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アモルファス  作者: 霧音
第一部 ドロワ
113/379

十二ノ二、再演

 翌朝。

 ドロワ城ではバーツとイシュマイルは、朝食の席に着いていた。


 旧い食堂には、長く連ねたテーブルに背凭れの高い椅子の並ぶクラシックな席が設けられている。セリオ、バーツ、イシュマイルが共に朝食をとり、その周りには給仕の者が複数いる。


 セリオは、イシュマイルの前でバーツに言う。

「あの龍人族がファーナムに到着すれば、すぐにでもドヴァン砦攻撃が再開されるでしょう」

 バーツは答えない。

 セリオは続けた。

「私の腹は一つです。ドロワの街を、ファーナムや他の友軍による戦渦に巻き込みたくはない」

 友軍、セリオはサドル・ムレスの都市をそう呼んだ。


「私は政治的な発言は出来ない立場です。……ですから個人として動き、個人としての繋がりに縋るしかありません」

 セリオはきっぱりと言い、バーツもようやく口を開く。

「……リーデルス=ドロワは随分とお心が広いと見える」

「と、仰いますと?」

「今、ファーナムとドロワはいつになく険悪になっている。そのファーナムの役人と騎士を客人として城内に留め置いて持て成すとはな。……ドロワの市民が知ったら不快に思うだろうよ」


 セリオは目元に僅かな作り笑みを浮かべる。

「人道的配慮といえば聞こえが宜しいか? 利己的に言えば、これ以上両市の関係を悪化させない為です。そして貴方はガーディアン・バーツ……もはやファーナム騎士ではない」

「ドロワ市民はそう思ってはいねぇよ」

「いいえ」

 セリオは言葉を続ける。

「かつてはそうだったかも知れませんが、今度のことでみな貴方を見る目を変えたことでしょう。ドロワゆかりのガーディアンとして」

「……」

 バーツはまた口を閉じた。


 そこへ執事らしき者が来た。

 セリオの横で身を折り曲げ、耳打ちする。


 セリオはその内容をすぐに口にした。

「良くない知らせです。カイント議員の滞在していた屋敷の者が、騎士団に密告したようです」

「密告?」

 バーツが鸚鵡返しに問い、イシュマイルもぼんやりとこれを聞く。


 セリオは続ける。

「ドロワより第一騎士団(白騎士団)が身柄を確保するために出動したとのこと。申し訳ありませんが、貴方がたの出立は見合わせることになりそうですな」

「そうはいかねぇよ」

 バーツは即座に言い、椅子から立ち上がった。

「カイント議員は口うるせぇがファーナムに必要な人間なんだよ」


「いいか、あんたに一応教えておいてやる」

 バーツはセリオを指差し、淡々と説明する。

「ファーナムの議会は今、過激な二派に分かれて一触即発なんだよ。カイント議員は中立派、つまり今あの議員に何かあったら拮抗してた勢力図がコロリといって、ファーナムは反ドロワに転がるぜ」


「第一、いま白騎士団とファーナム騎士団が鉢合わせでもしたら、議会より厄介なことになる」

 セリオは尚も止めた。

「しかし困りましたな。貴方がたには、ガーディアン・アイスの御一行と共に山道越えをして頂きたいと思っておりましたのに。あちらは女性ばかりでしてな」


(アイスさん……まだドロワを出てなかったのか)

イシュマイルはその名に反応し、バーツはそれををちらりと見て言う。

「それこそ騎士団向きってもんだろ。アイスたちの行き先こそファーナムだ」


 バーツは食事を中途に背を向け、イシュマイルも立ち上がった。

「バーツ、すぐに発つの?」

「あぁ。状況はわからねぇが、急いで合流した方が良さそうだ」

 バーツは不愉快そうに眉間に皺を寄せ、去り際にセリオに向き直って言う。


「……セリオ殿。あんたはドロワの安全のみを考えていればいい。成り行きで敵味方にわかれるだろうが、それでも俺はドロワの街を戦に巻き込まない。そこだけは忘れてくれるなよ」

「……」

 セリオは、無言のまま頷いた。



――その頃。

 ドロワ近郊の街道では遊撃隊が野営を撤収し、出発するところだった。


 遊撃隊は昨夜のうちに道を戻り、ドロワ式の竜馬車一台を確保して、これを護衛しつつ本体の後を追っている。

 その速度は速くはない。


(夜通し竜馬車に揺られるなど、彼らは慣れていないだろう。正午までに本隊に追いつけるか……)

 遊撃隊は街道で何度も休憩を取りつつ進んだが、こういう行動が容易いのも遊撃隊ならではかも知れない。


 しかし、すぐ後ろにドロワ白騎士団が迫って来ていることまでは、察知していなかった。


「ルトワ隊長」

 五人長の一人が、騎乗のアーカンスをその名で呼んだ。

「竜騎士と思われる一団が、速度を上げて追いすがって来ております」

「……ドロワ騎士団か?」

 アーカンスが振り向くと、すでに九折の山道を砂煙と共に駆ける竜馬の一団が目視できた。


 アーカンスは竜馬を進めながらその姿を目で追う。

「隊列がハッキリしている……。昨日の不逞の徒ではないようだが」

「振り切りますか?」

 五人長の上、隊長の補佐を兼ねる騎士がアーカンスに指示を仰ぐ。

「無理だ。我らはともかく、竜馬車では……」

 アーカンスは言葉を切り、居並ぶ部下に視線を巡らせた。

「……」

 誰からとなく頷き合う。


 部下の一騎が遊撃隊を離れ、先行しているジグラッドの元へと走る。

(いざとなれば……カイント議員だけでも)

 アーカンスは竜馬の向きを変え、背後から来る一団を待つ。


 ほどなく、そのドロワ騎士団は追いついてきた。

 白い装束に身を固め、かなりの人数である。

「あれは……」

 アーカンスは、小さく声にする。


 先頭にいる騎士には、見覚えがある。


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