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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十章

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第451話 意味不明な結果 【★】

 ステラリカの時と同じ方法でバルドのことも占っていく。


 居場所に関してはステラリカとほぼ同一。これで一緒に行動している可能性が上がった。

 姪が一人きりで彷徨っていなくてよかった、とナスカテスラは胸を撫で下ろす。いくら土魔法や強化魔法を使えるとはいえ女性の一人旅、しかも土地勘もなく物資もほぼないとなっては危険どころではない。


 しかしやはり転生者が絡むと占い内容はあまりアテにならなくなるらしい。

 予知は結果の変化が出るが、占いはその影響が更に大きいようだ。なにせ。

「……蜂の巣なる山の麓で大根を得て霧を食む、繁栄得し旧知は涙し青いつるつる溺死の如し」

「具体的なようで全然そうでもないな!」

 ――占い結果がこの有り様である。

「まあ仕方ないわ。それにこれが当たっているかどうか確かめられるのは該当する瞬間に到達した時くらいよ。それまでは当たりもハズレも両方同じものだからね。……さぁさ、次よ次!」

 ステラリカとバルドの次はシァシァだ。


 占う対象と関りのある物品、または人物を触媒にすると精度が上がる。

 ステラリカの時のナスカテスラのように今回はシァシァの名刺を用いることになった。

 名刺を額に当て、ペルシュシュカは再び蛍のような光たちを呼び出す。――が、直後その表情が険しくなった。

 ヨルシャミはペルシュシュカとは違う魔力の流れを見て眉根を寄せる。

(名刺に仕組まれていた魔法が反発しているのか。事前に指示された防衛反応の一種であるな)

 ここは自分が動くべきか、と半歩進んだところでペルシュシュカが手の平を向けて制止した。

「露払いくらい自分でできるわ、なにせ占術だけはアタシの領域なの」

 シァシァにだって負けないんだから。

 そう言ってペルシュシュカは目を見開く。


「――頑張ってるところ悪いわね、邪魔しないでもらえるかしら!」


 名刺に向かってそう言い放った瞬間、阻害していた魔力の流れが断ち切られ光の粒が部屋中に散らばる。

 ペルシュシュカはガリガリと紙にペンを走らせていった。

 ステラリカやバルドの時より複雑な図形が多い。しばらくそうして右手だけで書きつけた後、機械のようにぴたりと止まるとペルシュシュカは長い長い息を吐いた。

 そして自分の書いたものを解析しながら言う。

「つっかれるわね本当……! でもひとまず纏まったわ」

「どうなった?」

 ヨルシャミの問いにペルシュシュカは頷く。

「各地を転々としている暗示が出ているわね。あと個人の運気は良いけど、それが必ず本人にとって良いものとは限らない感じかしら」

「伊織は傍に居そうだろうか……?」

 静夏が訊ねるとペルシュシュカは眉尻を下げた。

「多分居そうね、所々びっくりするくらい占い内容の解像度がさがってるから。ほら、これとか酷いでしょ、添い寝ぽかぽかハムサンドはうまい」

「子供の日記か!」

 ヨルシャミのツッコミにペルシュシュカも同意する。

「これなら本当に予知系の魔法を使ってもいいくらいだわ。……おっそろしいから勘弁してほしいけど」

「ペルシュシュカよ、その恐怖心はわかる。無理強いはしない故、ここは安心してくれ」

「頼もしいことね。……一旦休憩を挟みたいところだけど、いっぺんに終わらせちゃいましょうか。最後は伊織ね」

 またとんでもない結果が出そうである。


 ヨルシャミたちが身構える中、ペルシュシュカは多少億劫げな動きで魔法陣を作り出すと『藤石伊織』について占った。

 光の粒たちの位置は四回とも違う。

 それらからペルシュシュカは占い結果を導き出しているようだが、その技術はヨルシャミにも見ただけではわからなかった。四回目でもそれは変わらない。


 その作業が一段落ついた後、ペルシュシュカは真剣な表情で目を開いて言った。

「伊織の結果は――す……スイカ割り」

「スイカ割り……!?」

「一家団欒、朝食美味。翁臭し、花火虫捕り川遊び、子守りの暗示」

 セリフが進むたびヨルシャミは眉を歪ませる。

「予想していたことではあるがバルドやシァシァよりも更に意味不明であるな」

「解釈に困るわ、これでも一応噛み砕いたんだけれど……ああ、少しまともなのがあるわね」

 ペルシュシュカは紙に躍る文字を確かめるように何度も目で追いながら言う。


「新境地に達す、得るものは兄弟。被保護者であり保護者」


 訳のわからなさは据え置きじゃん、とミュゲイラが脱力した。

 しかしこれもどこまで当たっているかわからない。すべて大ハズレ、ということも大いにある。慎重になりつつヨルシャミはペルシュシュカを見た。

「で、居場所に関する情報は?」

「この情報の中に含まれてるかもしれないけれど……アタシの見たところだとシァシァと同じくどこか一ヶ所を拠点にしながら色んなところを飛び回ってるように感じるわね。分散しすぎ」

「ふむ……」

「滞在期間の差までは出なかったから本拠地がどこかもわからないし、飛び回ってる目的だってわからないけど……んんっ!?」

「な、なんだ!?」

 突然ぎょっとしたペルシュシュカに一同も息を呑む。

 ペルシュシュカは何度も紙面と睨めっこした後、髪の椿を揺らしながら首を傾げては目を細めた。

 そしてぽつりと言う。


「……女装の気配がする」


 ナスカテスラやメルキアトラは堪えたがヨルシャミはテーブルにもたれかかるようにしてよろめいた。

「何がどうなってそうなったのだ!?」

「詳しくはわからないわ、けれど……至高に会わせてくれたアンタたちの色濃い関係者、そこに女装の気配が出てるとなれば、……これは……」

 ペルシュシュカは苦悩するように眉間にしわを刻む。

 あ、これはそんなに緊張するものじゃないな、とサルサムやナスカテスラは瞬時に察したが、静夏は素直にハラハラしていた。

 ペルシュシュカは自分の眉間のしわを人差し指で揉み解すと握りこぶしを作る。

「アタシ……アタシ……今だけは働いてあげる! 博打の娯楽も含めてね!」

「も、もしかして女装の気配っていうのを確かめるために私たちに同行してくれる……んですか?」

「アナタ察しが良いわね、その通りよ!」

 言い当てたリータを笑顔で指さし、ペルシュシュカは髪を掻き上げた。

「それに至高とも共に居られるしね! ……さて、じゃあ結果を踏まえて発案してあげる」

 ペルシュシュカは三枚の紙を手に言う。


「さっき言った通り伊織はかなり色んなところに出向いてるようね。感覚的なものだけど信憑性の高そうな訪問先を時系列順に並べてあげるから、近い順に行ってみなさい。ただ……」

「ただ?」

「時間の誤差が大きい可能性が高いこと、そしてその誤差も含めたタイミングの範囲が被っていることから各所に人を分散させ一定期間待機させた方がいいわ」


 つまりグループ分けをして待機する必要があるということだ。

 スカを引くかもしれないことを考えるとリスキーだった。しかも待機先にはベレリヤ国外も含まれる。アイズザーラの命令で動かした人員を配置するのは難しく、個人として動ける者が向かう必要があるわけだ。

 それに加えてステラリカたちが居るかもしれない場所へ赴くグループも必要となる。

 あまりにも戦力を分散させれば伊織を見つけても奪還できないかもしれない。

 思考を巡らせつつヨルシャミは静夏を見た。

「……シズカよ、この案どうする」

「皆に負担をかけることになるが、ひとつに纏まってアテもなく転々とするよりは遥かに良いと感じる。……デメリットも理解した上で私は賛成しよう。だが皆は」

 深刻げな様子の静夏に笑ったのはリータだった。

「これくらいの危険や労力なんてどうってことないですよ。ね、お姉ちゃん」

「……! おうっ! 姉御やイオリのためならアタシはいつだって力を貸しますよ、それにバルドが居ないと静かすぎるし、ステラリカも早くナスカテスラに会わせてやりたいですしね!」

「乗り掛かった船から降りるほど半端な奴らじゃないだろ、こいつらは」

 サルサムは「俺もそうみたいだが」と小さく付け加えながら言う。


「なるほど、国を背負っているとこういう時に思うように動けないわけか」

「兄様」

「口惜しいが国内のポイントは俺たちに任せろ。……王都で戦った際もシエルギータと共に感じたことだが、各地の魔獣退治にそろそろ我々も出るべきだと思っていたところだ」

 そうすれば無駄なく確認に向かえ、見張りと称して私兵も配備できる、とメルキアトラは言った。私兵の配備は人目につくなら怪しまれないよう『要請により派遣された騎士団員』のふりもできるという。

「多重契約結界の強化で我々が王都に滞在していなくてもある程度防衛はできるしな」

「……何から何まで世話になってすまない」

「可愛い甥っ子のためでもあるんだ。王都じゃあまり話せなかったし、ゆっくり会話する機会を得るためにも伯父として頑張らないとな」

 それを聞いていたペルシュシュカは肩を揺らして笑った。

「他の人たちも含めて答えはもう出てるみたいね」

 静夏はゆっくりと頷く。


「――ああ。ではその案、乗らせてもらおう」






挿絵(By みてみん)

メルキアトラ、静夏(絵:縁代まと)


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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