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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
151/379

十五ノ十、絵の中の子供たち

 ともかくも。

 執事エミルは、バーツとイシュマイルをまず別室に通した。

 玄関ホールも室内も、外観からの予想通りに重厚な造りの屋敷だ。床は石材、扉は重い木材、窓はステンドグラス、と定番通りである。


 二人は待つとはいっても手にしていた荷物を置いただけで、他には特にすることはない。むしろ格式ばった貴族風のもてなしに少々困惑して無口になっている。


 イシュマイルはふと、棚に飾ってある小さな絵に目を留めた。

 大小の絵が、壁や棚の上に並ぶ。ちょうど家族の写真を並べるように、貴族の屋敷には一門の肖像画が置いてあるものだ。

 イシュマイルは、そこで子供の絵を目にした。


(……ノア族?)

 イシュマイルは、またしても軽いショックを受けた。

 描かれている子供たちは、いずれもタイレス族の貴族風の衣装を身に付けているが、その容姿はノア族そのものだ。先ほど、別の邸宅の庭先で見た子供たちと同じだ。


「イシュマイル?」

 絵の前で動きを止めてしまったイシュマイルに気付き、バーツが声をかけてやる。

 その様子を、執事エミルがいつになく厳しい顔付きで見つめている。エミルはイシュマイルの容貌と服装を見比べて、およその生い立ちを理解した。


 ほどなくして、廊下から複数の足音が聞こえてきた。

 執事エミルが珍しく慌てたのは、バーツたちを居間に通す手筈だったのがロナウズ自身がこちらの部屋へと来たからだ。

 室内の別の扉がノックされ、返事を待たずに扉が開かれた。


 イシュマイルはまだぼんやりとしていたが、ロナウズとバーツがほぼ同時に声を掛け合ったのを聞き、我に返る。


「驚いたな、ほんとにお屋敷の『旦那様』だな」

「君こそ。相変わらず気配を掴ませずに現れる」

 そしてロナウズとバーツは互いに両手を握り合って握手する。ドロワ市で出会って以来、すっかり気心の知れた間柄である。


 バーツは、ロナウズの貴族らしい着こなしに苦笑いしたが、ふと『奥方』に目をやると、驚きで表情を硬くした。

 ロナウズの奥方はまだ廊下側に居たが、間を読むと静かに室内に入ってきた。


 黒を基調にしたシックな装いのその女性は、豊かな黒い髪を湛えている。

 ドレスの形はタイレス族のもの、生地はアリステラ産、そして黒糸のレースが肌を透かせる装いはオヴェス・ノア族の女性特有のもの。

 室内の雰囲気が一瞬で変わるほど、彼女の装いは気高い色香がある。


「――ラナドールだ。君と同じ、オヴェス・ノアの出だ」

 ロナウズが手短にバーツに紹介する。ロナウズの横に立つと、ラナドールの方が年上に見えるほどだ。


 ラナドールは、タイレス族風に会釈をして言う。

「お久しぶりです、バーツ・テイグラート。オヴェス・ノアの村で会って以来ですね」

「えっ!」

「と、言っても覚えているかどうか……。私の本名は『ラナドール・ラリック』です」

 バーツがもう一度驚く。

「ラリック……えぇっ?」

 かなり混乱しているようだ。

 友人の奥方、それも初対面のはずの女性に久しぶりと言われて聞き流せるほど、バーツはあしらいが上手ではない。


「まてよ。じゃ、オヴェス・ノアの族長の……?」

 ようやく思い出して言うと、ラナドールはたおやかに笑って見せた。

「私の祖父が、前族長でした。今は私もアリステラ市民ですわ」


「……へぇ」

 まだ展開を把握しきれていないバーツである。

「わかんねぇもんだな、縁ってのは。」

 ラナドールとロナウズはこの状況を予測していたらしく、バーツを肴に笑った。


 イシュマイルは、この場の流れから完全に取り残されていた。なにより、イシュマイル自身が進んでこの輪に入ろうとしなかった。

 オヴェス・ノア族の姿に、かつてのサドル・ノア村での暮らしを思い出し、あの疎外感をも思い出していた。


 イシュマイルは決してサドル・ノア族の村で孤立していたわけではないが、自分から気を使ってみなと距離を置いていた事実は否めない。

 イシュマイルは同年代のノア族の子供とは、ついに友達にならなかった。


 彼らは小柄でイシュマイルより力が弱く、遊んでいても何をしても、加減しないと怪我をさせてしまう。いつしかイシュマイルは、村の子供の輪から離れた。

 だからロナウズの子供達とも仲良くなれないかも知れないと、そう頭の隅で思い込んでしまったのだ。

 理屈ではなく、経験から。


 当時のイシュマイルには、それがガーディアン適合者にありがちなことだとは知らなかった。自分がガーディアンとしての素質を持つことも、それが幼い子供らとの交流を阻害していたことにも気付かずにいた。


 大人の前で子供を演じることは出来ても、子供の輪の中で子供になることは難しい。当時のイシュマイルは、すでに子供の感覚ではなかったのだから。


 イシュマイルが一人ぽつんとしているのを見て、執事エミルは、イシュマイルが大人の会話に入り損ねたのだと思ったらしい。後ろからイシュマイルの両肩に、手を置いて促してやる。

「さぁ、行きましょうか」


 イシュマイルは、エミルを見上げてようやく笑みを作った。

 そしてエミルに文字通り背中を押されながら、ロナウズとラナドールの前まで行き、ようやくラナドールから自己紹介を得た。


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