表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

953/1106

第949話 シェミリザの後を追って

 シェミリザが消えた。

 それを確認したヘルベールがオルバートの傍へと降り立つ。


「我々を無視してイオリのもとへ飛んだか」

「何度も方針を変えてるようだね。……臨機応変といったところだが、今回はシェミリザにも余裕がなくなったんだろう。穴もあと少しで閉じる」


 薄汚れた白衣で汗を拭うオルバートにヘルベールがノートパソコンを差し出した。

 ここへ駆けつける前に強化ケースに収めて携帯していたのだ。


「後方拠点から持ってきた。任されていたからな」

「無謀なのに律義だね、……よし、バグロボのカメラは生きてる。すぐシェミリザの現在地を特定できそうだ」


 そう言ってキーを打ち続けるオルバートのもとへヨルシャミが走り寄る。


「シェミリザの転移魔法は今の姿でも次の使用までインターバルがある。再び使われる前に追いつけそうか?」

「可能だ。……でも戦線復帰が不可能な負傷者を置いていくなら今しかない。その辺りの選別はどうなってる?」


 戦場には治療が追いついていない者や、治療してもすぐには戦線復帰できない者が散見された。

 例えば足が吹き飛んでくっつけることができない者は傷が治ったところで立つこともままならない。傷は塞がっても血が足らず倒れた者もいた。

 そういった戦闘不能者ごと転移するのは致死率が高まるが、逆に置いていけば助かる確率が増すということだ。危険な場所に変わりなくとも。


 ヨルシャミはこくりと頷く。


「すでにセルジェスたちが動いている。魔獣も減った故、数名の護衛を付けて退避させるそうだ」


 サルサムの転移魔石なら一気に後方拠点へ連れて行くことが可能だが、いくらショートカットできるとはいえ行って戻ってくる手間はある。

 負傷者の選別も一気に終わるわけではないため何度か往復することになるだろう。

 それなら退避は徒歩で行なってもらおうということだ。


「……これも危ないが、ランイヴァルをはじめとした複数の団長からそうしてほしいとの進言があってな」

「さすが死ぬ覚悟でここまで来た人たちだ」


 小さな声で賞賛を送り、オルバートはいくつかのカメラ映像をモニターに映し出すと「座標がわかった」とサルサムとセトラスを呼び寄せる。


「各自必要な戦力を伴って転移してほしい。シェミリザは今も移動を続けているから、その速度と方角から計算して先回りを狙う」


 五分以内にここへ頼むよ、とオルバートはモニターを見せ、サルサムとセトラスは頷いた。


「じゃあ俺が前衛を中心に連れてやや前に出る。……おい、全員分座標設定して同じ場所に出ないよう頼むぞ、戦場でうっかり合体事故なんて死んでも死にきれないからな」

「私が何年転移魔石を使ってると思うんですか。持ち始めて数年の若造に言われたくありませんね。そっちこそ注意してくださいよ」

「ふたりとも、なぜ突然威嚇し合っているんだ……」


 オルバートは不思議そうな顔をしながら「セトラスは面倒がってひとりで外に出る機会が少なかったから、転移魔石を使う頻度も低かったじゃないか」と言いかけたが、余計な一言になる予感がしてやめた。


 しかし時間は待ってくれない。

 五分以内に大勢の人々を動かすべくサルサムとセトラスがそれぞれ走っていくのを見届け、オルバートはつい先ほどまで伊織がいたやぐらの方角を見た。

 ヨルシャミもその視線を追う。


「イオリがひとりでバイクに乗って移動しているのが見えた」

「たしか伊織についていた人員がいたろう、確認しに行くかい?」

「いや、時間に余裕がないのもあるが――先ほどステラリカから簡易連絡が来た」


 連絡用魔石を使って『ベンジャミルタさんが負傷したけれど、こちらでなんとかするので治療師を寄越さなくても大丈夫』と連絡が来たのだ。

 切羽詰まった様子だったが信用に足る言葉だった。

 しかし詳しい現状がわからないというのは不安になるものである。


「念のため連絡するほどだ、恐らく軽傷ではないのだろうが……」

「ステラリカさんがついてるなら大丈夫ですよォ~、それにベンジャミルタさんもヤワじゃないですからね!」


 突然真後ろから現れたリオニャにヨルシャミは飛び上がりそうになった。ついさっき確認した位置が大分離れていたからだ。

 しかしリオニャの身体能力なら瞬間移動じみた神出鬼没さも特に不思議はない。王宮の屋根を飛び越して近道するような人物である。


 気を取り直してヨルシャミは咳払いをした。


「嫁のお墨付きがあれば今は無理に救援を向かわせることはあるまい。我々は我々にできることをしよう。……見ろ、サルサムもセトラスも準備が整ったようだぞ」

「統率された軍隊や騎士団相手とはいえ早いね、カップラーメンがようやくできるくらいじゃないか」


 仄かに笑いながらオルバートは自分用の転移魔石を取り出す。


「僕はシェミリザの後ろに出て奇襲したいと思っている。別動隊だね。同行したい者は?」

「前方へ気取られているうちにキツい一発を見舞ってやりたいな。私もゆこう」

「はい! わたしも行きます、シズカさんと試してみたいこともあるので!」


 シズカと? とヨルシャミがリオニャの言葉に振り向くと、傍まで静夏が歩いてくるところだった。

 その隣には走り回っていたのだろう、汗だくになっているリータの姿もある。

 リータはヨルシャミに笑みを向けると手に持ったままの炎の弓を持ち上げた。


「ヨルシャミさん。私はサルサムさんたちと行きますが……今度は最初だけ攻撃より足止めを優先してみようと思うんです」

「ふむ、縦横無尽に動かれるのが厄介だったからな、そこへ注力するのも良い案だろう。我々も倣うか」


 奇襲だからこそ上手くいく可能性が高く、そして一斉に仕掛けることも乱戦の最中よりやりやすい。頷いたヨルシャミは頭の中で使用する魔法の選別を始めた。

 静夏はヨルシャミたちに同行するらしく、ゆっくりと隣へ足を進める。


「シェミリザを伊織に近づけぬこと、そして動きを止めて攻撃を当てやすくすることを同時に達成しよう。私も力づくとなるが尽力する」

「ふは、お前が思っているより小細工無しの筋肉頼りな足止めは恐ろしいものであるぞ、シズカ」


 そう笑い、ヨルシャミはオルバートに向き直った。


「さあ、そろそろタイムリミットだろう?」

「そうだね、――さあ、皆に合図も送った。行こうか」


 オルバートは連絡用魔石をしまいながらしっかりとした声音で言う。

 そうしてサルサムとセトラスがそれぞれ連合軍の人々と共に掻き消え、数秒待ってからその後を追うようにオルバートたちの姿もその場から新たな足跡ひとつ残さずに消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ