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アモルファス  作者: 霧音
第二部 諸国巡り
131/379

十三ノ十、捻れ

 以前、バーツがイシュマイルに古地図を用いて地形を説明した時、十二聖殿の位置をアナログ時計盤になぞらえて記述した。


 この十二の区切りを地上における『十二宮』と呼び、等配置に十二の塔が存在するのだが、聖殿を擁する街は正しくその通りには並んでいない。


 ドロワ市を七時とした時、スドウ、アリステラ市、ファーナム市は順に並んでいるわけではなく、実際にはファーナムとアリステラは同じ九時の位置にある。

 またスドウは八時の位置よりかなり西にずれており、十二聖殿の中で唯一外海に面している。


――ドロワ市から、街道を北進するには二つのルートがある。

 一つには、ファーナムとアリステラに続く東側の『交易街道』、

 もう一つが、スドウに向かう西側の道『海砂の街道』である。


 ファーナムに帰還する第三騎士団や、アイスたちは『交易街道』を通った。

 別行動となるバーツとイシュマイル、レニの三人も同じ道を進む。

 一方、後からサドル・ノア村を出たギムトロスは『海砂の街道』を使いスドウを目指す。


 話をスドウ近郊に移す。

 サドル・ノア村のレンジャー、ギムトロス・ローティアスは『海砂の街道』を一人で旅していた。


 当初はドロワ市でイシュマイルたちと合流するつもりでいたが、月魔騒動などを経て突然ドロワ市が都市連合から脱退したため、国境線が行く手を阻んでしまった。


「さぁて……。いかにしてあいつらと合流したものか」

 一度ノア村に帰るという選択肢はギムトロスの中にはなく、この上はファーナムまで単身乗り込もうか、と思案していた所に一つの噂が入ってきた。

 曰く、ドロワ聖殿に勤めていた高位の祭祀官がスドウ聖殿に転属した、と。


「スドウ聖殿、か。スドウならば勝手知ったる俺の庭だ。覗いてみるか」

 ギムトロスはその祭祀官に会って仔細を尋ねようと、目的をスドウに変更した。


 海砂街道を行くギムトロスは、タイレス族風の装束を身につけている。

 ノア族らしく長髪はそのまま背に垂らしていたが、見事な白髪である。老齢なこともあり、一見するとノア族なのかタイレス族なのかの判断はつきかねた。


 ギムトロスは元々ノア族の外交役だったこともあり、外の一人旅には慣れていた。通行許可証という物も持っていて特に問題になる事柄もなかったし、レンジャーでもあるから野宿なども苦にならない。

 ギムトロスは任務をひと時忘れて、悠々と旅を愉しんでいた。


 街道沿いに設けられた野営地の一席に陣取り、ギムトロスはスドウの町を眺めて休んでいる。

 手掛かりを求め、スドウの町へと行き先を変更したギムトロスだが、いざ町の近くまで行くと、ここにもドヴァン砦から解放された人々が行き場を求めて留まっていて、宿一つ取るのも苦労する有様だという話だった。


 スドウの町に入る前に、ギムトロスはまずタイレス族に溶け込む準備をしていた。気持ちを切り替えるのである。


 そんなギムトロスに、声を掛けてきた者がいた。


「こんにちは」

 と、気さくな声音が後ろから聞こえた時、ギムトロスは初めてその人物に気づいた。

 それはいきなり現れ、近付いて来たのである。


 見れば旅装束の少年という風情で、一人旅のようだった。

 一見するとごく普通のタイレス族の容姿である。その人物はなんのためらいも無く歩み寄り、ギムトロスの横へと腰を下ろした。


 普通、一人旅の者同士で一欠けらの遠慮もない出会いなど、まず有り得ない。

 少年はギムトロスの顔を直視している。

 当然ギムトロスも警戒した。

 何より、ノア族特有の感性が、その人物の不自然さを看破した。


 こうなると旅先での一期一会の会話などという愉しみは消し飛んでしまう。

 ギムトロスは、困ったように切り出した。

「あー……何だ。俺に用事があるって顔だな」

 対する少年は何のことか、という仕草で首を傾げて見せたが、せっかちなギムトロスは切り出した。


「こんな一人旅の年寄りに声を掛けてきたんだ。お前さん、スドウに入りたいんだろう?」

 少年はなおもわからないという表情だったが、ギムトロスは彼流の小節を回した。


「……駄目だぜ。旅の醍醐味ってぇか、初対面の人間と知り合う愉しみってのあ、こう、お互いが臆病になってそろりそろりと近付くところにあるんだぜ。気遣い合いながらな。」

「……どういう意味?」

 少年の初めての言葉は、疑問の問いかけだった。

 ギムトロスは答える。

「今のお前さんは、己れの目的の為だけに俺に近寄ってきた。それじゃあ駄目だ」

 そしてギムトロスは無遠慮に言った。

「お前さん、女だろう」

 少年が、初めて表情を変えた。


「ま、一人旅で男装するのは珍しくない。そして何か目的があって急いでいる。だから俺を見つけて、ここぞとばかりに近寄ってきたんだ。」

 ギムトロスは態度を変えていないが、少年の狼狽はギムトロスの指摘が正しいことを物語る。


 ギムトロスは少しばかり種明かしをする。

「なんとなく事情は察するがな。……少し前に立ち寄った村で、村娘が一人行方不明だって噂を聞いた。家出したまま戻らないってな……」

 その娘が、今目の前にいる少年だと、ギムトロスは思っている。

 そしてその推察は、半分当たっていた。

「今ならドヴァン砦からいろんな人物が来てるからな。そんなナリでも目立ちにくいんだろうが……男装としてはいまいちだな。かえって子供に見えて危なぇな」


  図星の連続に少年は折れたのか、ギムトロスに聞き返した。

「……なぜ、わかったの?」

 ギムトロスは答える。

「見た目じゃねぇ。気配だ、気配でわかるんだよ」

「気配……?」

「作り物の気配だ」

 少年は驚いたように目を見開く。


 ギムトロスの言葉に、少年はこれ以上の芝居をやめることにした。

「お見事だ。僕のまやかしを一発で見破った人は、貴方が初めてだ」

 そういうと少年はそれまで纏っていた幻術を解いた。


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