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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
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十五ノ一、ドロワ市設自警団

第二部 諸国巡り

十五、道

「民兵を集めた市警団だ。義勇軍的集団と言ってもいいな」

「――っ」

 戸惑いを隠せないヘイスティングを置いて、カミュは一人で話しを続けた。

「市警団の発足は、今回の事件で市民らの危機感が高まったこともある。ドロワ市を守ろうと行動を起こしたのはルネー殿だけではないということだな」

「……えぇ」


「事態を重く見たドロワ城主セリオ殿が強行にことを進められたそうだ。……反対していた貴族らも、抵抗しきれなかったらしい」

「あの、城主殿が……ですか」

 普段は貴族ら評議員を刺激しないよう、あまり目立った行動はしないセリオである。


「それに。聖殿騎士団の再構成は以前から計画だけはあったのだが、何かと調整が進まず頓挫していたのだ。しかしノルド・ブロス帝国が動いてくるとなると、そうも言っておれん」

「……」

 今回のような大きな事件を前にすると、それまで惰性で続いて来たシステムなどはたちまち欠陥をあらわにする。早急に梃入れが必要だった。


 不意に、カミュが頬を緩めて息を吐いた。

「――いや正直、団長候補にお前の名が挙がっていたんだが、聖殿騎士であることがネックになって決定しきらなかったんだよ」

「……っ?」

「退団して一市民になるというのなら、好都合だ」

「お、お待ちください!」


 もう決定した、と言わんばかりのカミュの言葉に、ヘイスティングも声を張り上げた。

「俺は! 処罰として騎士の名を返上するのですよ!」


「これで団長になどなったら、全く罰になりません」

「そこは詭弁だ。それに、これは城主殿直々のご推薦だ」

 ヘイスティングが、はっと息を呑む。

「城主、どの……?」


 市警団の設立に城主セリオが大きく関わっていることは、ヘイスティングも先ほど知った。しかし他の貴族らは、城主セリオがこれ以上の部隊を所有することに懸念を抱いている。

「もしや……俺の請願が通ったのは?」

 ヘイスティングは、ことの裏に自分の父・ガレアン卿とセリオとの繋がりを感じた。

 そしてそのうっすらとした予想は、概ね当たっていただろう。


「まぁ、政治的なことは置いておけ」

「しかしっ」

 混乱するヘイスティングを前に、カミュの顔から笑みが消える。

「戦の失敗は戦で補え。罰などではなく。これは私からの最後の命令だ」


 カミュはあくまで冷静に言う。

「失敗から逃げるな、ヘイスティング」

「――!」

「ドロワ市のために声を上げた市民……その有志の者たちから成る市警団だ。これこそがお前の本懐ではないのか?」

「それは……」


 ヘイスティングには、即答は出来なかった。

 考えていた以上に流れは速いのである。


 その翌日。

 オルドラン・グース氏と、それに連なる一団がドロワ市に到着した。

 ツィーゼル・カミュもその頃には騎士団の指揮に戻っていて、その後は儀礼的な式事から事務的な手続きまで、聖殿騎士団は忙殺された。


 またドロワ城主セリオは、これを期にドロワ城の中庭の一部を完全に市に解放した。当面はそこに三百頭の竜馬が留め置かれる。

 不測の事態が起こった場合でも、分厚い城壁で囲い込んでおける場所だ。

 その後のドロワ市の変革においても、この場所は何かと人や物が集まる場所となった。



――さて、一方そのころ。

 ドヴァン砦ではライオネルが一区切りついたドロワ市に関わる諸事の後仕舞をしていた。


 万事問題はないはずだ。

 ドロワ市内の様子については、各都市の聖殿騎士団らが撤収したことなど逐一報告は受けて把握している。


 今回オルドラン氏と竜馬の一行には、一人の龍人族も加えなかった。

 聖レミオール市国の祭祀官と吏員、竜馬の訓練師や世話をする者など、すべて帝国内外のタイレス族から選んだ。

 あくまで聖レミオール市国とドロワ市との関係、と強調したのである。


 彼ら派遣されたタイレス族は、しばらくはドロワ市に留まることになる。

 特に竜馬の管理については、ドロワ市側の受け入れが整うまで専門家を滞在させる。だからなおのことドロワ市側の感情を優先したのである。


 送り込まれた者が実は諜報員ではないか、怪しい動きをするものではないか? あからさまに支配者の権威を振りかざす者ではないか?

 ドロワ市側は疑っているだろう。

 そういった悪感情を逆撫でしないためである。


 ドヴァン砦からドロワ市に送られた人員はみな、ドロワ市側が拍子抜けするほど低姿勢で穏やかな者たちばかりだ。


「これでドロワ市の一件は一区切りだ」

 ライオネルは、気持ちを切り替えるために言葉を口にした。

「さて、次だな」


 わざわざ人目に付きやすい人間を使う必要はないのだ。

 三百頭の竜馬たちが、スパイの目と耳の役割をしてくれる。

(裏をかくために小細工は不要……私の心を知るのは私だけだ)


「一部のガーディアンの動きが不明なままだが……まずは良しとしよう」

 ライオネルの頭の中で、何人かの面倒な人物の影がよぎる。イシュマイルであり、バーツであり、そしてレアム・レアドでもある。

 ライオネルはここにきて、予想外のプランに着手せねばならなくなった。


――ことは、レアム・レアドの突然の発言に始まる。


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