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アモルファス  作者: 霧音
第一部 ドロワ
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十三ノ六、山の背

 その後。

 拝殿騎士たちは集会所を後にし、バーツとイシュマイル、レニとアイスの四人は集会所の中にいた。


 バーツが言う。

「その渦っての、あの時イシュマイルが呑まれそうになったってやつだな」

 イシュマイルとレニが振り向き、バーツは続ける。

 レニの翼竜と戦った時、イシュマイルは意識のバランスを崩し引き込まれそうになった。

 レニはそれを渦と言った。


「あの時。俺には、イシュマイルがガーディアンの『流れ』に近づいたように感じたんだがな」

 イシュマイルは他人事のようにバーツに問う。

「流れ? 渦みたいなもの? バーツ、ガーディアンにも渦ってあるの?」


 アイスが代わりに答えた。

「よく似た別ものって感じかしら。『ガーディアン共有の記憶』を指す言葉だけど、その大元はエルシオンに通じているの。だからエルシオンに名を連ねていない今のイシュマイル君には接触することは出来ないはずよ? とても危険だからね」


「でも確かに感じたんだよ。イシュマイルに似た、何かだ。」

 レニも反論する。

「いーや。あの時、オレもイシュマイルの気配を感じたし、龍族からも警告された。これ以上来るな、流れに飲まれる、見つかるってな」


「見つかる?」

 バーツはレニに訊くが、レニは素っ気無く答える。

「知るか。あの時はそれどこじゃなかったろ」

 レニは、一連のことを思い出したか、蒸し返したくないとそこで話を切り上げた。



 外では、挨拶を終えた各団長らが、それぞれの部下と話している。


 アーカンスは、ジグラッドに今後の指示を聞いている。

 第三騎士団と遊撃隊、そしてアイス一行はファーナムを目指すことで一致しているから、まずは第三騎士団と合流する必要がある。

「では、本隊まで遊撃隊が随行したします」

 アーカンスの言葉に、ジグラッドは鷹揚に頷いてみせる。


 アーカンスはそっと声を落とした。

「その……バーツ・テイグラートやレニに関しては……」

 しかしジグラッドは首を緩やかに横に振る。

「忘れたか? 儂はここにはおらんのじゃ。お前たちがどうするかは、お前たちが決めよ」

「……は」

「ま、儂は当分……バーツの奴とファーナムで会う事は無いと思うとるがの?」

 ジグラッドらしい言い回しに、アーカンスは安堵を含め微笑む。

 アーカンスはジグラッドらに頭を下げ、集会所に戻ろうと踵を返した。


 途中、カミュと話しているヘイスティングらが目に入った。

 ヘイスティングはこちらを見ていたらしいが、ふいと視線をカミュに戻し何事か話を続けた。まだ本調子ではないらしく、ネヒストの肩を借りている。

 アーカンスの表情が曇る。

(彼には、一日も早く回復して貰わねば……厳しいようだけど)


 身を案じようにも、素直に心配だけしていられない状況に恨めしさがつのる。

 こちらに気付いていないフリの相手に向かい、アーカンスはその場から敬礼だけ残すと、バーツらのいる集会所へと入っていった。


 対するヘイスティングは、アーカンスの存在をまるまる無視して前を向いていた。

(情けない……)

 口に出来ない詫び言を、今は胸の奥に落とし込んだ。 

 ようやく皆が同じ方向を向き始めた今、余計な話はしたくない。



 集会所の中では、イシュマイルとバーツが違う話をしていた。

 イシュマイルはバーツに尋ねている。

 レアム・レアドについて、どう考えているか、と。


 しかしバーツは明確には答えてやらなかった。

「質問に質問を返すようで悪いんだがよ」

 バーツは壁に凭れた姿勢のまま、面倒くさそうに答えている。


「お前はそれを俺に訊いて、なにが聞きたいんだ?」

「え?」

 イシュマイルも答えに窮し、バーツは言い捨てる。

「言っておくが、俺はレアムに対していい感情は持ってない。俺の仲間が大勢やられてるし、俺自身痛い目に遭わされたからな」

「う、うん……」

 そこに、アーカンスが入ってきた。


 アーカンスは、バーツに今後のことで指示を仰いだ。

 まだまだ自身では何も決めようとはしないアーカンスに、バーツは苦い顔をする。

 アイスが横から答えた。

「私はこのまま遊撃隊と行く予定でしょ? だったらバーツ、貴方たち三人は構わずにアリステラに行けばいいのよ」


「ちょっと待て! 三人って、レニもいるのかよ」

 バーツの言葉に、アイスは畳み掛ける。

「バーツ、貴方も少しは頭を使いなさいよ。今レニがファーナムに行ったらどうなると思うの」

 バーツは言い返すというよりは、独り言のような口調で言う。

「……俺がレニを無断でアリステラに連れて行くのもどうかと思うけどな」


「そのくらい無茶してやったほうがいいのよ、評議会なんて」

 アイスの口調はぴしゃりとしていた。

「レニはこのままドロワに置いてはおけない、かといってファーナムは論外よ」

「決まりですね」

 こういう時だけアーカンスの決断は早い。

 バーツはアーカンスを睨んで抗議したが、それも無視された。


 すでに夜中を過ぎていたが、治療中の白騎士団以外の者は村から出ることにした。朝を待たなかったのは、事態を早く収束させるためでもある。

 カミュはジグラッドを型通りに見送り、セルピコはそのまま一足先にドロワへと向かった。ヘイスティングとネヒストは、体調もあってすでに小屋に戻っている。


 バーツとイシュマイル、そしてレニの三人も村からは出るが、第三騎士団と道を違える為、皆を見送ってから出立することにした。


「ところでバーツ。これをウォーラスから預かったの」

 村の出口で、不意にアイスがバーツを呼び止めた。

 首飾り状に連なったジェム石の塊を、剥き身のままバーツに手渡す。見た目には装身具だが、嵌っている魔石の精度の高さは実用目的のものだとわかる。


「……へぇ、師匠がねぇ」

「親心ってやつねー。かなり物はいいから貴方みたいに戦闘中無駄打ちするタイプには有難いんじゃない?」

 アイスは冷やかすように言ったが、バーツはいつもの口調のままだ。

「ま、ファーナムからも支給はされるんだけどな。余るってことはねぇから有難く使わせて貰うとするか。運んでくれてありがとよ、アイス」

 そう言って、今かけている一連の上に、重ねるようにして首にかけた。


「……あなたって、ほんっ当にバカなのね」

「あぁ?」

 いきなりの罵倒にバーツは顔を上げたが、アイスはというとぷりぷりと怒ったまま竜馬車へと戻っていった。

「……なんなんだ。相変わらずムラッ気の多い奴だな」

 なおもわからない顔をしているバーツを、イシュマイルはませた苦笑で見ている。


 ジェム石の精度で言うと、ドロワの物よりファーナム製の方が質は高い。

 だがこのタイミングでファーナムの名を出すバーツの無頓着さに、アイスは腹を立てていた。


 ともかくも。

 バーツたち三人と二頭の竜馬は、街道の脇でジグラッドやアーカンスらを見送る。特に言葉を交わすわけでもなく、騎乗した騎士団とアイスらの竜馬車が去っていく姿を眺めている。


 イシュマイルも、アイスにはそっと手だけ振った。

 バーツは竜馬の背中に凭れ、レニは相変わらず地面に座ったまま遠ざかる後姿の一行を見ている。


「感覚共有、ねぇ……」

 バーツは呟きながら、竜馬の頭をぽんと叩く。

 竜馬はいつものように赤い瞳で瞬きするだけだ。

(どの程度の精度なのかはわからねぇが……人族と共有出来ない情報である以上、何者かの干渉が要る……)


(レアムやライオネルじゃねぇはず。アイスのような能力者の存在が――)

 バーツは、我知らず厳しい表情になっていることに気付き、取り繕ってイシュマイルに声をかけた。


「惜しかったなぁ、イシュマイル」

「なに?」

 振り向くと、バーツは横を向いて首飾りの石をいじっている。

「……残念だったな、て言ったんだ。アイスと一緒に行けなくてよ」


「なんだ、それ?」

 横から口を挟んだのはレニである。

 イシュマイルはからかわれたのを知って、むくれてみせた。


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