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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十章

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第507話 ミドラは決める

 異種族の保護組織にルーストというものがある。


 ナスカテスラたちも道中で時折耳にすることがあったが、国に睨まれていることもありオープンに解放された組織ではなかった。

 基本的にあちらから接触することで拠点の場所を教えてくれるらしく、終ぞ見つけられていない。

 保護組織ならステラリカがそこに居る可能性もあるため、もし縁があるならベンジャミルタに仲介を頼めないか訊ねたが――答えはNOだった。

 ベンジャミルタも行く当てのない者を保護しているらしく、性質の似た組織なら……と思ったがそう簡単なことではないという。


「ルーストは異種族寄りの組織ですからね。というかむしろ八割以上が異種族で、しかも過半数が人間から酷い目に遭わされてる。よっぽどのことがない限り私たちの目標に賛同はしてくれないでしょう」


 ナスカテスラたちを引き連れて廊下を進みながらリョムリコはそう言った。

 ――結論から言うとリスクを話し合った上でナスカテスラたちとベンジャミルタは手を組むことになり、二人はアジトの世話になることとなった。今は二人に与えられた部屋への道案内をリョムリコにしてもらっている最中だ。

 部屋はスペースの都合上一部屋のみ。

 通されたのは当たり前だが窓のない一室で、しかし閉鎖感が出ないように天井が高く作られていた。

「風呂は大浴場形式らしいね、後で久しぶりにさっぱりしようじゃないか」

「そうだね、随分汚れてしまった! ……が、ねえさん、なじむのはやいな……」

「協力するって決めたからには早く慣れちゃった方が過ごしやすいからだよ」

 旅人の適正が高いなぁと笑いながらナスカテスラは荷物を置く。


(さて、とんでもないことになったな。王都に連絡するのは今しばらく控えた方が良いか……)


 王都への連絡手段である伝達用召喚獣を呼び出す訓練は今も続けており、大分形になってきた。報告を届けようと思えば可能だろう。

 いつでも伝えられる手段がある。

 そのことを再確認しながら、ナスカテスラは高い天井を見上げる。

 たしかに閉鎖感は薄いが、空が見えないのが少し残念だった。


     ***


 妊婦が薪を割っている。

 それも素手で割っている。


 コーンッという小気味いい音を聞きながらミドラはイモの皮剥きをしていた。

 仲間たちはリオニャを休ませたがったが、本人曰く「少しは動いてた方が楽ですし体力もつくのでいいですよォ~」とのことで薪割りを買って出たのが十数分前。

 あっという間に積み重なった薪はミドラなら倍の時間を要しただろう。

(リオニャのために何かしてやりたいが、……)

 わりと何でもこなしてしまうので出る幕がなかった。

 ミドラはナイフを動かしながら小さく溜息をつく。


 ――バルドは想いを伝えるだけ伝えてみてはどうか、と発案したが、あれから何度考えてもミドラの答えは「無理だ!」だった。

 墓まで持っていくと決めた想いだ。それは自分の凡ミスで為されなかったわけだが、だからといって恥の上塗りはできない。

 ミドラは性別に関係なくリオニャが好きだ。そもそも長命種は生殖目的以外でくっつくことがあるため性別は二の次だという者も比較的多い。

 最初のきっかけは些細なことで、ルーストに保護されメルカッツェに紹介されたリオニャを見た瞬間に「かわいい」と「腹筋が逞しい」という温度差のある感想に頭が混乱し、その混乱故によく目で追い、気がつけば戦士として見直し、そして頭が落ち着いてもリオニャのことをしょっちゅう見ている自分に気がついたと同時に理解したのだ。


 これ惚れてるな、と。


 しかしミドラは奥手極まる。

 生まれて四桁の年数は経っているが、こういったことは初めてだ。酷い環境で生きてきたせいでそれどころではなかったというのもあるが。

 ひとまず伝えることはあるまい。胸に秘めておこう。いい経験が出来た。

 そう思っていたのだが――無理だという結論を出しながらも今もぐるぐると悩んでいるのは、本当は伝えたいからなのかもしれない。

(しかし……む、無理だ……!)

 両耳をしょげさせたところで隣で一緒に昼食の準備をしていたメルカッツェが乾いた声を漏らした。

「ミドラ、お前ぇ何か悩んでんのか?」

「……いや、特に何も。悩むほどじゃないが、なかなか目的の人物が見つからないなと思ってただけだ」

「そういうレベルかよ……ほら手元見ろ」

「?」

「イモが鉛筆みてぇになってるぞ」

「!」

 そこには皮どころか中身まで細長く剥かれたイモがいた。

 よく折れなかったなとメルカッツェは手元を覗き込む。ミドラの技術力の高さが垣間見えたが、本人はしどろもどろになりつつ「こ、この方がスープによく溶けて食べやすいかと思って」と苦しい言い訳をしていた。


(いや、まあ嘘ではないぞ。リオニャにとって食べやすいものにしたかっ……、……)


 ハーフドラゴニュートのリオニャは悪阻がほとんどなかった。今も何でも好きなものをもりもり食べている。故にこれは「本当」だとしても不要な気遣いである。

 やはり出る幕がない。

 それでもリオニャに何かしてあげたい。

(……ああ、やっぱり)

 彼女に旦那が居ようがそれで自分が失恋しようが、好きなものは好きなのである。

 ミドラは心の中で決める。


 もしベンジャミルタが見つかり、ルーストの計画を実行に移すことになれば自由な時間は減るだろう。

 その前に何かひとつでも自分が納得できる形でリオニャに対して出来ることを見つけよう、と。

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