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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第三章

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第73話 進捗どうですか?

 ロスウサギ誘拐事件で捕まった犯人は全快後に罪を償うことになっている。

 しかし街に裁判所があるわけではないため『どう償うか』は基本的に街の有力者が集って決める形式なのだという。

 もちろん各有力者は他の住民たちの意見を訊いて吟味している。


 その結果、今回は盗難事件についてのみ扱い、盗賊として活動していた頃の余罪については不問ということになった。

 伊織たち元日本人から見ると甘い判断に見えるが、この世界では遠く離れた場所の罪の証拠を確認することすら困難なため、こういう形に落ち着くことが多いという。


「この世界の贖罪ってどうなってるんだろって思ってたけど、基本的に現行犯でないとダメなんだな……」

「ああ。とはいえ、もし証拠が後から見つかった場合はきちんと審議して償いを上乗せするそうだ。自供も都度都度求められるだろうな」


 伊織の言葉に静夏は朝食のパンを頬張りながら頷く。


「もっと人の集まる都市ともなると少し変わってくるようだが、この辺りではまだこの形式がポピュラーなようだ。ちなみに首謀者のロトウタは数年間牢に入ることになるらしい」

「数年間……」


 その年数についてはまだこれから話し合われるらしい。

 有力者の中にはロスウサギ畜産協会の人間もおり、ロスウサギを扱う者に厳しいと有名だそうだ。

 裁き方が偏っていそうだなと伊織は不思議な不安感を抱いたが、この世界で成り立っていることなら口を挟むのは出過ぎた真似というものだろう。少なくとも今のところは。そう自身を落ち着かせる。


 最近は目覚める時間がみんなバラバラだったが、今日は久しぶりに全員集合して宿屋の簡易食堂で朝食をとっていた。


 外で買ってきたものを部屋で食べることも多いが、こうして起き抜けに見知らぬ人々のざわめきが聞こえる場所で朝食を食べるのも楽しいものだ。

 そこで各々が最近の活動について報告しあっていたところだった。


「母さんは犯人の子たち……ええと……」

「双子はジェスとリリアナというそうだ。他の男性ふたりはホーキンとリバート。魔法を使えるほうがホーキンだな」


 あの時リータを人質に取ったのはホーキンだという。

 複雑な気分になりながら伊織は話を続けた。


「母さんはそのジェス君たちを街の人たちに信頼してもらえるように活動してるんだよな、それって具体的にどんなことしてるんだ?」

「あっ、それ聞き込みの最中に見かけたぞ。マッシヴの姉御ってばすげーんだ、あいつら引き連れて街の人たちと……」

「人たちと……?」


 先を促す伊織にミュゲイラは座ったまま筋肉を見せつけるポーズをしてみせる。


「マッスル体操してたんだよ!」

「マッスル体操してたんです!?」


 ミュゲイラの報告に思わず声を上げた伊織は瞬時に口を両手で塞いだが、宿の主人や他の客はさほど気にしていないらしい。

 ほっとしつつ伊織は「なんで……?」と率直な疑問を母親へぶつけた。


「マッスル体操は要するに我々の前世でいうラジオ体操だ。この街の者も知っていた。ならばそれを皆で行なえば親近感が湧くと思ったんだ。それに彼らのリハビリにもなる」

「ピュア……」

「体操後はジェスたちを連れて街の清掃活動、あとは困っている人を募ってボランティアをしている。その際に彼らの魔法を活かすことで、恐ろしいだけの力ではない……と知ってもらおうと思っているんだが……」


 やはりなかなか上手くはいかないのだろうか。

 そう伊織が訊ねると、静夏は首を横に振った。


「手応えはある。しかし地道な活動故、私たちがロストーネッドから離れた後も彼らに自主的に行なってもらう必要があるんだ。だがジェスとリリアナ、あとリバートはともかく、ホーキンが煮え切らないようでな」


 贖罪後にどのような道を歩むかは当人らに任せている。

 この街に留まらない、という選択肢ももちろんあるわけだが、もし再度犯罪を犯すつもりでいるなら話は別だ。

 静夏は今度もっとしっかりホーキンと話をしてみよう、とコーヒーを啜ってから素早く砂糖を三個追加した。前世でもあまり飲んでいる姿は見なかったため、思っていたより苦かったのだろう。


 話を聞いていたヨルシャミも頷く。


「そこは上手くやるしかあるまい」

「ヨルシャミはどうだ、魔獣についての情報は何かあったか」


 リクエスト通り伊織が昨日買って帰ったクロケットを頬張りながら、ヨルシャミはふるふると首を横に振った。


「周辺に出没していた魔獣はやはり例の巨鳥で間違いないらしい。あれから盗難被害と共にぱったりと聞かなくなった。他の魔獣は今のところ目撃証言はないな」


 とはいえ発見されていないだけの可能性もあるため、ロストーネッドを発つ日まで情報収集は続けるという。

 もし新たな魔獣が見つかれば発つ前に退治をする。もしくは次なる目的地までの道中で出るのならついでに倒しておく。そのためにも情報は必要だ。


「ふふふ、まぁ結果は芳しくなくともついでに観光もできる。一石二鳥であるな! どうだ、リータとミュゲイラも準備が落ち着いたら一緒に聞き込みせんか」

「はい、ぜひ! 食材を出発予定日に取っておいてくれるお店が見つかったんです。あとは他にも探したいものがあるんですけれど、そっちもそろそろ終わるので」

「あと調理器具とかも一部修理に出しといたぞ。はなっから中古のやつもあったから傷んでたしさ!」


 その修理も明日には終わるという。

 上々だ、と笑いつつヨルシャミは伊織を見た。


「イオリ、そっちはどうだ。それなりに激務のようだが」

「覚えることがいっぱいで混乱してたけど、ようやく落ち着いてきたかな……店長はいい人だし、先輩も頼りになるからどうにかこうにかやってるよ。前世でバイト経験があってもやっぱり勝手が違うって思い知ってるけどさ」


 バルドに伝言の話をしに行くのは仕事後の予定だ。

 ジェスたちはまだ病院で寝起きしているため、活動後は静夏が付き添って病院まで送っている。その過程でたまたま会ったバルドに聞いたところによると、明日、つまり今日退院するのだそうだ。

 検査の結果、完全な健康体だとわかったらしい。

 本当にどうなってるんだバルドの体はと伊織は思わずにはいられなかった。


「とりあえず……あと数日、頑張ろうか」


 出発までに一度は先輩、ネロを助けてみたい。そして感謝を伝えたい。

 そんな目標を密かに掲げつつ、伊織はみんなに笑いかけた。


 その日のブルーバレルも大盛況で、ネロに先日の話について訊くことすらままならないくらい忙しくなることは――今の伊織はまだ知る由もないのだった。

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