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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十章

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第513話 パーティー潜入

 眠って目覚めれば時が進む。

 それを繰り返して迎えた外交パーティー当日。


 会場は城の敷地内だったが、人が多く集まることもあり開けた場所で行なわれることになった。

 昔は王族専用の魔法訓練場として使われていた広場だが、ここ数百年使われた形跡はない。理由は単純、王族に魔導師の素質を持つ子供が生まれなかったのだ。

 アズハルがたった一人とはいえ妾に異種族――長命種を選んだのも、魔導師の才能を羨んだからではないかと噂されている。

 広場の周りにある建物も本来は訓練の準備や必要品の保管に使われていたものだが、こちらも長らく未使用で施錠されていた。

 いくつかはパーティーの準備や休憩室として使われているが、すべてではない。


 ――その中の一つ、一番古ぼけており放置されている建物にバルドたちは隠れていた。


 潜入は数日前の夜の内に行ない、パーティー当日までここに潜んでいたのである。

 潜んでいる部屋は角部屋で、その途中の道に周囲と瓜二つの壁をステラリカの土魔法で作っておいたが、幸いにも誰かが訪れたのは簡易的な見回りが一回だけだった。

 古い建物のため若い見回りの兵士は詳しい間取りを知らず、単に「不審者がいないかどうか」のみをチェックしていたため訝しがられることはなかった。

 警備に当たる人数は多いが、やはりその分端々に監督の目が届いていないようだ。


 ルーストの目的はアズハルを直接確認し監視すること。

 今日弑逆を仕掛けよう、という気はないが、アズハルを確認するには必要なため今回もリオニャが同行していた。

「リオニャさん、大丈夫ですか?」

「はい、痛み止めを改良してくれたおかげでなんとか」

「……強い薬なんで作戦が終わったら元の薬に戻しましょうね、いくらドラゴニュートの血が流れててもリスクは減らせるなら減らしたいですから」

 心配げなステラリカにリオニャは頷く。

 ――リオニャを残してくる案もあった。特に強くそれを推したのが彼女を心配したメリーシャだ。

 しかしリオニャは、


「そうすると今月、少なくとも生まれるまでは丸々休むことになっちゃいます。つまり大きなチャンスを失うことになるので……わたしもそれは避けたいんですよ」


 そう言って譲らなかったのである。

 むしろこんなことになってすみません、と謝るリオニャに最後はメリーシャも折れた。その代わり帰ったら全力で休むことを約束する。

 そんなメリーシャが遠視魔法を使いながら言った。

「お相手さんの国の奴らが来たみたいだ、……他国からの友好的な取り引きなんていつぶりだろ?」

「五十年は聞かないな」

「豊かな国だって聞いたけど、商人たちの口振りからすると商い重視の国らしい」

 レプターラがどんな国であれ取り引きを行なえるなら挑んでみる、相手はそんな商魂逞しい国なのかもしれない。

 且つ、レプターラはいわば「周囲から手つかずの国」だ。そこにビジネスチャンスを見い出した可能性はあった。

「鉱山目的だ何だと言われているが、戦の噂を嗅ぎつけた武器商人紛いの国でないことを祈るよ……」

 バルドは目を細めて外を覗きつつ呟く。

 人間の目だと顔の詳細までは判断できないが、人の流れや動きから地位の高い者を見分けることは出来た。

「……あっ」

 そこでメリーシャが小さく声を漏らす。


「アズハルが来た。――けど、あれは……緑の目の奴だな」


 警備の兵たちと共に現れたのは緑の目をしたアズハルで、リオニャの言う赤い目のアズハルではなかった。

 国として重要な場でも影武者を使うのか、と観察していると、しばらく経って来賓とアズハルが何か会話しているのが見えた。内容まではわからないが随分と長く話し込んでいる。

 すると何かを言付けられたのかアズハルの脇に控えていた男が王宮の方へと走っていく。

 しばしの後、戻ってきた男がアズハルに耳打ちするなり来賓は嬉しそうに頭を下げて話は終わった。

「……何か確認しに行った?」

「取り引きでも持ち掛けられたのか」

「そういうのって王様に直接言うもんなのかな。……あっ、だからホラ、ご意見番みたいな人に相談しに行ったとか」

 手を叩くメリーシャにミドラが「こういう場所なら会場に居そうなものだが」と言う。

 メルカッツェは頷いた。

「それに近い役割を担ってる古参が何人か居るが、こいつぁ……全員ここに集まってるな。ただオレの記憶も古いモンだから最近そのポストに加わった奴がいたらわからねぇが」

「新人にわざわざ訊きに行くのは違和感ありますよね」

 ステラリカはそう呟きながら外の様子を窺う。

 視力強化魔法は水属性のため自分は使えない。メリーシャのような遠視魔法も心得がなく、短期間で習得するというのも難しい話だった。それでも生来の視力は良いので見ることは無駄ではない。

 その目の前で別の来賓と再び似たやりとりが行われていた。


「……あれがもし影武者なら、重要な取り引きをどうするか本物に訊きに走ってるとか?」


 そうぽつりと言ったと同時にまた言付けられた男が走っていく。

 その先にある王宮を見遣ってメルカッツェは頬を掻いた。

「それは、なんというか……影武者を立ててるわりにお粗末というか」

「けど可能性としてはあるね」

 バルドは王宮を見つめながら走っていった男が出てくるまでの時間をカウントする。初めに窓からちらちらと見えていた姿を考えると建物内でも走っているらしい。

 鍛えているのか疲れは見られず速度も一定。恐らくこの言付けは前から想定されたものだ。

 そんな男が戻ってきた姿を確認し、バルドは息を潜めたまま言う。


「建物内の構造は把握していないけど、あの出入り口から100メートル以内の部屋に居そうだ。入ってから戻ってくるまでさっきと殆ど時間が変わらないから、相手の返事はかなり簡潔なんじゃないかな」

「――もしそれが本物のアズハルなら部屋を特定しておきたいところだな。今回限りの私室じゃねェ可能性もあるが、もし当たりなら計画実行の際に役立つ」


 メルカッツェはしばし思案した後、自分とリオニャが侵入してみると言った。

「少人数の方が良いといっても二人だけじゃ危ないだろ、俺も行く」

「オリトさん……わかった、じゃあ三人だ。よしリオニャ、準備を――」

 振り返ったメルカッツェはリオニャの頭が想像より大分下にあったことにぎょっとする。

 リオニャは冷や汗を流しながら口をもごもごと動かし、小声で言った。


「あの、本当すみません、えーっとォ……う、生まれそうです」


 しばしの静寂。

 その後、全員声を出さずに顔と体で叫んだという。

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