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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第953話 あなたみたいだったら

 ヨルシャミはシェミリザを追いながらその背に向かって影の手を伸ばす。

 ひと際長く伸びた手はシェミリザの左腕にぐるりと巻きつき、ヨルシャミは他の影の手をすべてアンカー代わりに地面へと刺した。


 しかし巨体が止まることはなく、それどころか腕を大きく振るようにしてヨルシャミごと前方へと放り投げる。


『無謀なことはおやめなさいな、ヨルシャミ』

「無謀を強いているのはお前だ、シェミリザ」


 影の腕を引き、勢いを削いだヨルシャミは半円を描いてシェミリザの目の前へと降り立った。

 そこへシェミリザが地面ごと抉る勢いで突進する。

 脱皮により外皮や鱗が柔らかくなったとはいえ、ただの土や石では傷らしい傷はつかない。

 反対にヨルシャミは闇のローブでガードしていても背中側から土の上を転がるはめになり、何度となくバウンドしてようやく止まった。


 間髪入れずにシェミリザの放った影の針とヨルシャミの炎の球がぶつかり合う。


 炎の球はいくつもの小さな火球に分かたれ、影の針は狙いを逸れてヨルシャミから何メートルも離れた位置に突き刺さった。

 しかしなにかを察したヨルシャミは咄嗟にその場から飛び退く。


 ついさっきまでヨルシャミの立っていた場所。

 その足元から根のように枝分かれした影の針が突き出した。


 外れた影の針に初めから仕込んであったのだ。

 一対一だと凝った小細工する余裕があるらしい、とヨルシャミが舌打ちしたところで徒歩で追いついた静夏とリオニャがシェミリザへと殴り掛かる。


「ヨルシャミ、間もなく皆が追いつく。だが全員というわけにはいかないようだ」

「ヒュドラが邪魔をしているのか」


 ヨルシャミの問いに静夏は頷いた。

 あの場ですべてのヒュドラを討てたわけではない。

 放置して転移という手もあるが、後ろから追われれば一度は挟み撃ちという状態になる上、万一転移漏れがあれば取り残された兵士は一巻の終わりだろう。


 ある程度の戦力を残し討つべし、という案がランイヴァルから出た。

 そしてランイヴァルを筆頭に急ごしらえのヒュドラ討伐班が編成されたという。


「戦力を分けることがどう出るかはわからぬが……致し方あるまい」

「ヨルシャミさん! ここをわたしたちがパパ~ッと終わらせて援助に向かうぞって意気込みでいきましょう!」


 ふんすと鼻を鳴らすリオニャにヨルシャミは「そうだな」と笑みを浮かべるとシェミリザを睨みつけた。


「シェミリザよ、私は多少だがお前に感謝しているのだ」

『感謝?』

「イオリを攫った際に私に目標を与え、成長するべき方向を示しただろう。善なる感情で行なったことではないのだろうが――実に役に立った。その成果をお前に見せ足りていない」


 ヨルシャミは懐にあるニルヴァーレの魔石、橋渡しの魔石を握る。

 欠けてしまったが効果は据え置きだ。

 息を深く吸い込んだヨルシャミは片腕を突き出すと、指を一本ずつ閉じていった。

 掴むものなどなにもないというのに、手の甲には恐ろしく固いものを握っているかのように筋が浮かび骨が軋む。


 五指がすべて閉じた瞬間、シェミリザの影の翼が根元から圧縮され引きちぎれた。


 地に落ちたシェミリザは口元に笑みを浮かべる。

 今までにないほど超広範囲圧縮で翼を消し去った後、ご丁寧に背中全体に影のヴェールがかけられていた。薄く見えて何重にも影を重ねたものだ。

 ヨルシャミの成長を自分の肉体で感じ取ったシェミリザは腕で体を持ち上げる。


『普通の魔導師なら負荷で即死よ、よく耐えたわね』

「看過出来ぬダメージはある。だがこれも伸びしろだ、今後の成長をお前に見せられなくて残念だな」


 ヨルシャミは鼻と目から流れ落ちた血を拭うと風の鎌を生やしてシェミリザに斬りかかった。

 それに続いた静夏とリオニャもそれぞれ別の腕を相手にする。腕へのダメージを代償に体勢を立て直したシェミリザは蛇の尾で三人を薙ぎ払おうと動いた。


 その尾先をヨルシャミが再び圧縮し消し去る。


『……! 二度も使うだなんて、あなた――』

「死にたいわけではない」


 これも耐えられる計算内だ、と。

 そう笑ったヨルシャミを見下ろし、シェミリザは遠い場所を見るような目で微笑み返した。


『あの人たちによく似ているのに、中身は全然似てないのね』

「あの人たち?」

『昔いたわたしの家族よ。あの人たちはわたしが成長すれば成長するほど向上心より妬みを取っていた。やっと自分たちを鍛え始めたけれど後の祭り、追いつけないとわかったら今度はわたしを否定し始めたのよ』


 ――ヨルシャミの一族がエリート思想になったのは、先祖をシェミリザが捨てたことが原因だった。

 しかし拍車をかける前からその傾向は強かったのだ。そしてプライドも。

 シェミリザの負けず嫌いな性格もどこかそれを受け継いでいたが、性質は異なると言って差し支えない。


 シェミリザは眉を下げる。


 ヨルシャミを成長させるような発言をしたのは、成長した彼を完膚なきまでに叩き潰し負けを認めさせたかったからだ。しかし彼は途中で折れなかった。

 しっかりと成長し、シェミリザと渡り合えるほどになった。

 もちろん仲間の補助があってこそだろう。しかしそれも実力のうちだとシェミリザは考える。


『……ああ、あの人たちも、あなたみたいだったら良かったのに』


 諦めることなく努力し、成長し、立ち向かってくる同族。

 その強さにまだ未来を残した者。

 シェミリザは羨むようにそう呟き、そしてヨルシャミの未来を刈り取るために手を差し出すと――指を一本ずつ折り畳んだ。

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