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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第919話 隠しておかなきゃダメよ 【★】

 シェミリザが転移魔法を使わず自身の翼で移動したのは伊織たちの明確な位置がわからなかったからだ。


 しかし予測はできる。

 それにより方角は概ね理解していた。


 加えて伊織は召喚獣及び自身の魔力で作り出したものと距離を取れない。

 魔導師が個々に持つ個性のひとつで、地域によっては『大成するのに苦労するタイプ』だと言われているが、これに関しては眉唾ものだ。

 現に伊織はそのデメリットを残してなお大きな力を持っており、更には鍛錬によりこのミッケルバード程度なら範囲内に収めることができるようになっていた。


(そんなイオリでも穴を閉じる作業には緻密な魔力操作が必要になるわ)


 つまり世界の穴から遠く離れた場所にはいない。

 そして伊織の出力式の魔法はイメージ力がものを言うため、あの忌々しい針と糸を視認できる範囲にいるだろう。


 魔獣に襲われるリスクを考えるならなんらかの防衛施設、もしくは地上の魔獣から遠ざけるために高い位置に静止できる建造物を用いている可能性がある。

 もちろん優秀な魔導師や兵士たちに周囲を守らせて行なっているパターンも考えられ、そうなると少し厄介だったが――それはなさそうね、とシェミリザは考えた。


(あの子を陣の中心に置いて守らせるのは厚い防御になるけれど、つまり周りのヒトが肉の壁になるということ。それを是とする子たちじゃないわ。間近でそんなものを見れば集中も乱れるでしょうしね)


 そして穴の大きさから鑑みるに、伊織たちは途中で移動を挟んでいるはず。

 大人数での統率の取れた移動は難しい。魔獣に襲われながらなら尚更だ。

 恐らく即時動ける少数精鋭で動いている可能性が高いはず。


 目星はついた。

 あとは機動性にものを言わせて予測区域を飛び回り、己の目で伊織の強大な魂の輝きを探せばいいだろう。


(直接針と糸を狙うのもいいけれど……怖い門番さんがいるみたいだし、それにあれを壊しても本元であるイオリを叩かなきゃまた作られてしまうものね)


 根源を絶つのを優先しましょう、とシェミリザは目を凝らす。


 ――それが視界に入ったのはたまたまだった。


 シェミリザは空中を高速移動しながら進行方向に居る魔獣を適時取り込みながら進んでいたが、それにより進化した目はエルフノワールの肉体だった頃よりもより広く繊細に見ることが可能になっていた。

 暗いミッケルバードもシェミリザには明るく見えている。

 そんな島の地中深くに魔力の塊が存在していた。


『……コントラオールの要』


 多重契約結界を展開するコントラオールの要には魔力が溜められている。

 魔石に似た見え方をするが異なるものだ。

 強力な多重契約結界を維持するために詰められた膨大な魔力は地中で煌々と輝いており、地面の中に灯台があるような有り様だった。


 ヨルシャミなら対策を練れただろうが、普通なら魔獣にあれは見えない。

 万一見えたところで一体なんなのか予測ができない。


 だからこそ余計な仕掛けにリソースを割くより威力を強めることに尽力したのだろう。盲目の敵相手に暗器の煌めきを気にするか、という話だ。

 しかしそれは『世界の穴側に与するシェミリザが生きていない』ことを前提としていた。


『ふふ……ヨルシャミ、大切なものは略奪者が居なくても隠しておかなきゃダメよ』


 でないと簡単に取られてしまうわ。

 そう言いながらシェミリザは進路を変えると最大スピードまで加速し、コントラオールの要を防衛していた人間たちを撥ね飛ばし肉塊に変えながら地面へと突っ込んだ。


 強化された魔獣の肉体は地面の固さなどものともしない。

 それでも邪魔な層があれば闇色の刃で切り裂き跳ね上げる。

 魔獣の体で魔法を自在に操り、シェミリザは温かな土の中に埋まったコントラオールの要を見つめた。

 するりと両腕を伸ばし、黒くじりじりと音を立てる炎の塊をいくつも作り出す。


「ごめんなさいね」


 爆破対象は目と鼻の先である。

 間髪入れずに爆ぜた炎の塊は土や岩を抉り、砕き、焼き尽くした。

 地獄と見紛う炎に蹂躙されたコントラオールの要も為す術なく砕け散り、溜められていた魔力の最後の輝きが花火のように舞って粉塵に混じり込む。


 同時に多重契約結界が効力を失って消滅した。

 外へ出たがっていた魔獣たちは真っ先に気づいただろう。ミッケルバードからようやく解き放たれた彼らは外の国々へと群れとなって散り、ヒトを蹂躙するはず。


 それによりもたらされる死はこれから待ち構えている腐敗の何倍もまともであり、救いだ。


 シェミリザは地中から飛び出すと早鐘のように打つ鼓動を抑え、胸元に手をやりながら己を律した。

 まだ最後の仕上げが残っている。

 これが終われば――ようやく、この世界と共に死ねるのだ。


 高速で空を裂くように飛び、獲物を探す野生動物のような目に理性を潜ませながらシェミリザは口を小さく開く。そして短く息を吸うと再加速した。

 遥か先に見慣れた、そう、見慣れてしまった魔力が見える。


『さあイオリ、そろそろあなたも……あら?』


 真正面から走ってくる人影があった。無謀という概念を人型にしたような存在だ。

 しかしその青い両眼に絶望の文字はない。


「もうッ! なんてことしてるんですか~ッ!!」


 そんなこの場に似つかわしくない声と共に跳躍し、シェミリザに凄まじい頭突きを食らわせたのは――レプターラの新王、リオニャだった。








挿絵(By みてみん)

こどもの日に描いた幼少期リオニャ(絵:縁代まと)


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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