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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第九章

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第358話 サメ×サメ×サメ

「このままいくとヨルシャミの召喚獣のせいで早期に合流されてしまうね」


 オルバートはモニターを眺めながら軽く唸った。

 別所でサモンテイマーの騎士団員が同じことをやっているが、精度が違う。

 あれだけ離れているというのに匂いを拾うとはじつに恐ろしい。


 妨害の可否を協力者に問うと今そのための作業を進めていると返ってきた。

 ラビリンスに新たな道を作る等、そういった阻害や誘導も可能だが準備と発動までの時間が必要なのだ。

 なんだか処理落ちしているシミュレーターみたいだな、と意味が正確に伝わったなら協力者から怒鳴られそうな感想を抱きつつ、オルバートはデスクサイドに手を伸ばし――コーヒーなど淹れていないことを思い出して引っ込める。


 集中しようとするとついつい飲みたくなってしまうのだが、生憎ラタナアラートに持ち込んだコーヒー豆には限りがあり、今はすでに底をついていた。

 もう一度小さく唸ってから、今度はインカム越しに声をかける。


「シェミリザ、聖女の息子の誘導が難航しそうだ。少し手札を増やせるだろうか」

『あら、すぐやられてしまいそうだけれど召喚獣を送りましょうか?』

「召喚獣……ああ、それなら」


 オルバートはモニターに映っていた様子を思い返し、そしてシェミリザへと指示を飛ばした。


     ***


 時刻としては夜中である。

 もちろん夕食は済ませてきたが、それも数時間以上前だ。

 魔獣の痕跡を探すために歩き回ったこと、そしてラビリンスを彷徨ったこともあり伊織の胃はちょっとした空腹を訴えていた。


(多分そのせい……いや、確実にそのせいだよな……)


 ぴちぴちと跳ねながら伊織たちを先導するミニロブスターたち。

 火が通っているように見えるがこれがデフォルトの状態であり、べつに調理済みなのに動いているというわけではない。


 ――のだが、匂いがいい。


 しかもすぐに雲散霧消するタイプではなく、少し離れていても鼻に届く。

 ヨルシャミとリーヴァは気にしていないようだが、伊織はなんとなく電車内でどこからともなく漂ってくるハンバーガーの香りに耐えながら帰宅した日のことを思い出していた。


(いや、いやいや、でもヨルシャミがわざわざ召喚してくれたし、本人……本ロブスター? たちも頑張ってくれてるのに殻を剥いて食べてみたいとか失礼どころじゃないよな、うん、耐えろ僕)


 契約を果たすために向かった先で食欲を向けられるなど気の毒だ。

 こんなことなら携帯食料くらい持ってくるんだった、と思いながら伊織は口を真一文字に引き結ぶ。

 魔獣と対峙するかもしれない危険は予想していたが、しかしこんな奇妙な場所に閉じ込められるとは考えていなかったため、そういった類のものはウサウミウシ入りのカバンと共にツリーハウスに置いてきてしまったのだ。


(時間的にウサウミウシは寝てるだろうけど……)


 勝手になにか食べてそうだな、と思ったところでやや開けた場所に出た。

 外というわけではないが、迷宮内の中庭のような空間だ。

 等間隔に植わっている背の低い木は丸くカットされているが見通しが悪い。


 そこへロブスターがぴょんと前に出たところで、木の影から現れたウバザメのような巨大な口を持つものに纏めて食われた。

 ぎょっとした伊織たちは足を止める。


 口はまさしくウバザメだったが、顔はシュモクザメといったところ。

 しかし体の模様やヒレはジンベエザメというサメのキメラだった。

 青い炎を纏って空中に浮いている様子は通常の生物ではなく、まさか魔獣かとヨルシャミは身構えながら様子を窺った。その隣で伊織が拳を握る。


「ロブスターたちが食われた……!」

「召喚獣にあまり同情をするな、リスク前提で契約を交わ――」

「僕は我慢したのに……!」

「むっ!?」


 ヨルシャミの素っ頓狂な声にハッと我に返った伊織は首をぶんぶんと横に振って仕切り直す。


「いや、うん、ちょっと落ち着こう。ヨルシャミ、あれって魔獣か?」

「う……うむ、そう思いしっかりと見てみたが、召喚痕がある故、何者かが呼び出した召喚獣のようであるな」


 やはり魔獣以外にも魔導師が関わっている案件らしい。

 サメは片側だけ炎を噴射させて方向転換すると、残りのロブスターをあっという間に飲み込んだ。


 道案内以外に戦闘能力は持っていない召喚獣だ。抵抗することすらできなかった。

 その後にようやくサメは伊織たちを視界に捉える。

 優先順位がロブスターのほうが高かった。

 それはつまり召喚した者からそういう具体的な指示があったのだろう。


 そして、その指示を聞き終えた後は――伊織たちの番だ。


「……! 逃げろ! あれは人すら簡単に飲み込むぞ!」


 ヨルシャミの声が飛ぶなりサメは口を大きく開いて三人に向かってきた。

 三種とも比較的おっとりとした種のはずだが、性格は攻撃的なサメのものらしい。

 伊織はヨルシャミたちと反対方向に飛び退くと、ついさっき自分がいた場所を突っ切っていったサメに小さく声を漏らした。


「狭いけど……バイク! 来てくれ!」


 開けているとはいえ室内だ。しかし小回りが利くなら森にあった施設の時のようにある程度は狭くてもなんとかなる。

 伊織はバイクキーを空中に挿してバイクを呼び出すと片腕で飛び乗った。


 まずはヨルシャミたちを拾わなくては。

 そう発進させた瞬間、あと数秒遅れていたらリアウインカーを噛み千切られていた位置にサメが突進してきた。


「早ッ……!」


 短距離直線に限るようだがバイクの機動力に負けず劣らずのスピードだ。

 ただしパトレアのように競争をしようなどという意思も意図も思考もないため、競う気にはなれない。


「……っヨルシャミ! リーヴァ! どっちに逃げた!?」

「こっちだ! リーヴァはワイバーン化できん、一緒に拾ってくれ!」


 ワイバーン化できない? と伊織は首を傾げたが、すぐ納得した。


 通路はそれなりに幅があり、この空間も広いが植わっている木が邪魔なのだ。

 そしてこの木々も恐らく道の左右を挟むものと同じ特性を有している。

 移動中に木を切って突破は不可能と実験済み、つまり排除不可能ということだ。


 ロブスターたちもそれを試す前から当たり前のように木をひょいひょい避けて道なりに進んでいた。ロブスターたちに戦闘能力はないとはいえ、ここにあるような低木なら排除可能だというのにそれでも、だ。


 そんな中で大きな体躯になれば身動きが取れなくなってしまう。

 わかった、と頷いた伊織はバイクを声のした方向へ走らせた。

 ミラーを確認するとサメはまだ追ってきている。まるでミサイルのようだ。


 前方に見えたヨルシャミたちを確認するなり伊織はバイクを急停止させ、ふたりに乗り込むように指示をした。

 しかしサイドカーを出せるほど幅に余裕がない。


「イオリ様、バイクに屋根を付けてください。私はそこで大丈夫です」

「本当に大丈夫か!?」

「はい。サメに追いつかれる前にお早く」


 リーヴァは人間ではない、とわかっていても女の子をバイクの屋根に乗せるのは不安だ。

 だが伊織は覚悟を決めるとバイクに屋根を作り出し、そこにリーヴァ、自分の後ろにヨルシャミを乗せるとバイクを発進させる。

 まるで凄まじい道路交通法違反をしているピザ屋のバイクのようだ。


 真後ろに迫ったサメを隻眼で見つめながらリーヴァが言った。


「ダメ元で試してみます」

「へ? なにを――」


 質問をすべて口にする前にリーヴァは屋根に乗ったまま大きく息を吸い込み、そして真っ赤な炎のブレスをサメに向かって吐き出した。

 後方に向かってなびいていたスカートやリボンが熱風により前方へ吹き返され、小さな口から出たとは思えない量の炎が地面を舐めていく。

 それに飲み込まれたサメは一瞬だけ黒い煙を出したが、あっという間に炎の中から脱出した。


「やはり炎耐性が高いようですね」

「いや、しかし青い炎が相殺で減っている。相応してスピードも落ちたようだ、でかしたぞリーヴァ!」

「! 後で撫でてくださいますか」


 もちろんだ、と答えながらヨルシャミは後方をよく見る。

 水属性の攻撃魔法ならよく通りそうだが、未知なる場所で消耗の激しい魔法を打つのは最善手とは言い難い。他の属性の大技も然り。

 なら最適なのは――と考えていると伊織が口を開いた。


「ヨルシャミ、僕もリーヴァみたいに試してみたいことがあるんだけどいいかな」

「試してみたいこと?」

「うん。でもそのためにはあの青い炎をもう少し減らして、あと一瞬でもいいから足止めをしてもらう必要があるんだ」


 伊織はヨルシャミとリーヴァに自分の案を話す。

 ヨルシャミは少なくない抵抗感を示したが――いいだろう、と頷いた。


「成功した暁にはリーヴァと共に撫でてやる。……さあゆくぞ、炎の件と足止めは任せろ!」

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