序章
十五年前のことだ。
そこは北の果ての国。逆巻く風に景色も歪む、一面の砂の海。
「件の子供を引き取りに来た。それだけ伝えればわかるはずだ」
その戦士は、居合わせた村人にそう言った。
「村の長に伝えて貰えないか。女王の言葉に従い、ガーディアンのレアムが来た、と……」
砂船乗りたちも、その名を聞いて魔物以上の恐怖に身を硬くする。
砂海を単身で渡ってきたとは思えない華奢な外見、紅い髪。
照り返すような紫色の眼差しは、不釣合いに落ち着いていて、冷たい。
一人の戦士が、ここで一つの選択に迷う。
物語の始まりは、穏やかな場所ではなく、危険な土地だった。
そこは永劫の嵐に閉ざされた一つの大陸。
三つの民と、二つの神が存在する大陸。
その子供はそのいずれにも属し、
そのどれにも属さない。
――伝説語り。
そこに住む人は、その大地の名前を持たない。
『外から来た人たち』が、その大陸に名前を付けた。
『外から来た人たち』は満天の星と、漆黒の海の闇から現れたという。
そして太陽と月の中に家を作ってそこに住んだ。
三匹は眠り、三人の人々は互いに互いの手を取ることをやめた。
一人は土を 一人は闇を 一人は光を見つめて 祈ることとなる。