第882話 カラフルスケルトン 【★】
「な、なんだなんだ?」
色とりどりで玩具のように見えるスケルトン軍団。
そんな奇抜な敵を相手にしていたミュゲイラは轟音を聞いて音の出どころを探ったが、彼女の位置からでは方向しかわからなかった。
土煙や魔法の余波による音もそこかしこで上がっているため当てにならない。
(駆けつけた方がいいか……?)
しかしミュゲイラが抜けたことで手薄になった場所から魔獣が後方へ抜けすぎるのも痛手になってしまう。
助けに行きたいという衝動を理性で押さえつけたミュゲイラはひとまず目の前のスケルトンたちを見据えた。
この周辺はスケルトンやウィスプの類が多い。
これらは魔物と呼ばれることも多い、実在生物をモデルとしていない古典的なモンスターだ。ただし魔獣も魔物のカテゴリーに属するものだったが、最近ではスケルトンやウィスプを魔獣と呼んでも十分に伝わる。
魔物にはゾンビ系も存在するが、幸いにもミュゲイラに向かってくる敵の中にはいない様子だった。
「あいつら殴ると感触が気味悪いからな~……でもお前らなら容赦しないぞ!」
スケルトンもゾンビも元となった死者がいるわけではない。
逸話をモチーフに『こういう生き物』として世界の穴から生み出されたものだ。
倫理的にも手加減しなくて済むな、と笑ったミュゲイラは手前の赤い色をしたスケルトンの顔面を拳で砕き、後衛のスケルトンたちを一気に薙ぎ倒した。
ガラガラと薪を崩したような音が響く。
スケルトンも負けておらず、気圧された様子もなくミュゲイラの背中や頭にしがみついて動きを阻害し、武器を持った個体に攻撃を促した。
武器は騎士団や他の人類から奪い取った物のようで、すでにその刃を元の持ち主たちの血で濡らしている。
「胸糞悪いな……コンニャロ! 武器にすんなら自分たちの体にしろよ!」
ミュゲイラは前面にしがみついていたスケルトンたちを抱き締めるようにして圧殺する。
数百回分の骨折音が響き渡り、ただの骨片になった物体をばらばらと地面に落としながらミュゲイラは地面を蹴って一回転した。
普通の一回転ではない。
遠心力が並みの生物に耐えられるレベルではない重機じみた一回転だ。
ミュゲイラは吹き飛ばされたスケルトンの中から一体だけ選び出し、瞬時にその足首を掴む。
「シズカの姉御に倣う! お前も見本として見とけよ!」
足首を掴まれた白いスケルトンは鈍器のように宙を舞いながら振り下ろされ、武器持ちのスケルトンに激突した。
成すすべなく、というのはまさにこういう状況である。
終始ミュゲイラが軽々と砕いているため錯覚しがちだが、スケルトンの骨は脆いわけではない。むしろ普通の人間の骨よりも硬くできている。
武器持ちのスケルトンは剣を横にし一撃を受け止めようとしたが、その刀身にヒビが走ったかと思えば――乾燥しつつあった血液をキラキラと舞わせて砕け散った。
そのまま見事に白いスケルトンは相手の大腿骨に当たり、ミュゲイラの剛腕の力もあり双方見事に四散する。
シンプルに見えて壮絶な光景だった。
同じ戦場で戦っていた他国の兵士が「ひぇ」と小さく声を漏らす。
「よぉしッ! 次は――」
スケルトンは全滅し、カラフルな破片となって地面を彩っている。
なら今度はウィスプか、と視線を上げかけたところで風を切る音がした。振り向けば大型鳥のスケルトンがミュゲイラ目掛けて急降下しているところだった。
近い。
殴り落したところで嘴は肉に届きそうだ。
瞬時にそう判断しつつも、ミュゲイラは臆することなく腕を振り上げた。
そんなミュゲイラの視界にごうごうと燃える炎を纏った腕が割り込み、嘴が届くよりも先に鳥のスケルトンを叩き落とす。
圧倒的な炎に骨の身ながら火葬された大型鳥のスケルトンはしばらくもがいていたが、そう時間も経たないうちに力をなくすとぴたりと静止する。
大型鳥のスケルトンを屠り、長い金髪を風になびかせながら振り返った筋肉質な男性にミュゲイラは目をまん丸にした。
「シエルギータ! えッ、なんでだ!? お前、たしかベレリヤで王様の代わりをしてるんだろ!?」
「世界の危機だ、居ても立ってもいられずそわそわしていたら、メルキアトラ兄様が送り出してくれてな! 聖女一行の男……サルサムだったか、彼が騎士団の招集に来た際に同行させてもらったんだ」
「……本心は?」
「合法的に戦える滅多にない機会を逃すわけにはいかん!!」
お見通しだったかと笑いながらベレリヤの第二王子、シエルギータは炎を纏った拳を突き合せる。
戦場の熱さを可視化したような火の粉が散った。
「さあ、ミュゲイラ! 休むのにはまだ早いぞ、もう一戦だ!」
「お、おう! ウィスプも残ってるしな!」
「いや、それより先に片づけるべきものがいる」
シエルギータはミュゲイラの背後を指さした。
見れば散らばっていたスケルトンの欠片がぞろぞろと寄り集まり、一体の大きなカラフルスケルトンを作り出している。骨の内側には透明なアメーバ状の生物が蠢いており、それらが骨と骨を組み合わせているようだった。
ミュゲイラは引き攣った声を漏らす。
「もしかしてスケルトンの正体……本体ってアレか!?」
「そうらしいな。何度か『倒したスケルトンが蘇った』という報告があったが、なるほど……こういうことか」
シエルギータは静夏と同じ橙色の目を細め、あっという間に見上げるほどの巨体になったカラフルスケルトンを睨みつけた。
すべてのスケルトンの正体がスライムなのか、それとも一部のスケルトンだけなのかはミュゲイラたちにはわからないが――目の前にいる巨大スケルトンを倒さなくてはならないということだけは、一貫してはっきりとしている。
「厄介だが炎で燃やし尽くし、拳で入念に叩き潰せば沈黙するだろう。やるぞ!」
「キモいけど仕方ないな……よォし、筋肉のきの字もない奴らにデカい顔はさせてらんないな! 行くぞシエルギータ!」
ミュゲイラは全身の筋肉を唸らせ、目前に迫った戦闘に心躍らせるように走り出した。
口元に笑みを浮かべたシエルギータは腕の炎を燃え上がらせて呟く。
「本当に良い女だな、お前は」
しかしその隣に似合う者はすでにいる。
ミッケルバードのどこかで筋肉を猛らせているであろう姉の姿を思い浮かべ、シエルギータはミュゲイラに続いて地を蹴り走り出した。
シエルギータ(絵:縁代まと)
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