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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第九章

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第397話 ナスカテスラ墜つ(物理) 【★】

 セトラスは塔の階段をゆっくりと上り、狙撃に適した場所を探す。


 役割は聖女とその仲間たちの足止めである。

 拳銃一丁では役者不足だが、要はオルバートとシェミリザが目的を果たすまで下に向かわせなければいい。そのためにはある程度上の方――最下層の様子を見て飛び降りる発想に至らない高さで迎え撃つことになるが、真正面から撃つ必要はないのだ。


(聖女辺りなら高所でも落下に耐え得る。そしてサモンテイマーたちも適したものを召喚できる可能性がある。今自分の足で下りているのは様子の見えない下層を警戒してのこと)


 セトラスは拳銃を握り、比較的小さな窓から身を乗り出し外を見た。

 本来ならカメラアイをもうしばらく休ませたいところだが、恐らくこれが今回最後の仕事だ。もう少しだけ頑張りますか、とどこか諦めたような気持ちになりながらセトラスは再び眼帯を外す。

 未だ充血したカメラアイで確認すると――30メートルほど先に歩く聖女たちが見えた。

 予想はしていたが幻覚が完全に切れている。

 さすがにライフルほどではないが、セトラスの拳銃は通常の拳銃より強化されており30メートル――距離にして大体日本のビルの9階~10階相当でもまだ有効射程距離内である。

 加えてこの目があれば狙うことは可能だ。

 セトラスは呼吸を整えると聖女たちを凝視する。


(聖女は駄目ですね、また素手で止められたら堪ったもんじゃない)


 決めた、とセトラスは引き金に指をかけた。

 足止めなら即死よりも負傷させた方がいい。どうやらナスカテスラも同行しているようなので効果は薄いかもしれないが、ただでさえ疲弊している彼に回復魔法を連続して使わせるというのは良い手だ。

 そしてセトラスは躊躇いなく引き金を引いた。


     ***


 最初に呻いたのはナスカテスラだった。


 何か光るものが窓のふちに当たったかと思うと、跳ねてそのままナスカテスラの足に命中したのである。

 勢いが削げて貫通はしなかったが――その傷と跳弾という特徴から、ラビリンス内で狙撃してきた敵を思い出した静夏は即座に「頭を下げろ!」と指示をした。

 しかしどうやら狙っているのは即死になりえる頭部や心臓ではなく、足や胴体のようだ。

「先刻とは目的が違うようだな……」

「マ、マッシヴ様! このままじゃ狭い通路で全員身動き取れなくなりますよ! 早く下りて――うわっ!」

 駆け足で下りようとしたモスターシェの目と鼻の先を銃弾が掠める。

 静夏は眉根を寄せて目を細めた。

「……精度が前より落ちている」

「む、向こうもジリ貧ってことですか?」

 如何なる方法で高度な狙撃を可能にしているのかはわからないが、ライフルによる狙撃の際も徐々に精度が下がっていたところを見るに、そう長々と行なえることではないらしい。

 足を回復させたナスカテスラは一時的に水の防壁を張った。


「よし、集まれ! 魔力残量的に数分しかもたないからね、敵の位置確認をしたら作戦会議だ! あと怪我も治すから撃たれた者は位置を申請するように!」


 ピンポイントな回復魔法で節約する! とナスカテスラは次々に治しながらランイヴァルに窓から敵を確認するよう指示する。

 なお貫通しなかった銃弾そのものは傷を回復させても出てこない――正確には出てくるほど強力な回復魔法を今は使えないので痛みだけ麻痺させる、という宣言でそこかしこから「うわー! 早く帰りてぇ!」という悲鳴が上がっていた。

「……随分下ですが身を乗り出してこちらを撃っている者がいます。あれは……さきほど居た青い髪の男ですね」

「あれか! ――そういえば髪の長さで気づかなかったが……過去に無謀にも俺様を勧誘しに来たのはあの男だった気がするな!」

 ナスカテスラもナレッジメカニクスから勧誘を受けたことがある。

 その際訪れたのもあの髪色をした男だった。

 当時はあそこまで髪が長くなく、目立たないよう白衣を身に付けず現地に溶け込んだ衣服だったのですぐ結びつかなかったが――それでも特徴の濃い人間に記憶を刺激されなかったのは、落ち着いたとはいえステラリカを見失い余裕がなかったからだろうか。

「ここまで野蛮だとは……、……シズカ! 君が全速力で階段を駆け下りたらどれくらいかかる?」

「直線なら3秒もかからないが、銃弾を避けて階段を下りるなら15秒は欲しい」

「これ15秒でいけるんですか……」

 ミカテラが思わず震えて呟く。

 よし決めた! とナスカテスラはすっくと立ち上がった。

「こっちもこのままじゃジリ貧だからね、多分これは足止めと魔力枯渇を狙われてる! だからシズカは先行して下りてきてくれ! 他のメンバーも持てる全速力で追うこと! 俺様は――」

 そのまま窓枠に足をかけ、ナスカテスラは片手を上げて言う。


「落下してく!」

「ら、落下!?」

「こちらで妨害はしてみるが防御はランイヴァルに任せたよ!」


 そう言ってナスカテスラは風魔法でブーストをつけて飛び降りた。

 目指すはセトラスのいる30メートル下の窓。通常の落下でも2秒から3秒ほどで到達する。斜めのため本来ならもう少しかかるかもしれないが、それは風魔法で補助をした。

 ナスカテスラは浮遊できるほどの風魔法は使えない。

 落下している間も降り注ぐ驚異的な銃弾の勢いを前面にのみ張った水の防壁で削ぎ、それでもなお肉を抉るそれを甘んじて受けながら即時回復させる。

 それと並行して行なわれる風魔法による角度調整。セトラスもそれを把握したのか忌々しげな顔をして階段側へと退く。


 そして、ナスカテスラは窓からセトラスの居る階層へと減速せずに突っ込んだ。







挿絵(By みてみん)

Twitterのタグで描いたハグネタのナスカテスラと静夏+α(絵:縁代まと)


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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