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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第十章

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第429話 女装交流会・本番

 予定の時間が近くなり、さあこれでペルシュシュカが来なかったら気まずいどころじゃないぞと一部の人間が心配し始めた頃。


 真っ先に反応したのはオーラの見えるヨルシャミとナスカテスラだった。

「来たね!」

「少し早めに来るとは……やはり効果てきめんだったようであるな」

 面倒臭がり屋を極めていることを考えるとこの時点で最高点を叩き出しているのではなかろうか。

 そう考えていると屋敷の玄関扉をノックするでもなく声をかけるでもなく、唐突に扉の開く音がした。

 会場となる広間は玄関から少し進んだところにある。案内をと待機していたリータが慌てて訪問者の後ろを走ってくる音も聞こえた。

「ま、ま、待ってください、ちゃんと案内するんで!」

「案内もなにもすぐそこじゃないの、人のざわめきでいっぱいよ」

 高いヒールの音が耳に届く。

 それと同時に広場へと繋がる扉が開かれた。


 ――モスグリーンの長いウェーブヘアーを後ろで緩く纏め、目元に朱色の模様を入れた男性、のはずだった。

 誰もが一瞬判断に迷ったのはチャイナドレスをベースにした女物の服とハイヒール、黒タイツを身に着けていたからである。

 髪には所々に赤い椿が咲いており、その特徴を鑑みるに彼が東ドライアドであることが予測できた。

 そしてこの街にはドライアドは一人しかいないはず。


「お前が……ペルシュシュカか?」


 ヨルシャミはじっと目を凝らして言う。

 魔導師としての才能は上々、体内に魔力も多い様子である。

「ええ、そうよ。随分と手荒な招待をしてくれたわね」

 彼――ペルシュシュカは己の髪を軽く払うと三角の連なった耳飾りを揺らして広間に入る。

 もしや招待に乗ったのではなく文句を言いにきたのか。そう身構えているとペルシュシュカは深呼吸をした。

 更に深呼吸をした。

 そして一旦広間にいる面子を目で確認し、再び深呼吸をした。

 あることに気がついたメルキアトラが口元を引き攣らせる。

「あ、これ意識して『女装してる人の多い空間の空気』を吸ってるな」

「ホンモノ中のホンモノではないか!!」

 思わず鳥肌を立てたヨルシャミが叫ぶ。

 ペルシュシュカは澄ました様子でヨルシャミを一瞥した。

「安心なさいな、女の子にこんなムーヴかましたりしないわ。これは女装にときめくアタシの心が赴くままに行動した結……果……、……あら?」

「な、なんだ」

「……おかしいわ、アタシのアンテナが微妙に反応する……」

 不可思議なものでも見るような目をしたペルシュシュカはヨルシャミを頭の先から足の先まで確認したが、やはり女の子に見えるのか口を引き結んだ。

 ヨルシャミはハッとして気合いを入れ直すとペルシュシュカに言う。


「わ……我が名は超賢者ヨルシャミ! 故あって脳のみ男性である!」

「脳のみ男性!?」

「肉体は正真正銘の女性であるがな! ペルシュシュカよ、お前がどう判断するかはわからぬが……見よ!」


 そうヨルシャミは広間に並んだ女装男性たちに手の平を向けた。

「一国の長子にして王子! 宮廷治療師! 完璧なる女装をせし者! ラキノヴァ騎士団の面々! そして脳だけ男の私! ……こんな多種多様な女装はなかなか見れぬぞ。どうだ、しばしここに留まり話をしないか?」

「……ふふ、たしかに早々お目にかかれないでしょうね。でもアナタたちの目的はアタシに何か仕事をさせようっていうんでしょ?」

 ペルシュシュカは妖艶に微笑んで言う。

「アタシ働くの大嫌いなの!!」

「いっそ清々しいくらい言い切ったな!」

「大嫌いなの!!」

「二度も言うか!!」

 薄化粧がどこかへ行くのではないかと思うほど壮絶な表情をして言ったペルシュシュカはそのまま一気に落ち着いて言葉を継ぐ。

「でもね、心に嘘はつけないわ。そこでチャンスをあげる」

「チャンス?」

「アタシをもてなして心の底から楽しいって思わせてくれたら、それに見合うだけの仕事をしてあげる。魔獣を全滅させる方法を占ってとか無茶振りは勘弁だけどね」

 ヨルシャミは静夏と視線を交わし、彼女がひとつ頷いたのを見ると「いいだろう」と言った。

 元よりここでペルシュシュカを接待しその気になるよう仕向けるつもりだったのだ。


「では、あー……て、手始めに! お前の肩でも揉んでやろう!」


 ――しかしヨルシャミはもてなし下手であった。

「あ、基本的に過剰なお触り厳禁ね。アタシからもべたべた触ったりしないから」

「難度が上がったな!?」

「アタシのポリシーなの、女装子は見て愛でるものよ。ただ性的に好きだから邪な目では見るけれど!」

 宣言のせいで一気に視線が気になったナスカテスラやモスターシェたちが一歩引いた。というよりもモスターシェは大きいナスカテスラを盾にするようにして陰に隠れている。

 その瞬間「そうそれ!」とペルシュシュカが男の声で言った。

「恥じらって隠れる女装男子! まず100点!」

「存外採点が甘い……!」

「恥じらっているのとは違う気がするけどね!」

 ナスカテスラはずり落ちそうになる眼鏡を押さえつつ冷や汗を流す。なかなかに個性のある人物のようだ。


「こんな感じで一万点取れたら考えてあげてもいいわ。期限は日没までよ」


 時間制限と必要点数が思っていたより厳しい。

 一同は緊張感と「なんだか帰りたくなってきた」という気持ちを感じながら頷き、火蓋は切って落とされたのだった。


     ***


 お触り厳禁、ということでまずはトークで楽しませてみようと会話をしてみた結果、会話は特に面白くはないが「慣れない女装姿で必死に会話をしようとしている姿に100点!」と一応点数は得られた。


 なお、この会話の際にペルシュシュカの女装好きは『自分が女装する』というものも含まれているとわかった。

 自覚している性は男性であり女装は完全に趣味と性癖だという。

 口調もその一環で普段は違うようだ。

 東ドライアドにしては珍しい名も偽名――というよりもペルシュシュカ曰く「新天地で生きると決めた時に自分で付けた名よ!」とのことだった。

 女装なら分け隔てなく何でも好きだがヨルシャミのことは判断に迷っているらしい。


 おもてなしには女性陣も参加している。

 ペルシュシュカは女装男性が好きだが別に女性を見下したり蔑ろにしているわけではないらしく、追い返されることはなかった。

 ちなみに静夏のことは一目で女性と判断し「質の良い筋肉ね」と褒めていた。

 褒められてはにかんだ静夏がパフォーマンスとしてメルキアトラとナスカテスラを右手と左手に乗せて持ち上げ「まさに両手に花じゃないの!」とペルシュシュカに大ウケし、1500点貰ったため女性が点数を狙うのも有りなようだ。


 そこでリータが即興で服を作り男性陣のお召し替えを行ない、ペルシュシュカから拍手喝采を受けた。

 ただし衣装はペルシュシュカのリクエストを受けたものになり、初めに着ていたものより大分趣味に走ったもの――メイド服やペルシュシュカと同系統のチャイナドレス、ウェイトレス服にネコミミ尻尾など少々マニアックになったため男性陣は喜んでいいのか少し迷っている。

 メルキアトラはなぜか渾身のギャグをペルシュシュカに披露。

 しかし彼が反応する前に自分で笑って膝から崩れていた。これは「さすがに何をしたいのかわからないわ」という評価を受けたが間髪入れずに「俺もそう思う」「でも素直だから100点」というやり取りが行なわれたため、何がしたいのかわからないという感想はヨルシャミたちの方が合う。

 メルキアトラは咳払いしつつペルシュシュカを見た。


「そういえばまだ言ってなかったな。世の中に関わるのも嫌うお前のことだ、きっと知らないだろうが――俺に娘が生まれたぞ」

「一児の父が女装!? 属性に磨きをかけたわねメルキアトラ、ご祝儀に2000点!」


 やはりお気に入りのメルキアトラには少し採点が甘い。

 サルサムはメルキアトラの肩を叩くと「ダンスは出来るか?」と問い掛けた。

「多少は嗜むが」

「じゃあ俺の歌に合わせて即興で踊ってくれ。なに、失敗しても愛嬌になるだろう。騎士団員の連中もついでに巻き込もう」

 難しい注文だな、と言いつつもメルキアトラは了承する。

 サルサムはペルシュシュカに一言許可を取り、息を大きく吸って女性の声のまま歌い始めた。気を利かせたヨルシャミが照明代わりになる色とりどりの炎を召喚する。

 サルサムの歌。その予想外の上手さにミュゲイラがぎょっとした。

「うわ、うっま……!」

「……あら、この歌……アタシの故郷がある大陸のものね」

「え? つまりお前が生まれたところの歌なのか?」

 ペルシュシュカは笑いながら首を横に振る。


「大陸のもの、ってだけで故郷とはぜーんぜん! けど耳にしたことはあるから懐かし……い……見てちょうだい! 歌の雰囲気と合わないちぐはぐなダンス! 可愛いわねね、800点!」

「突然エグいテンションになるなよぉ!」


 耳を下げるミュゲイラをよそに、歌い終わったサルサムはふうと息をついた。

 ペルシュシュカは赤いマニキュアを施した手で拍手する。

「あなたこの国の出身? よく知ってたわね」

「前に仕事先で東の国出身者がいたんだ」

 これ一曲しか覚えてないけれど、とサルサムはにっこりと笑う。営業スマイルだ。

「良い感じだったわ、今度他の曲を教えてあげたいところね」

「……あの」


 そこでおずおずと手を上げたのはリータだった。

 手には数字を書いた紙。そう、リータはカウント係である。


「一万点貯まりました……!」

「えっ、あら、思ってたより早かったわね」

「判定がガバガバであった故な。――さあ、ペルシュシュカよ。考えてはもらえそうか?」

 ヨルシャミの問いにペルシュシュカは目を細め、どこか蛇を連想させる顔で言った。


「そうね、アタシは――」

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