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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十章

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第482話 セトラスの置き土産

 サルサムたちはまず拠点にしているボルワットの首都を中心にナレッジメカニクスの痕跡がないか調べた。


 どうやらベレリヤの各所のように集団で人間が消えるという事件も起こったことがないらしく、ナレッジメカニクスは人口の多いベレリヤを実験場もしくは材料の調達場所として使っていたことが伝わってきた。

 しかしだからといってボルワットに彼らが潜伏していないとは限らない。

 引き続き調査を続行し、ある日リータが次の目的地を指したところでサルサムが挙手した。

「そこなら近くに俺の知人が住んでるんだ。寄っていってもいいか?」

「知人ですか? もちろんです、積もる話もあるでしょうしゆっくり――」

「ああいや、近況報告に行くわけじゃないんだ」

 サルサムは自分の荷物を手元に引き寄せる。

 手を突っ込んで取り出したものはずっしりと重かった。


 ――ラビリンスでナスカテスラ達と交戦し、そしてリータとサルサムが射貫いたセトラスの銃である。


 あの時、銃だけ残して落下したセトラスは塔の底に着いた時にはナレッジメカニクスに回収されていた。

 しかしナスカテスラが拾っておいた銃は奪取されることなく手元に残り、巡り巡ってサルサムが持つことになったのだ。

 銃は元は転生者の故郷の武器だが、静夏は使い方を知らないという。

 バルドは不在。そして伊織も連れ去られ居ない。

 遠距離攻撃が可能な武器だが弓矢とはどう見ても異なり、皆が持て余していたため『多様な武器の扱いに慣れている』という理由でサルサムが預かることになったのである。

 交戦中に確認した感じからして殺傷能力が高い、使い方もわからず所持するのは危険だ、しかしラタナアラートやラキノヴァに置いていくのもナレッジメカニクスが回収に現れたら厄介である――というわけで持ち歩くことになったわけだ。

(俺本人としても自分は役者不足だと思うが……)

 他の皆がそれより適していないなら仕方がない。

 それにサルサムには心当たりがあった。


「その知人は俺の父親の友人なんだが、古今東西の武器マニアでな。その知人が昔ベレリヤに来た際に見せてもらった武器の中にこれに似たものがあったんだ」

「……!? 銃がですか!?」

「ああ。ガワが似てるだけかもしれないが、その人に会えば……もしかしたらコイツの使い方がわかるかもしれない」


 サルサムは片手で持った銃を見下ろす。

 投擲以外の遠距離攻撃の手段が欲しかったところだ。小指の一部の欠損は命中率を僅かに削っている。

 銃も握るために指の力が必要だが、致命的な欠点にはなっていなかった。

「どの道元々の武器の使い方も調整が必要だ、ならついでにコイツの使い方を覚えて選択肢を増やしておくのもいいと思ってな」

「つ、ついで……」

 それをついでと言ってもいいのだろうか。

 リータはぽかんとしたが、すぐ仕切り直して笑みを浮かべた。

「妙案だと思いますよ、イオリさんを連れ戻すのにまた戦うことになるかもしれませんし! ……」

 そして笑みを作ったまま、ほんの少しの間だけ足元を見る。


 ――銃の元持ち主は自分がこの手で射った。

 延命処置済みとはいえ人間を、だ。


 落ち込んでいる暇などなかったため見なかったことにしてきたが、目を逸らしたままでいていいものでもない。

 人間を殺すつもりで射ったのは初めてで、野生動物や魔獣を射貫くのとは違った感覚を残していった。

(……)

 後ろで支えてくれたサルサムの気配と手を思い出す。たった一人でこれを背負わなくて済んだのは彼のおかげだ。だが彼に同族を射らせたという罪悪感も仄かに残っていた。

 そんな彼に、彼が射った人物の武器を使わせるのが嫌だと思うのはエゴだろうか。

 そうリータは悩み、だが表に出る前に言葉を紡ぐ。

「使い方がわかることを祈ってますね!」

「ああ、まあ運試し程度に考え……」

「それでっ! その人がいるのはどこなんですかっ?」

「やたら食い気味だな……!?」

 面食らいつつサルサムは広げた地図を指した。


 次に目指す予定だったのは首都から東に進んだ先にある街。

 そしてサルサムの知人がいるというのはその街からやや南に逸れた場所にある、ホーグレイという村だった。



 ボルワットは端的に言えば物作りの国である。

 ベレリヤでの評価は『小さいながら強い存在感を有する国』であり、それは手先の器用な者が多く所属し多種多様な物品を作って輸出しているからこその評価だ。

 鉄などの鉱物の産出が多い、昔から多様な布と糸が作られている、丈夫な粘土が採れるなど様々な理由があるが、この状態を安定して保っているのは物作りの職人に国からの金銭的サポートが出るからだろう。

 国自体が自国の売りを理解しているんだな、と各所を見て回りながらサルサムは思った。


 ホーグレイに住むサルサムの知人、ミカイルという男性も職人の一人だ。

 武器マニアが高じて本人も武器を作るようになり、元は別国の出身だがボルワットに移住し店を持ったのだ。

 サルサムの父、ルーカスと出会ったのもその武器関係だったという。

 サルサムは十代前半の頃に会ったきりだが、溌溂とした三十代の男性だったと記憶している。

 今なら四十代後半から五十代といったところだろうか。

 時間が過ぎれば人も変わるため、ある程度は――そう、ある程度は変化を予測していたが。


「おお、イラッシャイ! 好きに見てってくれよ!」

「……ミカイルさんはいるか?」

「うん? オレだが?」


 そうきょとんとしてサルサムたちを見たのは、スキンヘッドの男性だった。

 しかも逆三角形の黒いサングラスをかけ、体はムキムキとし、なぜか肩パッドがトゲトゲである。じつに世紀末な雰囲気だった。

 流れた時間は人を変える。

 しかしどうしてここまで変わったんだ、とサルサムは思わずにはいられず、しかし言葉にすることは必ず少しの間だけ遠くに見える薄らいだ山々の影を見つめた。

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