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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第926話 愛し愛されるのが羨ましい!

「やぁイオリ! なんだかもう随分と長く離れてた気分だよ、ハグしていいかい?」

「集中を乱すな。リーヴァにしておけ」


 ――戦況の変化により伊織たちと合流したニルヴァーレは開口一番煌めく表情でとんでもないことを言い、ヨルシャミに冷たい言葉と視線を送られていた。

 そんなことしたらブレスで焼かれるどころじゃないよ、と笑いながらニルヴァーレは伊織のほうへ向き直る。


「しかし順調なようで良かった。体は辛くないか?」

「はい、魔力が減ったり増えたりを繰り返すんで変な感じですけど……!」

「ああ、あのサウナみたいな感覚か」

「僕的には満腹と空腹の往復みたいな感じです」


 個人差があるんですね、と伊織も笑う。

 針と糸を操るのに集中は必要だが、やはりこうして時折気を抜くのは大切だと思い知らされた。ニルヴァーレと会話しながらのほうが気も紛れる。

 それにしても、とニルヴァーレは伊織の手元を見た。


「まさか移動中も作業していたとは」


 序盤は移動のたび結び玉を作り、リーヴァに乗っている間は回復に努めていた。

 だがようやく慣れてきたこと、そしてシェミリザの件から移動の時間も世界の穴を閉じる作業に充てることにしたのだ。

 もちろん縫う速度は遅くなるが、なにもしないよりはいいと伊織は考えている。


「……シェミリザ姉さんにも強い想いがあるのかもしれないけれど、この世界を壊させるわけにはいかないんだ。だから少しでも早く穴を閉じないと」

「君はまさにこの世界の救世主だね、イオリ」


 ニルヴァーレは優しい声音で言う。

 ヨルシャミにも言われた言葉だが――伊織からすればこれは人を救うためであり、償いであり、そして自分の罪による被害を緩和するための手段だった。


 許すか許さないかは皆が決めることだ。

 償いも許されるために行なうのではない。


 しかし自分の償いであり役目である、という意識がどこかにあった。

 それを手放しに救世主だと褒められると少し居心地が悪かったが――ニルヴァーレは伊織のそんな思考すらすでに汲み取っているのか、作業の邪魔にならないよう配慮しながら肩に軽く手を置く。


「何度でもネガティブに考えるといい。それでも僕は君を救世主だと思うし、その考えは変わらないよ。……何度だって肯定してあげよう」

「ニルヴァーレさん……」

「ふは、イオリも難儀な性格よな」


 あれだけ励まし支えたというのに、とヨルシャミは笑った。


「しかしお前が存外ネガティブな性格をしているということは、すでによくわかっている。ならば私も何度だって支えてやろう。好きに悩み好きに自己嫌悪するといい。支えたのに立ち直らぬからと怒る気はない」

「ふたりとも僕を甘やかすなぁ……」

「愛してるからね」

「愛してるからな」


 忌憚無きストレートな返答に伊織は危うく手元が狂うところだったが――このふたりからなら違和感無く受け止められる気持ちでもあった。

 伊織はほんの僅かな間だけヨルシャミとニルヴァーレに視線を向ける。


「僕も愛してるよ。……ありがとう、ふたりとも」


 仲間の、家族の、そしてこのふたりのいる世界を守りたい。

 再び湧いた気持ちはやはり今までと同じものだった。


     ***


 ネロはネコウモリによるお纏いフォームの機能が上がったことで、変身中は常に五感の性能が上がっている。

 つまり魔獣の挙動を予測しやすくなる反面、普通なら聞こえない声まで耳に届くのだ。

 伊織たちの会話を聞きながらネロはコウモリ羽をばたつかせた。

 それにより飛び方が蛇行する。


「ウウーッ! 愛し愛されるって良いな……クソッ、羨ましい……!」

「なんか突然思春期の少年みたいな理由で羨ましがり始めた!?」


 隣をイーシュに乗って飛行していたシァシァがギョッとする。

 ネロのそれはなかなかの奇行であった。死にかけの蚊のようだ。

 戦闘中よりも苦しげな苦悶の表情を浮かべるネロを眺めつつシァシァは頬を掻く。


「よくわからないケド……キミもそういう相手を作ったら解決するんじゃないの?」

「やめてくれ、今お前と敵対したくない……」


 半ば本気の口調でそう言いながらネロは目を瞑る。

 作りたいと思って作れるならこんなに拗らせてはいない。

 そう喉の奥で唸るように言いながらネロは空飛ぶ眩いホタルイカ魔獣を蹴り飛ばした。攻撃というよりも八つ当たりである。


「しかし数は減ったけどまったくいなくなったわけじゃないな、魔獣たち」


 ウヨウヨいたのがチラホラいるになったというのがネロの体感的な感想だ。

 特に大型の強い個体は率先して外へ向かっていた。

 デメリットはあってもこれで伊織が楽になるといいけれど、と呟いたネロの言葉にシァシァが険しい表情を浮かべる。


「どうだろうネ……ゆっくりではあるケド、世界の穴は臨機応変に対応してるように感じる。だから想定外のコトがいっぱいだ。結界が破れて魔獣が外へ向かうのは元の本能によるものだケド――ホラ、また」


 シァシァは風になびく前髪越しに天を見上げた。


 追加の魔獣がボタボタと生まれている。

 その大半は外を目指していたが、中にはミッケルバードの人類たちを狙って移動する個体もいた。


「追加する速度が上がってる。大盤振る舞いだヨ、まったく」


 これが続き、外へ十分な量が向かったとなれば追加の魔獣たちは再びミッケルバードに留まり連合軍を潰しにかかるかもしれない。

 そして現時点でも島外の国々とそこに住む者たちが危険に晒されている。

 いくら今が楽になっても急がなくてはならない伊織の負担は変らないのだ。


 自分たちに穴を閉じることが出来ない以上、どんな状況になっても露払いだけはしっかりしないとね、と。

 シァシァがそう口に出そうとした時、離れてはいるが遠くない位置で爆炎が上がり、グレーの煙が暗い空に昇っていった。


「魔法っていうより……ウチの爆弾かな。オルバに渡した強化手榴弾か」

「お前はあっちに行かなくていいのか? 元仲間、っていうか今はまた仲間になったんだろ」

「エ~、オルバより伊織を守りたいよワタシは」


 本心も本心の言葉である。

 どこか呆れた感情を視線に含ませたネロにシァシァはからからと笑う。


「オルバがあそこに居るってコトは、それは彼が自分で選んだコトだ。オルバなりの伊織の守り方なんだろうネ」

「それに茶々入れることはしないって?」

「ワタシはワタシの守り方を、オルバはオルバの守り方をするってだけさ。……あァほら、次のやぐらが見えてきたヨ」


 第五やぐらだ。

 先ほどの爆発から見ると微妙な距離だが、ここに陣取って続けるしかない。

 シァシァはイーシュに再び上昇するよう指示をしながらネロに笑いかける。


「さ、君には君の守り方があるんだろ? 最後まで頑張ろうじゃないか」

「突然流暢に喋られると怖いな……けどまぁ、イオリが頑張ってるんだから俺も頑張らないといけないか」


 なにせ、同じ救世主を目指しているのだから。

 そう笑い返し、ネロは伊織たちを一瞥してからコウモリの羽を大きく動かして暖色の星屑のように天へと昇った。

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