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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十一章

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第581話 影の鳥 【★】

 ヨルシャミが魔力を節約して発動させられるのは今のところ闇属性のみである。


 肉体とは相変わらず相性の良くない属性ではあるものの、思考を司る脳と折り合いが良いのはとても大切なことだ。意識を明瞭に保てるなら相性の悪い肉体でもダメージが出づらいよう魔力を操作できる。

 ――という芸当も、天才であるヨルシャミだからこそ出来ることのため、通常の魔導師が同じような状況に置かれれば得意な属性であったとしても全身から血を噴いて死んでいた可能性が高いだろう。

 まず他の属性を持つ他者の肉体に脳移植されるシチュエーション自体が早々起こらないことではあるが。


 兎にも角にも闇属性なら橋渡しの魔石を失った今の状態でも多少の融通が利く。

 そこでヨルシャミは「大規模な召喚魔法を使う」とミュゲイラに宣言した。


「大規模な召喚魔法? つまりウジャウジャ召喚するってことか?」

「うむ。今までも何度か行なったが今回はそれを上回る数を呼ぼうと思ってな。闇属性の世界から凡そ二百といったところか」

「にひゃくぅ!?」


 これでも山に放つには少ないのだぞ、とヨルシャミは肩を竦める。

「この数を長時間呼び、且つ探索命令を付与するのは少し骨が折れるが……あやつ、シェミリザとぶつかってから様々な削減と効率化訓練を行なった故な。事前に契約も済ませて予行練習も完璧だ」

「い、一体いつの間に……」

「お前が筋トレに励んでいる間に私が寝ていたとでも思ったのか……?」

「やー、なんかヨルシャミが魔法方面で勉強するって印象が未だに薄くってな~。なんか何でも出来そうだし」

 そんなミュゲイラの言葉を聞いたヨルシャミは己の腰に両手を当てて反り返った。

「ははは! そう、私は大天才の超賢者だ! しかしだからこそ伸びしろがまだまだ山ほどある! 才能に恵まれているからと停滞などしていられるものか!」

「勤勉っていうか何ていうか……いや、まあいいことか!」

「そうだ、いいことであるぞ! なにせ……」

 ヨルシャミは巨大な魔法陣を作り出すと召喚魔法を発動させる。


「……それにより得られる恩恵は、仲間のためにあるものだからな!」


 光り輝く魔法陣から黒く小さいものが次から次へと現れた。

 それはツバメのような体つきの小鳥であり、その小ささから一瞬群れている黒い蝶のようにも見える。

 しかし小鳥たちは蝶とは違い、はっきりとした羽ばたき音をさせながら四方へと散っていく。その黒い羽、足、くちばし、目を見ながらミュゲイラが「影で出来てるみたいだな」と感想を漏らした。

「ふは、まさに影で出来ているのだ。それ故に暗い場所でも目が効く。強い光は苦手とするが自然光くらいなら問題あるまい」

「へー、マジで探索にもってこいだな……」

「ただし防御がゼロだ。赤子がはたいただけで消える儚さなのが問題だな」

「うっわ、ウサウミウシの真逆!」

 呼んだか、とでもいうようにカバンの中から「ぴぃ」と聞こえ、ヨルシャミはそれを撫でながら「長所があれば短所もあるものだ」と再び歩き始めた。


「我々も自らの目でしっかりと確かめるぞ。……その筋肉増強剤とやら、古の魔法薬か何かか? どこにある可能性が高い?」

「詳しいことはわからないけど、簡単に見つかる場所じゃないと思う。それにあたし思うんだ、作ったとすれば筋肉に思い入れのある奴だ。そんでもってわざわざ隠してる。ってことは筋肉を酷使しないと辿り着けない場所なんじゃないか、って」

「要するに試しているということか。……」


 そんなのてっぺんしか無くないか、とヨルシャミは視線を上げる。この位置からだと頂点、拳のてっぺんは見ることができない。

「……いや、しかしその通りなら自らの肉体を使って辿り着く道中に存在している可能性もあるか。てっぺんでは試す目的を満たせても隠す目的を満たしきれん」

「ってことは空を飛んだりはしない方が良いな。よし、あたしらはとりあえず尺側手根伸筋側から攻めてみるか! ただし魔獣が見つかったらそっち優先で!」

 崖側を登る気満々でなかったのは救いだが、ヨルシャミ的にはどちらもハードである。

 セラアニスの肉体に重々しい筋肉がつかないことを祈りながらヨルシャミは思った。


(……見つける頃には筋肉増強剤など要らぬ体になっているのではないか?)


 真理かもしれないが、はしゃぐミュゲイラには言わぬが仏である。


     ***


 ――この世界に生まれ落ちた時、自分はモグラのような姿をしていた。


 周囲の木々や草花、岩など自然物はさほど物差しの代わりにはならない。それでもどうやら自分は大きいらしい、と気づいたのは意識を得てからひと月ほど経ってからだった。

 その間、本能は何かを食べることを強制したり、眠ることを強制したり、争うことを強制することはなかった。


 自分はただここにいれば良い。

 それだけで世界は侵され、それだけで自分の存在意義を守れる。


 他にも数体同じような使命を持った個体――仲間と言うべきか。そんなモグラたちがいた。

 群れる習性はなかったが、群れているとより効率良く世界を侵せる気がしたので共に行動し、人間に見つかりそうになった時は逃げ隠れもした。

 人間くらいなら簡単に殺せるだろうが、時々恐ろしく強い者がいることを我々は知っていた。弱い人間を殺して回れば強い人間が出てくる可能性がある。戦闘向きの力を持つ仲間はそれを狙うことがあったが自分たちには無理である。

 これらは初めから得ている知識だ。これこそ本能に刻まれた情報だろう。

 排除されては困る。

 そんな思いからこの地にしがみついてきたが、この日ついに我々は脅威に晒されることとなってしまった。


 三体だ。

 何かおかしなものが三体、山の中にいる。

 しかも何が目的かそれらは山中で何かを探しているようだった。


 ……ここで探しているなら我々のことだろう。

 そう思い、危機感をつのらせる。

 逃げていても向こうから本格的に探されればどうしようもない。巨体はどうしても目立ってしまう。どの道弱いなら小さく儚い姿にしてくれればよかったのに、と思ったのは何故だろうか。他の仲間は今までそんな不条理さに何も疑問を感じていなかったように思うが。


 疑問は本能からの声に呑まれて雲散霧消する。


 何としてでもここに居続けろ。他所へ移ると折角侵した部分が治ってしまう。

 そのために脅威を排除しろ。

 ――それが叶わないとしてもどうにかしろ、などと無理強いする本能は我々の事情など知らないのだろう。それでも喉から突き出るような衝動に背を押され打開策を探る。


 すると妙なものを見つけた。

 この世界のありとあらゆるものは我々を拒絶する。

 しかしこれは大丈夫、そんな気がして――我々は収められた器ごと、それを丸呑みにした。











挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

ヨルシャミとウサウミウシ(絵:縁代まと)


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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