に進み、上座に居る男たちには形だけの一礼をして窓際のソファに腰を下ろした。


 ロブロは入室してきた女性たちに笑みで答えたが、アーカンスとアカルテルは互いにまだ睨み合ったままでいる。


 女性たちは同じ室内にある別の空間で、無関係に茶など喫し始めたが、その目的はアカルテルらの話を間接的に聞くためだ。

 また秘書は、主であるアカルテルの会話を速記で記録する役目がある。


 今一人の女性、淑やかに着飾った若い娘は無言のまま、後姿のアーカンスを見ている。

 彼女の名は、カリン・スーバス・ロブロ。

 アーカンスの婚約者である。


 それ以外の女性はカリンの世話役の者たちで、カリンの婚約者を興味本位で観察しているが、アカルテルの手前静粛にはしている。


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