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アモルファス  作者: 霧音
第一部 ドロワ
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十一ノ五、セリオ

 イシュマイルはドロワ城内に入るのは初めてだ。

 まず、王族の居城というものも見たことがない。


 ドロワ城は古い時代の要塞部分を基礎に、何世代かの屋敷や館が増設されている。街中で見ることの出来る貴族の邸宅は小振りで美麗な建物が多いが、それに比べるとかなり雰囲気が違う。


 とにかく広い、というのが最初の感想だ。

 そしてその広さの余り、素朴に見える。


 バーツとイシュマイルは、竜馬の手綱を引いて長い庭を歩いている。

 手入れの行き届いた巨大な樹木が林立している。

 庭が長いという時点で、奇妙だとすら感じた。

「イシュマイル」

 バーツが声をかける。


「なに?」

 イシュマイルは、設えた野鳥の巣箱を見ていたが、バーツに視線を戻した。

 バーツはその様子に、言葉よりも先に笑いが零れた。

(こいつは不安よりも目先の好奇心だな)


 バーツは、アーカンスとの会話を、違う表現でイシュマイルに伝えた。

「ドロワを出たら、俺たちは騎士団とは別に遠征するぜ」

「……遠征?」

「船だよ、船旅。楽しみにしてな」

「船……」

 イシュマイルは想像がつかないのか、きょとんとしている。

 船に乗るためにアリテラ市に行き、ついでウエス・トール王国に行く……そう説明しようとして、バーツはふと前方に人影を見つけて言葉を切った。


 二人に向かって、庭の向こうから誰かが歩いてくる。


 上品な物腰の年配の男性が一人、両手を後ろに組んだ格好でこちらに来るのが見える。悠然と歩幅の広い歩き方は、遠目に見ても優雅だ。

「あれは………もしかして」

 バーツが呟く。

 バーツは竜馬の手綱をイシュマイルに預け、足早になってその男性に近付いていった。


「ガーディアン・バーツ殿、ですな?」

 その男性は、バーツをガーディアンの尊称をもってそう呼んだ。

「……恐縮だな。まさか手づから御出迎えとはな」

 バーツはいつもの無作法な口調を崩さなかったが、その男性はにこやかに微笑むだけだ。

「私人なれば当然のこと……。しかし貴方のお噂はかねがね耳にしているせいか、初対面に感じませんな」


 バーツは予想と違う反応に、内心舌を巻いた。

(顔色一つ変えねぇのかよ……案外やるな)

 その男性は貴族風に自分の胸元に手を当てると、名を名乗った。

「申し遅れました、私はセリオ・リーデルス=ドロワ。どうぞ、セリオとお呼び頂きたい」


 姓にドロワの名を持つこの男性こそが、現在のドロワ城主その人だ。


 かつての役職がそのまま姓になったもので、彼の一族はセリオという自己の名前のみを呼称として名乗る伝統がある。

「では、セリオ殿」

 バーツも返礼に片手を胸に当てて応える。


 セリオは会釈するように深く頷くと、バーツの後ろにいるイシュマイルに視線をやる。

「彼が、件のノア族の少年ですか。名前は確か――」

 二頭分の竜馬の手綱を持ったまま、イシュマイルはバーツの横で立ち止まる。

「イシュマイル・ローティアスです。サドル・ノアのレンジャーです」

 ドロワ式の作法を知らないイシュマイルも無造作に名乗ったが、セリオはもう一度ゆっくりと頷き、イシュマイルにも同じように自己紹介をした。


「それで」

 バーツが口を挟む。

「出立間際の俺たちを、急に呼び出したのは?」

 バーツは相変わらず無礼に問うたが、セリオは姿勢を正しただけだ。


「実は、貴方をお呼びしたのは私用ではない……。ファーナムの評議員の方が、今城内に滞在されている。私としては――」

 バーツは言葉の途中で「ファーナムっ?」と声を上げた。

 セリオは途切れた言葉をもう一度言う。

「……私としては、貴方に知らせるべきだと思いましてな。こうして慌しい中、無理を通させて頂いたのです」

(ファーナム……)

 イシュマイルは我知らず、一歩後ろに下がる。


 バーツとイシュマイルは竜馬を本館の馬場に預け、セリオの後について庭を進んだ。ドロワ城内は樹木の壁に囲まれて、幾つもの区域に分かれていた。


 バーツはセリオの後ろから問う。

「ファーナムの役人がドロワ城に居るってのも妙な話だな。……いつからだ」

 セリオは前を向いて歩きながら答えた。

「評議員の方が到着されたのは人質解放の後だそうですが……ドロワ城に入られたのは、昨日の騒動のためです」


「要人をファーナムに極秘に送り届ける為に、自らおいでになられたようですが……」

 セリオの言い回しには若干、とげがある。

「要人?」

 バーツは表情を険しくするが、セリオはうそぶいた。

「さぁ? 私の関知することではありませんのでな」


「だったら」

 バーツは怒気を含んだ声で言う。

「月魔の騒動の時もそいつらは居たってことじゃねぇか。……あんた、何か知ってるんじゃないのかい?」

「……それは」

 セリオは穏やかな口調を変えない。

「お会いになればわかる……。ただ、お二方は事件の時にも城内におられました。それは保証いたします」


 行く手に、花と噴水で彩られた庭園が見えてきた。

「あちらに見えるのが、来賓用の館……どうぞ、おいでください」

 示す先に、小振りなレンガ造りの館がある。


 セリオは庭先まで行くと、そこで待機していた人物にバーツとイシュマイルを預け、自分は踵を返す。

「では後ほど。夕餉など用意させておきます」

 セリオはそう言うと本館の方へ歩いて行った。

 後を任された人物は、セリオ以上に慇懃にバーツとイシュマイルを案内した。


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