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アモルファス  作者: 霧音
第一部 ドロワ
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十一ノ六、レニ

 手入れされた庭を通り抜け、屋敷の入り口へと進む。

 セリオから後を任された人物は、バーツとイシュマイルを屋敷へと通した。屋敷内にはもう一人上品そうな男が待っており、傍らのメイド達共々会釈で出迎えた。


 玄関ホールには古い大階段があったが、男は階段の奥にある正面扉の前へと案内した。扉の前で控えめにノックして来客を報せる。


 内側から聞き覚えのある声が返ってきた。

(この声――)


(……あの評議員か)

 バーツはとある人物に思い当たり、あからさまに面倒を表情に出す。

(ドヴァン砦での一戦、査察にでも来てやがったか)

 ともかくも、扉が開かれた。


 だが眼に飛び込んできたのは見知った評議員の姿ではなく、赤い髪の男だった。

バーツとイシュマイルは、同時に声を上げた。

「――レ……!」

 レム、あるいはレアム、と声を出しそうになり、バーツとイシュマイルは思わず互いの顔を見合わせる。


 室内には、真正面の長椅子に長い赤髪の男が腰掛けている。


 髪の色も、鋭い眼光も、何もかもがレアム・レアドを彷彿とさせる。

(レム……じゃ、ない)

 イシュマイルはかろうじて落ち着きを保った。

 バーツはもちろん、レムをよく知っているイシュマイルですら見間違うほど、その男はレアム・レアドによく似ている。


 その男は昨日、東の新市街に現れて空飛ぶ竜を呼び、ヘイスティングらが討ち洩らした月魔の結晶を運び去った人物だ。しかしそれはイシュマイルもバーツも、そしてセリオも預かり知るところではない。


 バーツとイシュマイルのすぐ近くで、咳払いがした。

 見ると、ファーナム風の衣服に身を包んだ細身の男が居て、居丈高にバーツを見ている。


 こちらの男がファーナムの評議員だ。

 ロイトリヒ・カイントといい、資産家でもある。

「相変わらずだな、バーツ・テイグラート」

 男は気取った口調で、まずは言った。

「耳が早いとはまさにこのこと……君とはファーナムで会う予定だったが」


「……こっちも出来ればそうしたかったぜ」

 小声で呟いたバーツは、とりあえずカイント評議員の前に立ち、敬礼した。


 カイント評議員は言う。

「……ふむ。それにしても久しく顔を見なかったようだが、どうして第三騎士団の出撃前にファーナムに帰還しなかった?」

「は、帰還命令は出ておりませんでしたので、本来の目的を」

 バーツはセリオの時とは違い、騎士として返答している。

「出ていなくとも、第三騎士団が動く時は合流したまえ!」

 カイント評議員は声を絞って、バーツに強く言う。


「……よぅ」

 横から枯れた声で気だるそうに呼んだのは、赤髪の男だ。

「なんだか込み入った話しみたいだけど、オレは同席してていいのかい?」

 姿はともかく、声はレアムに似ていない。


 カイント評議員はその男には機嫌を伺うかのように紳士的な口調になる。

「おぉ、失礼した。……バーツ、彼はレニ。レニスヴァルド・ジラルネ・ジオ・アストラダ。タイレス族風に言うなら、レニスヴァルド・アストラダ。――見ての通り、龍人族だ」

「……なに?」

 バーツがその言葉に反応して、表情を硬くする。


 カイント評議員は気にせず、勝手に話しを進める。

「評議会での許可が下り次第、ドヴァン砦へ赴いてもらう予定だ」

「ドヴァン砦?」

 評議員はバーツの問いを無視し、レニと呼ばれた男に向かって言う。

「レニ、彼は――」

 レニはカイント評議員の紹介を遮った。

「バーツ・テイグラート……。つい最近エルシオンにその名を連ねた、新米のガーディアン、だろ?」


 レニはバーツに向かって挑発的な口調で言う。その声音はむしろバーツに似ている。

「レアム・レアド相手に散々だったみたいだな」

「……随分と詳しいじゃねぇか」

 言われたバーツも同じように返した。

「ふン、くだらねぇ」

 レニはふいっと横を向く。


「所詮タイレス族が、オレたち龍人族に敵うわけがないのさ」

 レニは吐き捨てるように言ったが、横で聞いていたイシュマイルは心臓が高鳴る思いがした。

(龍人、族? ……オレたち?)

 いつかの不安が、急に襲い掛かってきた。


 カイント議員は二人の牽制など気にせず、話し続けている。

「そういうことだ。あの男と同族であるレニ君ならば、違う戦い方もあろう。期待しているよ」

「ハッ。君付けかよ……」

 レニは、このカイント評議員の言葉遣いが気に入らないのか、しかめっ面で頭を振る。


 イシュマイルは、レニの様子を、姿をじっと見ていた。

 驚くほどレムに似ている。

 違うところといえばレムは痩身であったが、レニは筋骨隆々で大柄だ。髪の色も、レムが『紅』ならばレニは『朱』で、同じ赤でもレニの方が華やかに見える。


 ファーナム風の露出の高い衣服を身に付けているが、柄の大きな布を腰に巻いて流している様はタイレス族には見られない着こなしだ。

 仕草といい口調といい、見た目よりも若いのかも知れない。


 バーツは思わず口にする。

「同族ってのはどういう意味だ? なんで龍人族がファーナムの人間と一緒にいるんだ」

 カイント評議員は笑って答えた。

「ハハ、簡単なことだよバーツ。ノルド・ブロスも一枚岩ではないということだ」


 カイント評議員はレニを掌で指し示して言う。

「このレニ・アストラダ君は、レアム・ジラルネス・ラトエ・ルード・アスハール、つまりレアム・レアドの血縁者。同じ血を持つ龍人族だ。」

 イシュマイルは、その長い名前を一回で聞き取ることが出来なかった。


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