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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
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十四ノ八、オルドラン氏解放

 イシュマイルたちが去った後のドロワ市。

 駐屯していた各都市の騎士団は退去したが、避難民たちは未だ行く宛に困窮して街中で落ち着かない生活をしている。

 街の中は月魔騒動の破壊痕が生々しく、見る者の心を痛める。


 この頃のドロワ市では、大きな事件が二つとそれに伴う変化、そして小さな問題が一つ起こってた。


 大きな事件の一つは、待ちわびていたオルドラン・グース氏の解放である。

 オルドランとはドロワ聖殿の祭祀官長であり、ドヴァン砦の人質として長らく抑留されていた人物である。

 もう一つの大きな事件、シオンの更迭(シオンがドロワ市から離れること)が解放の条件となっており、シオンがそれを受け入れたことからオルドラン氏の件も実現した。


 そして今一つの『小さな問題』とは市民らの伺い知らぬ所でひっそりと解決された。

 白騎士団の中隊長の一人が、任務中の事件の責任を取って騎士団を退団したのである。


 ともあれ。

 ドロワ市民はオルドラン氏が戻ってくると知るや、俄かに喜びに活気付いた。

 市民にはオルドラン氏が捕らわれていた事実は隠されていたものの、彼らは薄々気付いており、オルドラン氏解放の知らせを手放して歓迎した。

 ここのところ陰鬱な事件ばかりが続いていたせいもある。また長らく街を守っていたシオンを失って落胆していたことへの反動でもある。

 人々は歓声と共に家々から出てきた。


 この騒ぎの中、月魔騒動で一時人気を落としていた白騎士団も、再び注目を浴びるようになっていた。

 元々白騎士団は儀仗兵的な役割を多く受け持っていた。殆どが貴族の子息らであるため、寄付も多く見栄えが良い。他都市の賓客を迎えるなどの華やかな場に居合わせることが多かった。


 今回もオルドラン氏やドヴァン砦からの使者を迎えるため、隊列を組んで出立していく姿は堂々として見え、過日の不手際は市民が不幸を忘れたい心理もあって遠くに霞んだ。

 自然と『何か良いことの予感』が白騎士団とセットで市民の目につくようになり、人々が白騎士団に対して受ける印象までもが変わったのである。


 もう一つの聖殿騎士団である黒騎士団はというと、ドヴァン砦での戦闘から月魔騒動での連戦で、少なからず負傷者を出して十分な働きが出来ずにいた。黙々と警邏などの地道な職務に忠実だった。


 またゴシップ的な話ながら、シオンの存在がなくなるとそれまでほぼ独占されていた街娘の人気票が割れ、聖殿騎士や若い祭祀官なども注目されるようになる。既婚者であるカミュ団長までもが街娘らの口に上る頃には、ドロワ市は祭り沙汰になっていた。


 これには、ライオネルらが計算した仕掛けが功を奏していた。

 オルドラン氏の解放には、もう一つ派手な演出があったからだ。


 ドロワ市に到着したオルドラン氏に付き従って来たのは、ライオネル・アルヘイトでもなければレアム・レアドでもない。

 聖レミオール市国の祭祀官たちだ。

 ドロワ市民にとってレミオール市国との繋がりは、その建国の謂れより市民の誇りでもある。


 そしてその祭祀官の一団と共に隊列を組んで来たのは。

――竜族の行列である。

 アルヘイト家からドロワ市に贈られた、三百頭余りの騎乗用竜族である。戦闘用の竜族なので、訓練師や世話をする人々などもいて、その眺めは壮観だった。


 この騒ぎの中にノルド・ブロス帝国の役人や龍人族の姿はない。目に見えるのは聖レミオール市国からの友好的な使者達と、平穏に戻ったことを喜ぶ街のざわめき。

 少なくとも、そこには偽りはない。

 ドロワ市が大きく変化する、その前触れでもある。



 そんな華々しい空気の中。

 一人流れに逆らうように、この騒ぎに同調しなかった元聖殿騎士がいる。

 元・白騎士団第七中隊長ヘイスティング・ガレアンである。


 先日のファーナム騎士団やレニとの一件について、ドロワ市評議会は議員を集めて異例の審議会を行った。その詳細は表には出ていない。ヘイスティングはこの審議の場で、責任を取って聖殿騎士を辞したいと申し出たのである。

 驚いたのは評議員たちの方で、せめて降格か休職をと提案したが、当のヘイスティングはがんとして譲らなかった。


――今から数日前、その日の様子はこんな風だ。


 評議会の会場は、ドロワ城内にある。

 古くより『学問の都市』と言われ、聖レミオール市国と連なるドロワ市は、識者による討論だとか演説などが盛んだった。

 そして公開演説の場として利用されていたのが円形劇場に似た構造の演説場である。

 舞台中央に円形の演説台があり、その周囲を客席が囲んでいて、外に行くほど高くせり上がっている構造だ。


 こういった演説会場は街のあちこちにあったが、ドロワ城内にあるのは室内型の円形演説場である。やはり中央に円形のお立ち台があり、周囲には座席が何段にも高くなりながら、囲んでいた。


 現在はその演説会場は、評議会用の議場に作り変えられている。周囲を囲む円周状の段には木製の重厚な椅子と机が設えられ、評議員たちはここに客席し議会に臨む。


 そして中央、かつては討論する者同士や演説する者、進行役などが立ったこの場に、今はヘイスティングが一人で立つ。

 円形劇場の構造上、中央にいる者の声は場内によく響くように設計されている。


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