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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第二章

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第35話 ミホウ山の洞窟探し

 レハブ村への道のりは徒歩で一日必要だというのに、バイクと静夏の足にかかるとまさしくあっという間だった。

 村は簡素な田舎といった雰囲気だったがカザトユアへの経由地にする旅人や商人も多いのか閉鎖感はない。村からも何人かカザトユアへと仕事に出ているのだという。


 移動が素早くできたおかげで物資の調達は最低限で済んだ。

 念のためミホウ山への道のりを村人に再確認し、その際「山に登るならこれくらいの装備はしていきなさい」と勧められた山登り向けのブーツと手袋を購入したのだが、他の土地で買うよりそれなりに良い値段だった辺りレハブ村の村人は強かだった。


 そうして再びバイクを召喚して山へと移動を開始するも――


「む、ストップだイオリ」


 ――そうヨルシャミに止められ、伊織はバイクを停止させる。


「どうしたんだ? なにか忘れ物?」

「お前の魂の地力がありすぎて失念していたが、長時間の召喚はあまり体に良くない。魔力の枯渇は……恐ろしいことにほとんど心配いらないようだが、召喚されている側にも負担はある」


 バイクの方に? と伊織は目を瞬かせた。

 今のところエンジンやその他の部分におかしなところはないが、これから不調が現れないとも限らない。

 ヨルシャミがハンドルを撫でる。


「うむ、召喚する側と召喚される側、それぞれ魔力残量が違うという感じだな。熟練の魔導師は召喚対象に自らの魔力を与えることができるが……お前はまだ未熟、いくらバイク側も信頼しきっていようがこればっかりは勉強不足だ」

「う……耳が痛い……」

「というわけでもうしばらくクールタイムを置くことを提案する」


 ヨルシャミのその提案を聞き、サイドカーから降りながらリータが笑みを向けた。


「イオリさん、ここからは歩きましょう。馬だって休憩させるものなんです、バイクさんにも休んでもらわないと!」

「そうそう、それにソイツに乗ってれば楽ちんだけど、自分の足で歩きゃトレーニングにもなるしな!」


 伊織は自分の荷物を持ちながら頷き、バイクの車体を労うように撫でてからキーを引き抜いた。その動作をきっかけにバイクが送還される。


(トレーニングか……ミュゲイラさんの言う通り、クールタイムを置く以外にも体を鍛えるって意味でバイクを使う場面は選んだ方がいいかもしれないなぁ)


 楽さと移動スピードを優先すべき時と、時間をかけることで生まれる意味を優先すべき時。

 そのバランスが重要だな、と伊織は心の中で頷いた。


     ***


 斯くして徒歩でミホウ山へと向かい、到着した頃には昼を少し回っていた。

 山の麓は人間の手が入っており道らしきものもあるが、しばらく登ると道は消失し、代わりに獣道がちらほらと現れるようになった。


 山は森とは少し違う。

 リータとミュゲイラはこういった場所を伊織たちより歩き慣れていたが、気を抜くといつの間にか崖の間近を歩いていたりと油断ならない。

 登っているのか下っているのかわからなくなった場合は静夏がジャンプして位置を確認してくれたため、致命的な迷い方はどうにかこうにか回避できた。


「皆を抱いて見晴らしの良い場所まで跳べればよかったんだが」

「走る時と同じで呼吸できなくなって死にそう……」


 そうなんだ、と静夏はしょげる。

 力の使い方は上手くなった。応用もできるようになりつつある。

 しかし第三者を抱いて移動した場合、相手にかかる負荷などは静夏にはどうしようもないのだ。むしろこれは相手側である伊織たちが対処法を考えるべきものだったが、今のところ良案は浮かばない。


 それでも静夏は自力でどうにかしたいと考えているのか、拳を力強くぎゅっと握ってみせた。


「だが、必ず力を完璧にコントロールできるようになって負荷の分散をしてみせよう。今はどうしようもなく感じても未来がどうなるかはわからない」

「応援してるっすよ、マッシヴの姉御!」

「あ、あはは、僕らも鍛えなきゃな~」


 単純に走るのとは異なり、大跳躍は速度こそ要なところがあるので難しいのではないかと思うが、何故か静夏ならできてしまいそうな気がした。


 伊織は地図を開くと本日何度目かの洞窟の位置確認をする。

 目的地はそろそろなはずだが、それらしきものが視界に入らない。


「地図を見る限りは大きな川の近くにあるんだよな、高低差が書かれてないからわかりにくいけど……」


 川は恐らく右手側に流れているものだろう。

 ミホウ山の隣には更に高い山がそびえ立っており、そこから続く川のため山の中腹でも幅が中々のものだ。

 するとリータが声を上げた。


「――あっ! あそこ!」


 目を丸くしたリータが指さした先。

 そこには断崖絶壁と――その中央付近に位置する洞窟の入り口があった。

 ちょうど真っ直ぐな壁の真ん中にぽっかりと穴が開いているような図式だ。


 出入り口は上からも下からも距離があり、且つ周囲には小さいものの蝙蝠型の魔獣がキィキィと鳴きながら飛び交っている。

 恐らく洞窟の中にも他の魔獣が潜んでいるだろう。


「あ、あんなところに」

「なあ、あそこの村人さー……なんか商売慣れしてたけど、洞窟狙いで来た旅人がコレ見て諦めるの知ってたからじゃねーかなぁ……」


 ミュゲイラが半眼になりながら言った。


 魔石が採り尽くされるまでは地図に載り続ける。

 以前から洞窟の位置を見て諦めて戻ってきた旅人が何人かいたのではないだろうか。それを知らない新規客は地図屋からすれば良い鴨だ。


 もちろん魔獣がいるのは伊織たちも予想していた。旅の目的としては大歓迎である。むしろここまでの道のりが平和すぎたともいえるだろう。

 しかしまさかあんなに位置にあるとは、と伊織は洞窟を見上げる。

 崖は危険だ。危険だからこそ慎重になる。しかし慎重になると登るのも降りるのもゆっくりになるため、その間に魔獣に襲われ放題である。

 そのせいで手を滑らせれば重傷では済まない。


「ヨルシャミ、なにか役に立つ魔法とかは――」

「風の魔法を利用した浮遊法があるが、今の私だと……この人数なら三分くらいしかもたないな。倒れるまでやっていいなら五分は可能だが」

「倒れるのはご遠慮願いたいかな!」


 聞けば良質な魔石でサポートすればもっと危なげなく使いこなせる可能性があるらしいが、肝心の魔石が洞窟の中である。

 しかも採れるのが良質なものとも限らない。手に入るかどうかも不明中の不明。

 ここはやはり自力でいくか諦めるしかないのかと伊織が思っていると、静夏がそっと手を挙げた。


「三秒耐えてもらえるだろうか」

「……」

「……」

「……やるのか、母さん……」

「やってみたいと思っている」


 高速の跳躍。

 それなら確かに魔獣が反応する前に洞窟に入り込める。

 しかしそれには伊織たちは予想される強烈な重力に耐える覚悟が、静夏は正確に洞窟へ飛び込む細やかなコントロールが必要だった。

 まさか自身を鍛える前にこんな機会が巡ってこようとは。


(でも……うん、試さないなんて選択肢はないよな)


 ここまできたのだ、できることは試しておきたい。

 伊織はリータ、ミュゲイラ、ヨルシャミの三人と視線を合わせ、ごくりと唾を飲み込んでから頷く。


「……や、やってみようか」


 そうして四人は人力による紐なし逆バンジーに挑むこととなったのだった。

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