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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第九章

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第332話 なんでゲームしてるんですか!?

 ――結局お目当ての道具は見つからず、明日に持ち越すことになった。


 探している道具は特殊な魔石をレンズ状に加工したモノクルのような形状をしているという。

 つまり小さい。普通の家の中ならさておき、ナスカテスラの倉庫の中ではもし手に持っていても一旦棚に置いたら見失いそうな勢いだ。


 ナスカテスラ曰く「黒い箱に入っていた気がするぞ!」という情報も絶望感を煽った。暗い色は見つけづらいのである。


「……しかし、なにやら種類別に分けたり箱に内容物を書いたりしてたが、あそこまでキッチリやらなくてもいいんだよ?」


 ナスカテスラは今晩も伊織たちと同じ家で過ごすことになっていた。

 夕飯の席でそう言った彼の視線の先にいるのはヨルシャミである。


 倉庫での彼は伊織から見てもなかなかのこだわりっぷりだった。

 多重契約結界に参加した際も情報を綺麗に整理することにこだわっていたが、夢路魔法の世界で見た過去のヨルシャミの部屋は雑然としていたのを思い出す。

 当時は逃げ隠れしていたので仕方なかったのかもしれない。

 もしくは最近になって整理整頓の楽しさに目覚めたか。


 ――と、伊織はそんなことを考えていたが、ヨルシャミが整理の才能に目覚めたのは伊織への嫉妬を申し訳なく思って物置き整理に没頭したのがきっかけであるため、最近どころではなかった。


「あれだけ広いと闇雲に作業しても確認済みの場所すら忘れるだろう。ならば一ヶ所ずつ的確に確認して整え、綺麗にしてゆく戦法のほうがいい。まあ運任せでたまたま視界に入るのを待つならば止めはせんが」

「止めはしないけどさ、君は手伝えと怒るだろう……!」

「使える手は使わんとな!」


 ナスカテスラは高い位置の箱を取る際に酷使されていた。


 今のヨルシャミだと台を使わない限り高所に手が届かないため致し方ない。

 そして床にも荷物が置かれている場所が多く、気軽に台が置けないのだ。

 そうすると選択肢は自ずと限られてくるわけである。


「でも一日目にしては結構進んだほうですよね」


 伊織がそう笑みを浮かべると、ヨルシャミは「エトナリカとステラリカが喝を入れてくれたのも大きいな」と笑い返した。

 ――なお、ヨルシャミがナスカテスラを弄るのは親愛の意味合いが強い。

 本気で嫌がっていればやめるだろう。

 しかしエトナリカの喝はそれなりに本気のものに見えた。


 耳は大丈夫ですか? と伊織が小声で訊ねると、ナスカテスラは両耳を一度だけ動かして口角を上げる。


「大丈夫だよ! まあ姉さんもあれで手加減はしてくれてるからね、ただ俺様は――あまり引っ張られ慣れてないから手加減されても痛い! つまり弱点だね! ダメージ一兆五千くらい入るやつ!」

「弱点……」

「エルフ種の子供は親から耳を引っ張って叱られがちなんですよ。体罰ってほどじゃないですし、すぐ慣れるんですけどね」


 リータがそう伊織に補足した。

 おしりぺんぺんみたいなものかな、と思いながら伊織はこの場にいるエルフ種の耳を見る。たしかに摘まみやすそうだ。


 つまり――ナスカテスラは子供時代は今の姿からは想像がつかないほど大人しかったか、もしくはヤンチャでもお仕置きを回避することに特化していたのだろう。

 そして今は高身長のため、同じくらいの背丈がある親しい相手――姉くらいしか耳を引っ張ってこないわけである。

 それに加えて長期間故郷から離れていたなら慣れていないのも頷ける、と思いつつ伊織はお茶を啜る。


「なお! 耳が弱点っていうのに性的な意味合いはないのであしからず!」


 そしてナスカテスラの冗談めかしたフォローでお茶を噴きそうになったのだった。


     ***


 虫の鳴き声も静まった就寝前。

 自室に向かおうとした伊織はリビングでヨルシャミに呼び止められた。


「そうだ、イオリよ。今夜夢路魔法を使おうと思うが……いいか?」


 これは魔法の使用許可だけではない。

 そう感じ取った伊織はゆっくりと頷いた。


 今、夢路魔法の世界ではセラアニスがふたりを待っている。昨晩は控えておいたが今夜辺りには伝えなくてはならないだろう。言いづらいからと先延ばしにしても良いことはないのだから。

 しかし伊織は無意識に頭の中でシミュレーションする程度には緊張していた。


 大切なことはしっかりと伝えなくてはならない。

 そう、セラアニスの故郷と、その姉妹里の現状を。


 セラアニスは気丈に振る舞うかもしれないが、いくら家族が無事でも幼い頃から育ってきた故郷がすでにこの世に無く、ラタナアラートと合併していると知ればショックを受けるだろう。

 しかし隠すことはしたくない。

 自分の死の真実を知りたがっているセラアニスに故郷に関わる隠し事はできないと伊織は感じていた。


 なにかあれば精一杯サポートしよう、とヨルシャミと相談し、伊織は布団に潜り込んで眠りにつく。

 そして――夢の奥深くへと落ちる前に、夢路魔法で作られた世界へと滑り込んだ。

 伊織はそのまま決意と共に瞼をそっと開く。


「そうそう! カーブ手前で減速せずにその角度で壁に当たるほうがタイム短縮に繋がるんだ。君は覚えが早いな!」

「ありがとうございますっ……!」

「次のジャンプ台も気をつけろ、最高速度で突っ込むとコースアウト必至だぞ!」

「は、はいっ!」


 伊織とヨルシャミは口を半開きにしたまま顔を見合わせる。


 ニルヴァーレとセラアニスがツリーハウスの中でレースゲームに熱中していた。

 伊織が小さい頃によく遊んだ人気作だ。

 対戦する相手はいなかったが、コンピューター相手でも楽しめたのを覚えている。

 それをニルヴァーレとセラアニスがプレイしているのだ。


 それはわかる、わかるが。


「……なんで!? なんでゲームしてるんですかふたりとも!?」

「おや、イオリとヨルシャミじゃないか! おかえり!」

「……! わわ! おふたりとも、いらっしゃいませ! ちょっとだけ待っててくださいね……えいっ、ゴールです!」


 ゴールした時のBGMが流れ、伊織は懐かしさを感じてもいい場面か慎重に吟味した。そしてちょっとやめておいたほうがいいかもしれない、と心の中で頷く。

 ニルヴァーレはコントローラーをつつきながら笑みを浮かべた。


「前に君の記憶の中でテレビなるものを見ただろう。暇な時はあれを再現して見てたんだけど……このテレビゲームってやつをシィエム……CМ? で知ってさ!」

「お前、本当に私の夢路魔法の世界で好き勝手しているな」

「で、色々調べたらそれを画面に映してる時の記憶が出てきたから、見て覚えて情報の足りない部分は少し細工をして僕たちでもプレイできるようにしたって寸法さ!」

「好き勝手し放題だな……!」


 眉間を押さえてヨルシャミは震えた。

 やはり夢路魔法の世界はもはやニルヴァーレの別荘である。


 一方、伊織は素直に感心していた。


「なるほど、びっくりしたけどそういうことでしたか。テレビは直接触れてたから再現できたのかな……?」

「そうそう。慣れたらもっと自由度が増しそうなんだが、今は制限があるみたいだ。だからゲームにも直接触れられればよかったんだが――」

「それなら後でプレイしたことのあるゲームを片っ端から見せますね。僕らがいない間は暇でしょうし」

「本当かい!?」

「ぅわっ!」


 伊織はニルヴァーレによる急接近からの両肩を掴みに思わず声が出る。


 しかしそれだけ暇なのだろう。

 クリア済みで長めのRPGとか勧めたいな、と思いつつファンタジー世界でファンタジー作品を見せるのはおかしいだろうか――と考え込みかけたところで伊織はハッとした。

 今夜は大切な話をしにきたのだ。


「その前に……ニルヴァーレさん、セラアニスさん、報告をしてもいいですか?」

「報告? いいとも、眠り姫もそうだろう?」

「……! もちろんですっ……!」


 伊織はヨルシャミと視線を交わし、そして言った。


 先日、ようやくラタナアラートに到着しました、と。

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