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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第八章

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第308話 教えながら学ぶべし

 イリアスのコレクションを見せてもらった後のこと。


 伊織はすぐにナスカテスラのもとへと行き、ミッケルバードについて訊ねようと思っていたものの、丁度ヨルシャミが諸々の許可を貰って戻ってきたので明日にしようという話になった。

 なんでも新しい目線から検査をし直すことになったらしく、ナスカテスラはその準備で忙しいらしい。


「それにアイズザーラから許可……騎士団の再教育と多重契約結界への参加の許可も貰うことができたが、これも準備がいるからな。結界は特に時間がかかる故、まずは明日に現在王都にいる騎士団所属の魔導師のみを対象とし訓練を行なうことになったのだ」


 騎士団は全員揃っているわけではなく、防衛のために残っていた数少ない魔導師とランイヴァルのように一時的に戻ってきた者しかいない。

 ヨルシャミは「どのみち全員を一気に面倒見るのは骨が折れるからよかろう」と前向きに捉えていた。


「ちなみに我々も先生であり生徒だ。武器を持つ非魔導師を魔導師が支援する技術は恐らく騎士団のほうが高い。つまり学ぶべきところも多いだろう」

「ずっとその形式で戦ってきた人たちだもんな」

「うむ。伊織もニルヴァーレにバトンタッチしている間もよく見ておくのだぞ」


 伊織はヨルシャミに頷いてから、そういえばニルヴァーレについてはどう説明したのだろうか、と湧いた疑問を顔に出した。

 その表情から察したヨルシャミが笑う。


「安心しろ、イオリの体を通して遠隔で会話できる魔導師がいると伝えておいた」

「嘘じゃないけどギリギリだなぁそれ……!」


 伊織は口の端を引き攣らせる。

 恐らくヨルシャミが実力者だからこそ信じてもらえたのだろう。これだけ凄い魔導師の知り合いなら伊織を通して遠隔で会話可能な魔導師でもおかしくはない、と。


「もし信じてもらえないなら試しに夢路魔法の世界でアイズザーラとニルヴァーレを会わせる、という手も考えていたが……使わずに済んでホッとしているぞ。直接会ったらニルヴァーレがなにを言うかわからん」

「たしかにちょっと不安感が……」

「まあそういうわけだ、忙しくなるから覚悟しておくのだぞ」


 それはすでに朝から覚悟完了済みだよ、と伊織は笑った。

 思ったよりも時間があって驚いているくらいだ。そう口に出すとヨルシャミは不敵な笑みを浮かべた。


「ふふふ……今日これからの時間が忙しくないと誰が言った?」

「へ?」

「教育にも準備が必要なのだ。細かな調整は各々の実力や得手不得手を確認してからになるが、まずは訓練のプランをこれから考えるぞ! そして必要な備品があれば手配! 場所の交渉もしたが下見もしておかねば!」


 そうキビキビと廊下を歩いていくヨルシャミの背を見ながら伊織は「張り切ってるなぁ……」と微笑ましげに呟いた。

 魔導師として誰かに知識を授けるということが楽しいのだろう。

 今まで実力は認められつつも持論に見向きもされていなかった辺り、教師として振る舞った経験も薄かったのかもしれない。


(だから教え下手だったんだろうなぁ……)


 ヨルシャミは基本的にその気になれば面倒見はいい。

 おかげで伊織に色々と説いているうちに教えるのも上手くなっていた。

 天才にも経験は必要、それを再確認しながら伊織も自分が学べることは全部吸収してやるぞと決意を新たにする。


(まあ、なんというか、ヨルシャミのこのやる気大全開は関係を明かした照れ隠しもありそうだけれど……)


 指摘はするまい。

 そう思いながら、伊織はヨルシャミの背を追いかけた。


     ***


 翌日。

 ニルヴァーレの魔石と共に訓練場へと赴いた伊織は視線を彷徨わせていた。


 騎士団とはゴーストスライム退治の際に共闘している。

 つまり姿を見られているため、事情を知るランイヴァル以外には『聖女マッシヴ様一行が稽古をつけてくれる』という話で通っていた。

 魔導師長ほどの地位でなければ王族の住む王宮内に自由に出入りはできないため、怪しまれる心配は少ないだろう。万一目撃されても聖女一行として丁重に扱われている、で通るとゼフヤが言っていた。


 その結果が。


「インナーマッシヴ様! 今日は宜しくお願いします!」

「俺、魔法は自信あるんですが召喚魔法はさっぱりなんです。宜しくお願いしますインナーマッシヴ様!」

「インナーマッシヴ様と訓練をご一緒できるなんて夢のようです!」


 これである。


 冷や汗を流しながらヨルシャミを見ると、彼は全身で笑いを堪えていた。

 これはインナーマッシヴ様呼びを否定できる雰囲気ではない。

 そもそも伊織は100%の善意で向けられた言葉を諫めることにどうにも抵抗感がある。

 仕方なく伊織はツッコミを入れずに話を進めた。


「ええと、今日は宜しくお願いします。ただ僕は……その、感覚でやっていることが多いので、人に教えることに向いていません」


 むしろ皆さんと一緒に学ぶ立場です、と付け加えて伊織はウエストポーチ越しに魔石に触れる。


「そこで、今日詳しく教えるのはここにいるヨルシャミと――もうひとり、遠方……とても遠いところから遠隔で教えてくれる人に頼むことになりました」

「遠隔、ですか?」


 騎士団員が不思議そうな顔をした。

 伊織は頷き返して「僕に憑依してもらいます」と続ける。


「ひ、憑依ですか!? そんな魔法あるんです!?」

「あー……えっと、僕の、お、オリジナル魔法です!」


 ニルヴァーレも魔法を作っていたのだから、と思わずそう口にした直後、そういえば魔法の創作は長い年月をかけて行なうものだと思い出す。

 しまった、と訂正する前に騎士団員たちはざわめきながら信じてしまった。


「イオリよ、その辺りの台本も作っておくべきであったな」

「プランを考えるのに必死だったから……」


 今回、ニルヴァーレに肉体を貸す伊織はどうしても受け身になってしまう。

 そのため役立てるところでは頑張ろうと張り切って訓練のプランを考えたのだ。しかし張り切りすぎてうっかりしていた。

 そんな伊織になにやら微笑ましげな視線をやりながらヨルシャミが笑う。


「まあ、このまま誤解を解かないほうが都合がいいだろう」


 そう小声で言いながらヨルシャミは騎士団員たちを見る。


「便利な魔法に思えるが合間合間に休憩が必要だ。そして時折接続が切れることもあるが、お前たちは気にせず続けてほしい」

「は、はい!」


 伊織も緊張しながら騎士団員たちを見回した。

 ざわめきの中に紛れていたが、少しばかりこちらを疑った声をちらほらとあったのだ。それはそうだろうなと思う。

 不信感を抱く者にもちゃんと納得してもらえるのかどうか。

 これは実力だけでなく、教え方や教える内容にも左右されるだろう。


(……もし信じて納得してもらえなくても、この人たちは王都を守る要で……目的は僕らに近い。つまり同志だ。だから一生懸命やろう)


 一番頑張ってもらわなきゃならないのはニルヴァーレさんだけれど、と少し申し訳ないような頼もしいような気持ちになりつつ、伊織は「始めましょうか」とニルヴァーレとの契約の証である薬指の指輪に語りかけた。

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