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アモルファス  作者: 霧音
第一部 ドロワ
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十二ノ七、意地と道理

 バーツとイシュマイルは、竜馬を駈けさせて街道を急いだ。

 二人の視界からは森の木々が邪魔をして、翼竜が何を狙っているのかが確認出来なかったが、小さな的、例えばカイント評議員の竜馬車などではないことは予測がついた。

 翼竜の動きから、攻撃対象が広範囲に散っているのが見て取れたからだ。


(第三騎士団か……?)

 あるいは、それらを追ってドロワを出立したという白騎士団であるかも知れない。

 バーツの背筋を冷たいものが走る。

 どちらであったとしてもその後の展開は最悪だ。

「バーツ! あれは!」

 ほどなくして、街道近くの森に散り散りになっている白騎士団の姿が見えてきた。一人、二人とうずくまる騎士が見える。


 バーツは竜馬から飛び降り、一人のドロワ騎士に駆け寄った。

「おい! 大丈夫かっ? 何があった!」

 騎士は目に見えて負傷していたが、バーツの姿を見るとその手を振り払った。

「黙れぇっ! ファーナムの犬め! 俺に触れるな!」

 バーツよりも傍らにいたイシュマイルの方が、その激高に驚いた。

 思わず竜馬を止め、その場から見守る。


 バーツは慣れているのか、わざと声音を変えて聞き流し、支えていた手を離した。

「あぁ、あぁわかってるよ。俺も野郎を介抱する趣味はねぇよ。何があったかって訊いてんだ」

 ドロワ騎士は支えを失ってまた地面に倒れ伏したが、その怒鳴り声は続いた。

「素知らぬフリを! 貴様らがよこした龍人族ではないか!」

(龍人族? ……まさか?)

 イシュマイルは上空を、そして周囲を見回し、他の異変にも気付いた。


「竜馬が……っ」

 街道沿いに、白騎士団のものと思われる竜馬――土竜が居る。土竜たちは数頭ずつ、道の端にじっと固まって守りの姿勢を取っている。

「竜馬が……戦いに参加していない?」

 通常、竜族は自分より上位の竜族には逆らわないものだという。翼竜から攻撃を受けた何頭もの竜馬が、騎士から離れて点々と小さくなっていた。

「……竜騎兵は……竜族相手に、戦えないってこと?」

 イシュマイルの不安は、バーツの声で掻き消された。


「遊撃隊だ!」

 見れば、森の切れた街道沿いにファーナムの騎士団が固まっている。翼竜はそれよりも少し森の奥を狙っているようだ。

 盛んに炎を吐いている。


 先ほどのドロワ騎士が、まだ起き上がれないままに怒鳴った。

「貴様ら! 中隊長殿を……ガレアン殿を!」

 その騎士が何を言いたいのか、バーツは最後まで聞いてはやらなかった。バーツはドロワ騎士と、自分の竜馬をその場において、森の中に飛び込んで行った。


「あっ! バーツ!」

 イシュマイルも慌てて竜馬から降りる。

 バーツを追おうとして、まだ倒れ伏したままのドロワ騎士をちらりと見た。彼を助け起こすべきか、イシュマイルは逡巡する。


 そのドロワ騎士はイシュマイルに気付くと頭だけを上げ、言い放った。

「小僧……貴様は、さっさと逃げろ! 殺されるぞ……っ!」

「!」

 その一言は、イシュマイルの心根を動かした。


 ドロワでもファーナムでもなく、聖殿騎士としての矜持が吐かせた言葉に、イシュマイルは迷いを捨ててバーツの後を追って森に入った。



 ネヒストは、ヘイスティングの体を抱えたまま上空を睨んでいた。

 木々の密集した場所を選んで避難させていたが、何かあればいつでも上官を抱きかかえて走る用意はできている。

「執念深い奴め。なおも中隊長殿を狙うか」

 翼竜は火球を吐いて木々を倒していたが、枝の隙間からネヒストを見つけたか、旋回し始めた。

 ネヒストは、敵わないと理解しつつも片手には剣を握る。


 翼竜は降下出来ないと見たのか、ネヒストの周囲に何度も火球を吐いた。

 太い枝が裂け破片が飛び散る中、辺りに展開していた方術兵らの陣にも乱れが生じていく。

 翼竜は赤い口を開き、一際大きな咆哮を挙げた。


 障壁陣が掻き消される。

 衝撃に、野戦慣れしていない方術兵が吹き飛ばされた。


 そして間髪いれず、翼竜はネヒストに向き直ると、巨大な炎の塊を吐き掛けた。

 逃げる隙も、場所もない。


 炎の柱が頭上に降り注ぐ。

 ネヒストは、ヘイスティングを庇うように抱えながら、咄嗟に剣を上空に突き上げた。


 炎が割れた。

 ネヒストの剣の前で、炎は分かれて空中で黒く消え入った。

「――!」

 周囲の誰よりも、ネヒスト自身が困惑した。

 手にした剣に、炎の手応えは無かった。


 再び翼竜が炎を吐いたが、これも空気の壁のような何かに遮られて、その勢いを失くし、四散する。

「!」

 ネヒストは勢いよく振り向いた。


「バーツ・テイグラート!」

 いつの間に現れたのか、バーツが片手を上方へと突き上げて翼竜に対峙している。以前ドヴァン砦で見せたのと同じ、バーツの防御術が翼竜の炎を防いでいる。


 バーツは片手を翼竜に向けたまま、歩いてくる。

「ケッ、近くで見りゃあ随分とでけぇじゃねぇの」


 バーツは苦笑とも勇み笑いとも取れる顔を翼竜に向けたまま、ネヒストに声をかける。

「早くそいつを連れて逃げな。ここは俺が止める」

「邪魔立てするな!」

 ネヒストは、彼らしくなく過敏に反応した。

「これは我らが受けた戦いである!」

「――馬鹿野郎っ!」

 バーツも一喝する。

「敵う相手かどうかくらい見極めろ! 大体てめぇら、何でこんなところで翼竜なんかと闘ってんだよ!」


 ネヒストはなおも上官を抱えたまま、声を落として答える。

「……あの、男だ」

「あ?」

「ファーナムの議員が連れていた、龍人族だ」


「赤い髪の男が! 竜化の術で化けたのが、あの竜だ!」

「何……っ?」

 さしものバーツも顔色を変えた。

 ネヒストを見、その言葉が本当であるとわかるともう一度翼竜を見上げる。


 翼竜は木々の隙間から、その燃える目を光らせている。

「……レニ、なのか?」

 翼竜の目が、バーツを捕らえている。

 バーツが右に動けば、翼竜の目もそれを追った。

「……やべぇな、そいつぁ」


 一度会ったきりだが、レニのことはおよそ予想が付く。

 いずれ掛かって来るだろうとは思っていたが、これは予想だにしていない状況だった。


 バーツがいつもの軽口を崩さないのは、切羽詰っている表れでもある。

 翼竜に向けて、両手で招くような仕草で挑発した。

「よぉし。俺に挑んできたけりゃあ、ついてきな。お互い広い場所の方がいいだろう?」


 バーツはそれだけ翼竜に言うと、街道に向かって走り出した。

 翼竜もすかさず、それを追って身を翻す。空中で翼の皮膜が風に翻る音が聞こえた。


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