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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第904話 同じ轍は踏まない決意

 ゴーストゴーレムは一晩の間しか存在していられない。

 ただし体の中へ入り込まれれば操られるどころか廃人になってしまう恐ろしい魔物だった。


 それ故にベタ村で遭遇した際はベルが専用の結界を張り、接触を防ぎながら朝が来るのを待つという対処をしていたが――今回のゴーストゴーレムにそれが通用する可能性は低いと静夏は見ている。


(……現在の時刻はまだ昼。ベタ村で初めて相まみえた時は太陽光の有無に関わらず夜と呼べる時刻の間だけ存在していた)


 つまり、新たに生み出されたゴーストゴーレムは時間制限という弱点を克服したというわけだ。


 廃人化と戦闘不能は同義である。

 ランイヴァルや他の仲間たちをそんな目に遭わせるわけにはいかない。

 そう考えながら、静夏は大きな手を握り込むとゴーストゴーレムを睨んだ。


 ――ゴーストゴーレムの天敵がいるとすれば、それは伊織に他ならない。


 伊織の強大な魂は侵入したゴーストゴーレムを逆に焼き尽くして消してしまう。

 あんな芸当はヨルシャミやニルヴァーレにもできないだろう。

 しかし伊織は今、一世一代の大仕事を完遂すべく全神経を集中しているところだ。

 静夏らにとってもそれは悲願であり、呼び出すことでそんな大役を中断させ対応してもらっていては元も子もない。


「ランイヴァルよ、お前の魔法は幽体を斬れるか?」

「残念ながら物理的に干渉できない敵への効果はありません」


 ただし、とランイヴァルは赤い瞳を静夏に向けて言葉を継いだ。


「我々の故郷、ベレリヤの王都はかつて大変厄介なものに襲われました。シズカ様もご存知でしょう」

「……! ゴーストスライムか」


 旅人の体に入り込み、多重契約結界をすり抜けて王都ラキノヴァへと侵入した一匹のゴーストスライム。


 そんなゴーストスライムにより起こった事件は数年前とはいえ記憶に新しい。

 あの時は静夏らも全員出動し、ラキノヴァの各地で増えたゴーストスライムを撃退して回った。

 核への攻撃が通れば物理攻撃でも殺すことが可能だったこと、そしてゴーストゴーレムと同じくゴーストスライムにとっても伊織は天敵だったことから、被害はあったものの早期に終止符が打たれている。


「ゴーストスライムはゴーストゴーレムに比べれば物理的な生き物に近い存在でした。しかしそれでも対処が遅れてしまった。――イオリ様とヨルシャミさんにより多重契約結界の強化が行なわれたとはいえ、そこで慢心していてはいつか同じ轍を踏むでしょう」


 ランイヴァルは指先に乗るほど小さな魔石を取り出した。

 赤い血のような色をした魔石だ。

 それは丁度、ランイヴァルの目の色に似ていた。


「これはラタナアラートの土地から採れた特殊な魔石で、任意の魔法を吹き込む――これは少し表現が異なりますか。中の魔力へ任意の魔法として発動するよう指定ができるものです」

「任意の魔法を?」

「はい。限られた者しか使えないのでは対処策としては穴となるので」


 これもまだ試作段階ですが、とランイヴァルは魔石を握り込んだ。

 もしまた物理攻撃の効かない敵が現れた際に動けるよう、ベレリヤは宮廷魔導師たちを集めて対処策を練っていた。その初めの一歩がこの魔石ということだ。

 そこへラタナアラートも関わっていたことはベレリヤの人間とベルクエルフの距離が過去より縮まったことも大きいだろう。


「指定された魔法も宮廷魔導師が総出で組み立てた新しいもの。――幽体の魔物や魔獣へ一時的に実体を持たせ、物理攻撃で倒すことを可能とする魔法です」

「それは――」

「おあつらえ向きでしょう」


 珍しく悪い顔で笑ったランイヴァルに静夏も肩を揺らして笑い返す。

 おあつらえ向きで願ってもないものだ。

 しかしそれがタイミング良くここで出てきたのも、ベレリヤが過去の失敗に対する対処法をしっかりと考える国だったからこそ。


 静夏は近づきつつあるゴーストゴーレムを見つめながら、ランイヴァルにだけ聞こえるように呟いた。


「……向上心を忘れぬ良き国だ。そんな国が私の第二の故郷で良かった」

「シ、……オリヴィア様……」

「ランイヴァルよ、試作段階と言っていたな。予想だが時間制限があるのか」


 目を丸くしたランイヴァルは「その通りです」と頷いた。


「魔石の魔法を発動させ、ゴーストゴーレムに魔石ごと当てれば後は自動で進みますが、それは凡そ一分間だけです。次の発動までは三十分のインターバルがあり、その後は魔力を込め直せば再使用可能ですが……」

「三十分あれば誰かが犠牲になるな」


 ベルが使用していたゴーストゴーレム用の結界は特殊なもののため、この場に魔導師はいても展開できる者はいない。

 静夏の拳圧で弾き飛ばすにしても限界がある。

 そうしている間に他の魔獣が再び現れる可能性も極めて高かった。


 ならば、その一分にかけるしかない。


 失敗すれば幽体に戻った瞬間に真っ先に犠牲になるのは静夏だろう。

 しかし静夏もランイヴァルも不安な表情ひとつ見せず、むしろ翳りすら見当たらない顔で息を吸い込む。


「我々は二名でゴーストゴーレムへの対応に当たる! お前たちは周辺を警戒し、新たな魔獣が現れたら決して聖女マッシヴ様に近づけるな!」


 ランイヴァルの張りのある声に大きな返事が響き渡り、一斉に魔導師と兵士たちが散開した。

 静夏とランイヴァルはもうすぐそこにまで近づいたゴーストゴーレムに向き直る。


 そしてお互いに頷き合うと、息の合った動きで地面を蹴って左右に飛び出した。

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