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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十三章

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第881話 頼もしい番人さん

 伊織は二針目、三針目も慎重に縫い進め、ほんの少しずつながら着実に穴を閉じていた。

 ずっと凝視しているせいで目が乾く。

 ほんの少し目を離したからといって針と糸が消えてしまうわけではないが、そうわかっていても瞬き一つにすら気を遣ってしまうのだ。


 そして閉じれば閉じるほど、世界の穴の抵抗は強まっていた。


 魔獣を生み出す速度が早まり、その作用でこちらの世界のものが緩やかに吸い上げられていく。最初期の様子と比べれば優しいものだが――地上で戦う仲間たちには僅かながら影響があった。

 吸い込む力により不意に予想外の方向へと体が傾くことがあり、常に足場の悪い場所で戦っているような状態になってしまったのだ。


 加えて足場の悪い場所で戦う訓練を積んでいたとしても、真上から強大な力で吸い上げられたことにより体勢を崩した場合の対処法を学んでいる者はいない。

 なにせそんなことを学ぶ機会だけでなく、本来ならそんな予想外のシチュエーションを想定して学ぶ必要性すらなかったのだから。


 人類側からすればじつに奇妙なシチュエーションでの戦闘だ。

 吸引力が強まれば最前線で行動できる戦闘力は自ずと少なくなってしまう。

 元々穴の向こう側に居た魔獣には影響は無いため、これからは時間の経過と共に魔獣側が有利になっていくことだろう。まさに時間との勝負だった。


 伊織は深呼吸をしながら針を進める。

 その隣でヨルシャミとナレーフカは魔獣を警戒していた。


「ナレーフカよ、私の傍から離れるでないぞ」


 ヨルシャミは伊織の集中を削がないように小声で囁き、周囲から聞こえる魔獣の唸り声に耳を澄ませる。


 ナレーフカは魔力操作は上手いが、魔導師ではない。

 肉体も少女の姿のままだが、しかしだからといって打たれ強いわけでもなかった。

 延命装置のおかげで致命傷でなければある程度の傷は早く治るが、魔獣の容赦ない一撃を食らえばそれっきりだろう。父のヘルベールが心配しているのもそれがあってのことだ。

 ナレーフカはこくりと頷くとヨルシャミに背をくっつける。


「背後の警戒は任せて」

「うむ、頼む。――危険と判断したら遠慮なく言え」


 魔力温存のために大技は使えないが、露払い程度なら可能だ。

 そんなヨルシャミの心強い一言にナレーフカは口元を綻ばせ、直後にこちらへ向かってくる細長い何かに気がついてハッとする。


 それは何匹ものナナフシを引き延ばして組み合わせ、無理やりドラゴンに仕立て上げたような魔獣だった。


 チープでシュールだが飛行速度があまりにも早く、先頭のナナフシの先端が尖っていることから魚のダツのような殺傷能力があることが一目で見て取れる。

 ナレーフカはそれを知らせようと口を開きかけ――刹那、赤い閃光のように飛んできた魔法少年キャッティー・ネロ、もといネロによりナナフシドラゴンは蹴り上げられた。


「イオリの邪魔をするなよ、なんか変な奴!」


 バサッ! っとコウモリ羽が瞬間的に大きな音が出るほどの勢いで空気を掻き、真上へと高速移動したネロはくるくると宙を舞っていたナナフシドラゴンを鷲掴むとちょうちょ結びにして地面に叩きつける。

 その一連の流れはあまりにもスムーズで、伊織が見ていたなら「肉弾戦系魔法少女ものアニメみたい!」と感想を零していたであろうことは明白だった。


 それに加えてやぐらに忍び寄ろうとしていた中型の魔獣も先ほどのちょうちょ結びナナフシドラゴンが激突して事切れている。

 ネロはナレーフカに手を振ると追加とばかりに飛んできた他の魔獣へと向かっていった。


「む……。そっち方面の方が魔獣が多いな。ナレーフカ、代わろうか」

「ううん、大丈夫よ」


 ナレーフカは落ち着いた声音でヨルシャミにそう言うと、休まず飛び続ける赤い閃光を目で追いながら言った。


「とても頼もしい番人さんが居るもの」


     ***


 真正面から向かってくる凶悪な目をした赤黒いハチドリ型魔獣の群れを見据え、ニルヴァーレは炎を纏ったマントをはためかせると炎の混ぜ込まれた竜巻を左右に作り出す。

 高熱を周囲に撒き散らしながら魔獣を挟み込んだ竜巻は群れを引き裂き、舞い上げながら羽毛の欠片も残らないほど綺麗に消し炭にした。

 なんとか回避した数羽もニルヴァーレ自ら接近し、周囲へ散開する前に背中から生やした風の鎌で確実に屠っていく。


「凄まじい戦い方してるな、あの人……」


 先行していた魔導師がぽつりとそう零し、隣にいたベレリヤの騎士団員が「聖女マッシヴ様のご家族らしいぞ」と説明する。

 間違ってはいないが、かなり気を配った補足が必要な話だ。

 しかし残念ながら周囲にツッコミを入れられる人物はいなかった。じつに手痛い不在である。


 ニルヴァーレは「まだまだ戦えるよ、さぁおいで!」と魔獣たちにアピールし、魔法陣を展開させると様々な召喚獣を呼び出した。

 近接から遠距離までひとりで賄える上に、多種多様な召喚獣まで操る姿に騎士団員たちは小さく呟く。


「敵でなくてよかった~……」


 数年前までは敵だった人物である。

 しかしやはりツッコミ役はおらず、ニルヴァーレは地を駆け前へと出た。その視界に巨大な卵が入る。


「あれが件の卵か、禍々しいじゃないか」


 聞いた通りヒビが走っており、時折動いているようだった。

 伊織の仕事はまだ終わっていない。

 孵るのを少しでも遅らせるために周囲に風の壁でも作るべきか、とニルヴァーレが考えていると、表面に走っていたヒビが突然大きく開いた。


「……!」


 目を見開いたニルヴァーレは咄嗟に風の壁を作り出す。

 ただし卵の周囲ではなく、仲間を守る形で。


 その直後、卵の殻が散弾のように周囲へと飛び散り、数多の悲鳴が上がった。

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