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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十章

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第454話 夢路の自己鍛錬、そして。

 夢路魔法の世界での訓練が開始された。

 一人目は真っ先に挙手したミュゲイラである。


「よいか、筋肉を鍛えることは叶わんが咄嗟の判断力や体に動きを覚えさせること、それが目的だ」

「わ、わかっ……わっ……」

「そしてこの世界ではどのような怪我をしようが死ぬことはない。今回は上限設定のある痛覚をONにしてあるがな。まぁそういうわけだ、スパルタでゆくぞ!」

「わっ……わかってるけどこれはアリなのかー!?」


 ミュゲイラの二倍はある大きな熊、象、獅子、果てはなぜかマンボウまでもがそれぞれ複数後ろから追ってくる。

 まるで悪夢のような光景にミュゲイラは叫びながら逃げていた。迎え撃とうにも数が多すぎる。

 ヨルシャミは丸太をイス代わりに座り、安全圏からそれを見守っていた。その隣にはセラアニスもおり、走り回るミュゲイラを心配げに見ている。

「お、多すぎません? 死ななくても痛いんですよね?」

「痛みがなければ覚えが悪いからな。まあもし手も足も出ないなら少し減らして調整してやろう。……だが」

 ヨルシャミはミュゲイラの方を指す。

 全速力で走っていたミュゲイラだったが、固まって追ってくるなら分散させればいいと気がついたのか少し離れた森の中へと突っ込んでいった。木々に邪魔をされ、一部の動物が迂回する。障害物を薙ぎ倒して進む猛者もいたが、代わりに進行速度が遅くなっていた。

 バラつきが出たところでミュゲイラが森から出てくるなり体の向きを変える。

 彼女を唯一ぴったり最後まで追っていたのは森慣れした熊だった。


「纏まってないなら負けないからな!」


 熊は三体居たものの、その内一体を引っ掴んで持ち上げたミュゲイラが熊を鈍器代わりに振り回して残りの二体を相手取り始めた。あまりにも豪快すぎる立ち回りだが、とても彼女らしい。

「……やる気満々であろう?」

「は、はい、ええぇ……すごい……」

「やる気のある者に手を抜くのは逆に失礼というものだ」

 ヨルシャミは楽しそうにその光景を眺めた。今度は追いついた獅子を蹴りで転倒させ振り回している。

 二体の像だけは同時に相手をしたくないのか、ミュゲイラは考えた末に敢えて挟み撃ちにされる形になるよう立ち回り、そして――衝突する寸前に天高くジャンプし、象と象を衝突させノックアウトさせた。

 アイアムウィナー! とポーズをとっていたところで二体のマンボウが飛び跳ねながら追いつく。

 ――見るからにヘトヘトだった。


「……ヨ、ヨルシャミ〜! こいつらさすがに可哀想じゃね!? 海とかないのか!?」

「海での訓練相手は別に考えてある」

「海の訓練もあるのか……!」

「それらは陸で対応してみせよ」


 そのために作り出したものだ、とヨルシャミは言う。

 ミュゲイラは恐る恐るマンボウたちを見た。息も絶え絶えといった様子だが、見た目はマンボウなものの肺呼吸をしているように見える。

(なら単純に動きにくいのか……でもなぁ、弱ってる奴を相手にしても訓練にならなさそうだし……あ! そうだ!)

 何かを思いついたミュゲイラは笑顔でマンボウたちに駆け寄っていく。


「おーい! お前ら! 海は無理でも川とかなら連れてってや……るぐォはッ!?」


 まるでロケットと見紛うほどだった。

 突如ジャンプしたマンボウがミュゲイラの腹にクリティカルヒットしたのである。

 見事に吹っ飛んでいったミュゲイラを眺めながら、ヨルシャミは頬杖をついて呟く。


「……やる気満々ではあるが、やはり油断と甘さがあるな」


 ――それは失望からではなく、今後の成長を見据えた言葉だった。


     ***


 二人目はリータである。


 魔法弓術に重要な魔力操作はすでに王都でヨルシャミに師事した際に最適化しており、再確認しても無駄はなかった。

 今課題としているのは消費魔力のコストカットと威力についてである。

「昔より威力は上がったんです。多分対人戦なら申し分ないんですが、魔獣相手だと決め手に欠ける攻撃になっている気がするんですよね……火柱の矢も派手だし強みはあるけど大型の魔獣へのダメージとなると物足りないですし」

「遠距離攻撃であることを鑑みると十分すぎるほどではあるが……」

 どうにもリータは静夏並みの一撃必殺になりえる攻撃手段が欲しいようだ。

 こういった威力へのこだわりはミュゲイラよりも強いのかもしれない。

「消費魔力を抑えられれば余裕の出来た分を威力に回せるんじゃないかって思うんですけど、どうでしょうか?」

「ふむ、可能な者は可能だが威力を上げすぎると制御が難しくなるぞ。リータの矢は即時に放てるのが強みの一つ故、ここは威力よりも『現時点での最大火力を保ちつつ如何に多くの矢を放つか』を重要視してみないか」

 制御に集中力や時間を取られるよりも戦闘時の利点となるはずだ、とヨルシャミは言う。

 リータとしては妥協になってしまうため、若干迷った表情をしている。そこへひょっこり現れたのは――バスケットを持ったセラアニスだった。

 目をまん丸にしたリータはすぐに笑みを浮かべる。

「セラアニスさん!」

「リータさん、先日はありがとうございました」

 セラアニスも笑みを浮かべてリータとヨルシャミに駆け寄った。

 先日、というのはエルセオーゼとの対話の時のことである。あの時は落ち着いて会話できるような時間を取れなかったが、今は違う。

 リータは眉を下げて問い掛けた。


「その、……大丈夫か問うのはやめておきます。でも何か力になれることがあったら言ってください……!」

「……! ふふ、心配してくれてありがとうございます」


 セラアニスはまったく無理をしていない笑みを返すと木のテーブルに持参したバスケットを置く。

「じゃあ早速力になってもらってもいいですか?」

 その申し出にきょとんとしたリータにセラアニスはバスケットの中から取り出したサンドイッチを見せた。

「夢路魔法の世界でも一人っきりの食事は味気ないんですよ。だから一緒に食べながら方針を話し合いませんか?」

「……戦闘に関する話題ではあるが、リラックスして話すことも大切だろう。リータよ、方針に加え今まであったことをセラアニスに話すといい。積もる話には事欠くまい?」

 セラアニスと同じ顔をしたヨルシャミからも揃って誘われ、訓練だと意気込んで力んでいたリータは気が抜けた様子で笑う。


「そうですね……ええ、そうです。話したいことがいっぱいあるんですよ、セラアニスさん!」


 そして、そう言ってサンドイッチを受け取った。

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