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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第八章

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第309話 騎士団の訓練にて

 訓練場に集められた騎士団メンバーは二十人。


 そのうち二名が召喚と使役を得意とするサモンテイマー、六名が召喚魔法を使える魔導師、三名が魔法弓術士、そして残りの九名が各々の属性に特化した魔法を使う魔導師だった。

 本来は更に多くの魔導師が在籍しているが、現在王都にいるのは元々防衛のために残っていた者とランイヴァルが率いる一団のみであり、他のメンバーは未だに遠征に駆り出されている。


 その遠征も聖女マッシヴ様の協力により各地で魔獣が討伐されているため、一部短縮できる見込みが高いと伝え聞いていたが、移動に高度な転移魔法を使っているという噂もある。

 それをこの子供ふたりが使えるのだろうか。

 そうベラシェーライラティカ――長いため愛称であるベラを名乗っている魔導師は訝しんだ。


 ここにいる大半がふたりを持て囃しているが、ベラはマッシヴ様という存在に少し後ろ暗い想いがあるため、いまいち熱くなれないでいる。

 その冷めた感覚はふたりへの不信感を生んでいた。


(ママはマッシヴ様に惚れ込んで王都を出てしまった……私を置いて。聖女マッシヴ様はいわば母子が離れ離れになった原因よ)


 つい、そう恨みがましいことを考えてしまう。


 ――なお、ベラの母が王都を出た頃にはベラは母国での成人年齢を迎えており、母からも「頑張って独り立ちしなさい!」との言葉を賜っていたため、これは親離れ失敗による三十代女性の逆恨みに近い。

 ベラは「人間だろ? 本当にあの年齢で魔法の創造なんてできるのかなぁ」という同僚の呟きに「そうよね!?」と食いつきつつ、しかしランイヴァルの命令であるため大人しく訓練を受けることになった。


(女の子のほうはエルフ種みたいだから外見年齢と齟齬があるだろうけど、男の子のほう……マッシヴ様の息子は正真正銘の子供のはず。いくら才能があってもある程度は盛ってるわ)


 ベラは盛っていたところで弱点を突いて貶すつもりはないが、聖女の息子がヘタレていれば母に「私を捨ててまで追いかけたマッシヴ様の息子はこんなへなちょこなのよ!」と勝ち誇れる気がした。心の中で。


 そんなことを考えているベラの前で女の子――ヨルシャミが諸注意を説明し、聖女の息子が己の指に嵌めた指輪を撫でた。

 刹那。

 顔を上げただけで、まるで別人のように見えてぎょっとする。


 そこまで観察はしていなかったが、瞳は金一色ではなかっただろうか。

 今は片目にのみ青や緑が混ざっており、ベラは光の加減かと疑ったがいつまで経ってもその色合いを維持していた。


「思ってたより少ないね」


 そして彼は開口一番そんなことを言った。


「騎士団全体の魔導師たちというわけではないのでな。滞在している間に戻ってくる者がいればもっと賑わうぞ」

「じゃあ僕も今のうちに長時間憑依に慣れておかないとね! ……さて」


 そうヨルシャミに向けたのとは別種の笑みを浮かべ、彼は自分の腰元で指を組む。


「僕はニルヴァーレ。君たちの先生をしてあげよう。属性は風だが魔法関連の基礎知識や応用、近接戦闘への組み込み方とか教えられるよ、あと召喚魔法も少々」

「改めて私も自己紹介をしておこう。超賢者のヨルシャミだ、属性は闇を中心にまんべんなく得手としているが……訳あって大それたものは連発出来ん。その辺りをセーブしつつになるが宜しく頼む」


 演技、だろうか。

 ベラは目を凝らすような仕草で少年――ニルヴァーレを見たが、やはりどうにも別人に見えてしまう。これがもし演技なら表彰ものだ。

 ベラはまだ憑依魔法が嘘かもしれない、という考えを捨てきれないでいたが、気を抜くと心が疑うのをやめてしまいそうになる。


 更にヨルシャミはヨルシャミで不可思議だ。

 闇属性と相性がいいベルクエルフなど早々お目にかかれない。

 ベルクエルフは通常は水と風属性が多く、水と闇は相性が最悪なのだ。絶対にいないとは言い切れないが、少なくとも見た記憶もなければ伝え聞いた記憶もない。

 どうやらヨルシャミはゴーストスライム戦で闇属性魔法を使っていたらしいが、その頃ベラは他の区域にいたため直接は目にしていなかった。


 如何ともし難い気持ちになっていると、ニルヴァーレがおもむろに小型のドラゴンを二体召喚するのが見えた。

 なんの脈絡もなく行われたそれに騎士団員たちは目を丸くする。


「僕は君たちの実力を測りかねていてね。だからまずはどんな動きをして戦い、どんな癖を持ち、なにが苦手か見ようと思うんだ。というわけで、これは取り急ぎ新規契約したドラゴンのちびっ子たちだよ!」

「……新規契約? 今の一瞬で?」


 テイマーやサモンテイマーと違い、魔導師の使う召喚魔法は対象との契約が必須となる。その契約には本来なら数日かかるのが普通だった。

 対象が強いとその日数は更に伸びる。

 そうしてようやくいつでも召喚できるところまで漕ぎ着けられるのだ。


 子供とはいえドラゴン二匹は相当のもの。

 それを今の一瞬で? と再びベラだけでなく全員が思った。


「訓練場がどれくらいの広さかわからなかったからね、ここならこの二匹くらい余裕だろう?」

「いやその、今新規の契約をした理由ではなく……っうわ!」


 ベラは襲い掛かるドラゴンに驚きながら跳んで距離を取る。

 反応はいいね、とニルヴァーレの褒める声がした。


 ……とんでもない訓練に参加してしまったのではないか。

 そう思うも後の祭り、ベラやランイヴァルを含む面々は突如対応することになった対ドラゴン戦に右往左往するはめになったのだった。

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