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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
133/379

十四ノ二、まつろう影

「イシュマイルに……会ったのかっ?」

 瞬時に声音の変わったギムトロスに対し、少年はわずかに目を細める。

 得心の笑みは表情には出なかった。


「……さぁ? 噂で聞く程度にしか。ふぅん、イシュマイルっていうんだ、彼は」

 少年はすでにタナトスと名乗ってイシュマイルと会っているはずなのだが、ギムトロスにはその話をしなかった。


「イシュマイルは俺の弟子だ。山道のガイドとして、ファーナム騎士団につけておいたんだ」

ギムトロスも、差し障りのない表向きの部分だけを口にした。

「ふぅん……弟子、ねぇ。貴方は特に騎士にもガーディアンにも見えないけれど?」

「俺はノア族のレンジャーでギムトロス・ローティアスって者だ。お前さんと同じ目的、タイレス族の動向を探りに行くところなんだよ!」


 わかったか、と語気を強めるギムトロスに、少年は冷めた視線を送る。少年はというと、改めて値踏みするようにギムトロスを見ていた。

 そして言う。

「僕はね。サドル・ムレス国内の騎士団だとか、ガーディアンの動向を報告する義務があるからね。ドロワ市からファーナム騎士団が撤退したのは確認した。でも、今彼らと共にいるのはガーディアン・アイスだ。バーツじゃない」


 少年はつらつらと、自身の持つ情報をギムトロスに話した。バーツが居ないということは、イシュマイルもそこには居ないということでもある。

「やれやれ、お見通しかい」

 ギムトロスは大げさに溜息をついてみせる。


「で? お前さんとしちゃあ、バーツの行方を確認したいが為にスドウに入りたい……と、こういうわけか?」

「少し違うね」

 少年は、さきほどまでの男装した少女の仕草ではなくなっている。むしろ警戒心のない子供のようなあどけなさを見せる。


「今スドウに居るのはウォーラス・シオンといって、バーツの師匠格のガーディアンだ。彼はドロワ市庇護の姿勢を明確にしている。つまり僕とは対立した立場ってわけ」

 少年は、ノルド・ブロス帝国側のスパイだということを隠す素振りもない。

「だから、僕はスドウに入りたくても、シオンに見付かるわけにいかないんだよ」


 ギムトロスは、呆れたように表情をゆがめた。

「じゃあ何か? お前はスドウやバーツの動向を探るために、無害な俺を利用したいと、そういうことか?」

「……無害かどうかは、まだわからないじゃないか」

 少年はあからさまに鼻で嗤って見せる。

「貴方たちノア族がいかにしたたかな人種か……僕らが知らないとでも思ってる?」


 ギムトロスは、裏表のない男である。少年の無遠慮な言葉に、憮然として口を噤んだ。

 今度は少年が畳み掛けた。

「レアム・レアドを取り込んで利用してきたこと、知らないとは言わせない」


「今になって突然ライオネル側に寝返るなんて……裏でよほどの何事かが――」

「ちょっと待て!」

 ギムトロスが、少年の言葉をさえぎった。

「お前さんは帝国の人間だろう? 俺の方こそレアム・レアドのことは知りたい。この二年に何があったんだ」


「寝返るってどういうことだ!」

 ギムトロスはまくし立てたが、少年は相変わらず動じない。

「忘れた? 僕は帝国の間諜……情報を運ぶ役でしかない。全体のことなんて知らないし、事態を把握できる立場でもないよ」


 少年は以前、イシュマイルに対しては自身をガーディアンだと名乗った。

 今は、ギムトロス相手に間諜だという。どちらだとしても不自然だ。


「レアム・レアドは、今の今まで祖国のことなんて見向きもしなかった……いや、それは今でもそうなのかも知れない。奴の行動を裏で操っているのは、貴方がたノア族なのではない?」

「……」

 ギムトロスの顔から表情が消えた。

 レアム・レアドの件よりももっと重要なこと、少年の言葉の裏から危険を察知したからだ。


「それは、つまり――」

 ギムトロスは問う。

「ノルド・ブロス皇帝は、俺たちサドル・ノア族をそういう解釈で見ている、ということか?」

「そうかもね」

 少年の口調は、あくまで他人事だ。


「でも敢えて訂正するならば、そこは皇帝陛下でなくタナトス皇太子殿下だ。そういえばライオネル様もノルド・ノア族の出自だったっけ? 偶然とは思えないね」

「俺たちとは何も関わりもない!」

 ギムトロスは即座に否定したが、少年のわずかな表現の差には気付かなかった。


 少年はタナトスを殿下と称したのに対し、ライオネルを様と格下げした。それに一介の間諜を自称するには、口数が多すぎる。


「タイレス族は不信心だと言われがちだけど……真にまつろはざる者は、ノア族だと思うね」

「それは、殿下とやらの意見か」

「違う、あくまで僕の感想」

「……」

 ギムトロスは言葉を切り、少し考えてから言い放った。


「これだけは言っておく。俺はサドル・ノアの族長と近しい所にいるが、お前さんの言うようなややこしいことにノア族は関わっちゃおらん」

 少年は特に言葉は返さず、すました笑みを浮かべただけだ。ギムトロスは、このさかしい少年の口車に乗ってしまったかのようだ。


「……ま、それはそれとして。僕はともかくスドウにいるシオンの情報を得たいんだ。あの人は複雑だからね」

 ギムトロスは、行動することは厭わなかったが悪態だけは返した。

「要は、サドル・ノアの村を人質にして、俺を働かせようって魂胆だな」

 少年も口ではともかく、否定はしない。

「人聞きの悪いことを……」

 そう言って、人懐こい笑みで笑った。


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