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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
146/379

十五ノ五、ひたすらに

 イシュマイルはレニを見、そしてバーツを見て言う。


「レアム・レアドは今ドヴァン砦で戦っているけれど、何かが変なんだ。僕は直接レムに会ってないけど……そう、伝わってくる感じが、何かがブレてる」


 一気に口走るイシュマイルを、バーツが問いで休めてやる。

「レアム・レアドは、何か迷ってるってことか?」

「……わからない。けど、レムはもっと芯の通った――いやむしろ、うんと単純な人だよ」

 イシュマイルは頭を一つ振って言う。

「今みたいに正体がわからないようなのは、本当のレムじゃない気がする」


 イシュマイルは、バーツに問いかけた。

「シオンさんもアイスさんも、今のレアムを否定はしない。もっとよく見ろって言うんだ。それって、レアムは間違ったことをしているわけではないってことだよね?」

 バーツは答えの代わりに、言う。

「『ガーディアンのすることに、善悪の尺はない』か?」


 バーツは髪を搔く仕草でぼそぼそと言う。

「良い悪い、ではなく……信じるか信じないか。それしか物差しがないってのも、難しい話しだな」

 それは他人の尺度に頼らず、自分との葛藤があるだけの世界だ。曇った眼では人も世界も、何も見えてこない。


「……俺はな」

 バーツが言う。

「その『行動に善悪の基準を持たない』ってのが、ガーディアンの混沌の源だと思うぜ」

 レニが横から問う。

「どういう意味だよ」


 バーツはガーディアンではなく、騎士として答えている。

「人の社会ってのは、あくまで善悪の基準で成り立ってるだろ? 市井の生活ってのは、そういう基準、道徳観の上に成り立ってる」

「…うん」

 レニとイシュマイルは揃って頷く。

「ガーディアンはそれを超越した存在だっていう。……けど、その社会の中に居る以上、従わねぇっていうならそこから駆逐されても、それは文句は言えねぇ話だと、俺は思うんだ」


「バーツ……」

 イシュマイルは頷きつつも、バーツの言わんとしていることがわからないでいる。

「イシュマイル。厳しいこと言うようだけどよ」

 バーツは、努めて穏やかな声で言った。


「レアム・レアドがその一線を越えちまってるってのは、誰の目にもハッキリしてる。だから奴はどこでも恐れられてる」

「……」

「そういう意味じゃあ、奴のやり方は……間違ってると、俺は思う」

「バーツ……」

 イシュマイルは、敢えて反論はしない。

 心の中では、イシュマイルも同じ意見だからだ。


 レニが横から言う。

「でもよ。あいつの目的ってのは、何なんだ? 目的のために、方法を誤ってるとしたら?」

「どっちみち間違ってるんじゃねぇか、それ。――つうかよ、お前。同族なのにそこんとこ、知らないのかよ?」

「しらねぇよ」

 レニとバーツでは威嚇し合っているようにしか聞こえない。

「突然降って湧いたみたいに現れやがったんだから。そもそもライオネルってのもよくわかんない奴なんだよ、帝国内でも」


 イシュマイルが、ぽつりと言う。

「目的……そう、目的が。見えないよね」

 イシュマイルが言葉を発すると、レニとバーツは口論をやめて視線を移した。

「まだレムだった頃の昔から……レアムは何をしようとしてるのか、人に明かさなかった。でもいつも、何かに一直線に意識を向けてたのは、感じてた」


「でも……今は、それが無いんだ。本当のレムを、感じない」

 イシュマイルは途方に暮れたように呟く。

バーツが言う。

「レアム・レアドは単純な奴、か……新しい見方だけど、納得はするな。そういう奴は敵に回すと確かに厄介だ。状況が複雑ならなおさらな」

 レニは話に疲れたのか、背筋を伸ばしながら言う。

「あいつの、その『単純』の部分がわかればいいんだけどなぁ」


 バーツが一言、付け加えた。

「確かにガーディアンの世界は、人の社会の基準なんて通用しないもんだからな。昔っから怖がられて疎まれる存在だったのは当たり前のことなんだ」

「……バーツ」

「だからよ。師匠やアイスが善悪を飛び超えてよく見ろってのは、それが間違ってると思ってもなお見ないといけないもの……なのかも知れねぇよ」

「間違ってると思う、その先……?」


「簡単に言やぁ――お前に恨まれてでも、奴がしないといけないこと。その思い込みの大元……感情のない世界だよ」

「感情のない……?」

「ガーディアンの、もっとも良くない部分だ」

 バーツは言ってから、また付け足した。

「と、俺は思う」


 任務の前に一切の私情を切り捨てるガーディアンの掟、それこそが間違いの根だと、バーツは思う。

「でもよ、いかに理不尽でも掟として成り立つ以上、なにかしら理由があるんだろう、な……」

 後半はほとんどバーツの独り言である。


 半人前のガーディアン・バーツの見たガーディアンの世界は、とても納得のいくものではなかった。


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