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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十一章

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第584話 猫耳蝙蝠羽少年 【★】

 オレンジ色を主体としたふわりと広がるスカート。それよりやや薄い色のフリル。可愛らしいリボンの揺れる赤い髪。そこから覗くオレンジ色のネコミミ。

 そして特筆すべきは背中のコウモリ羽だろう。

 先ほど真横から足音もさせずに急接近したところを見るに、高くは飛べないが短時間の低空飛行程度なら可能な羽らしい。

 コウモリ羽の特徴を持つ稀少種族か、はたまたドラゴニュートの亜種か。

 そんなことを考えていたヨルシャミの目に映ったのは知り合いの顔だった。


「……んなっ……ネロ!?」

「え!? あれ!? 聖女一行の……うわぁ!」


 ネロもこちらの正体に気づいたのか、顔を真っ赤にすると自分の服を隠すように腕を回した――が、もちろん隠れきるはずがない。

「み、見ないでくれ見ないでくれ! 知り合いに見られるのは精神ダメージがデカい!」

「あー、いや、その、似合っているぞ?」

「そういう褒めはいらないから!」

 涙目なネロを見つつヨルシャミは目を細める。

「一体全体何がどうしてそうなった……と思ったが、もしやそれ、ネコウモリか?」

「!? わかるのか?」

「なんとなくな。……そうか、同郷のウサウミウシが不定形だったくらいだ、そやつも形を変えられるのか。それにしても完ッ全に服だが!」

「仲良くなったから、その、力を貸してくれるようになって。なんかコイツの特殊能力らしい。ただ……」

 ネロはどんよりとした顔をする。


「一度変身すると半日くらいこのままなんだ」

「呪いの装備であるな……!」


 ネロはそれをネコウモリの『お纏いフォーム』と呼んでいた。ネコウモリが心から信頼した者にひっついて姿形を変えるらしい。

 変身したネロはネコウモリの趣味なのかはたまた『元からそういうもの』なのか、ふりふりスカート姿になる代わりに常に強化魔法がノーリスクでかかっている状態となり、空間把握能力も格段に上昇するという。

 ただ半日は解こうと思っても解けないのはノーリスクとは言えないのではないか、とヨルシャミはなんとなく思った。

 事情を聞いたヨルシャミは頬を掻く。

「そうか、しかしまさか別れた後にこんな遠い国にまで訪れていたとはな……」

「……道案内はネコウモリに任せてたんだけど、うっかり船に乗っちゃって……まあこれも縁だしってここで修行がてらここで魔獣退治をしてたんだ」

 マッスルマウンテンに来たのもここの魔獣の噂を聞いたからだとネロは言った。

 そして少し落ち着いたのか腕を離しつつヨルシャミたちに問う。


「お前らはどうしたんだ? 二人だけか? イオリたちは?」

「イオリは……」


 ヨルシャミは一旦地面に視線を落としたものの、すぐに事情を説明すべく口を開いた。

 ネロは初対面の時こそ不穏ではあったが、トンネルで離ればなれになった際に伊織を助けてくれた恩人でもある。

 そして短い間ではあったが仲間だ。伊織とも絆を結び、お互い約束をして別れた。

 なら知っておくべきだと思ったのだ。


 別れた後に訪れたベルクエルフの里、ラタナアラート。

 そこで遭遇したナレッジメカニクスの面々と『協力者』であるエルセオーゼ。

 敵であるシェミリザとオルバートにより伊織を連れ去られ、彼を洗脳されてしまったこと。

 自分たちは現在東ドライアドのペルシュシュカによる占いを頼りに各地に散っていることを掻い摘んで話していく。


 聞き終わったネロは心配げに眉根を寄せた。

「――そうか、そんなことが。他の奴らも心配してるだろ」

「ああ、だがきっと取り戻してみせる。イオリの生きる道を他者にひん曲げられてたまるものか」

 そう静かに言ったヨルシャミを見てネロは表情を和らげる。

「そういうことなら俺にも協力させてくれないか?」

「よいのか!?」

「もちろん。まだイオリに報告出来るような救世主にはなれてないけど、当のライバルがそんな状況だって知ったら何もしないままでなんていられないからな。手始めに……」

 ネロは頭のリボンをトントンッと指で叩く。

 するとリボンがするりと変形し、紙で作ったメガホンのような形状になった。

「この山にイオリが居ないかどうか確かめられればいいんだよな。俺がやってみる」

「魔法……の類、か?」

「ネコウモリの特殊能力のひとつだ。こいつって鼻が効くだろ、他にも耳が良いみたいなんだ。ただ鼻より疲れるみたいで普段はセーブしてるらしい」

 その能力を『お纏いフォーム』中ならネロも一日に一度だけ使用できるのだという。

 大分規格外だが、元を正せばネコウモリはあのニルヴァーレが召喚したもの。召喚魔法が最も得意というわけではなかったが、その辺の高位魔導師よりは大分長けている。ニルヴァーレも天才の部類であることは間違いない。

 ヨルシャミは「では頼む」と頭を下げるとネロに調査を任せた。

「じゃあ五分ほど静かにしててくれ。……いくぞ!」


 ネロは大きく息を吸い込むとメガホンに向かって声を発する。

 メガホンを通された声は無音となり、代わりに衝撃波のようなものだけが四方に駆け抜けていった。


 反響してくる音もヒトの耳には聞き取れなかったが、ネロの頭についた猫耳はきょろきょろしながら取りこぼすことなく拾っているようだ。

 しばらく押し黙り、しっかり五分経ってからネロは口を開いた。

「この山に今いる人間は俺たちだけみたいだ。魔獣も他にはいない」

「音の反響でそこまで知り得るとは……」

「信じられないか? もし不安ならお前の魔法でしっかり調べてもらっても――」

「いや、信用はしよう」

 笑みを浮かべてそう言い切ったヨルシャミにネロはきょとんとし、そして笑みを返す。

「回数制限はあるが期間中毎日協力してもいい。山の中じゃなくて街中だと今のイオリがどんな背格好かわからないから精度は落ちるが……」

「ありがたい。私の魔法も有限故な、広範囲を一気に調べられる方法が増えるのは願ってもないことだ」

 山の中に他に誰か居るか否か。

 街の中に伊織らしき者が居るか否か。

 一日一回とはいえ、それがわかるだけでも段違いだ。どの道普通に探索している時でも四六時中探し続けるわけにはいかないため、探索の最後にこれを行ない一日の締めにする目安にもなる。


「締めか……まだ昼過ぎだが、ネロも加わったのならば夜になる前に街に戻って明日は街中で試しても良いが――ミュゲイラよ、大丈夫か?」


 ミュゲイラはネロが現れてから終始無言である。

 目当ての筋肉増強剤が魔獣に食われていたかもしれない事実を受け止められないでいるのではないか。

 そんな不安が過ぎってヨルシャミは大丈夫かと訊ねたが、ミュゲイラは顔を上げると目を輝かせて拳を握った。

「なあ、伝説の筋肉増強剤を飲んだ奴に武力でも筋肉でも勝ったって姉御に報告したら褒めてくれるかな!?」

「む、む? あー……まあ、シズカならば褒めてくれるだろうな、うむ」

「よっしゃー!! いやー、筋肉増強剤を手に入れられなかったのは残念だけどスゲー筋肉の奴と戦えたし、力試しにもなったし……今のあたしには必要なかったってことなんだろうな。よし決めた! これからも薬にゃ頼らず己の腕で頑張るぞ!」

 あ、でも、とミュゲイラはにっかりと笑ってヨルシャミの肩に手を置く。


「仲間の力はあたしの力、お前の支援は普通に頼りにしてるからな、ヨルシャミ!」

「……ははは! 任せるがいい、この超賢者ヨルシャミが居れば伝説程度の魔法薬より良い働きをしてくれるわ!」


 その光景を見ながらネロは「お前ら変わらないな……」と肩を竦めて呟いた。








挿絵(By みてみん)

ヨルシャミ(絵:縁代まと)


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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