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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第八章

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第295話 シエルギータから見た一行

 シエルギータは騎士団員に取りつこうとするゴーストスライムに迫り、燃える両手の拳骨で両側からコアを潰すと金色の髪をなびかせて振り返った。


「視界内のものはすべて潰した! 戦況はどうだ!」

「広場の西側にまだ少数残存! 街中に潜む個体の有無はすでにメルキアトラ様が小隊を指揮して確認していると知らせがありました!」

「よしわかった、西は――」


 先ほど別れた甥たちがいる場所だ。

 どうやらゴーストスライムは濃い魔力に惹かれる特性があるらしい。


 今まではそれなりに統率が取れていたが、ブレイン役だったらしいオリジナルの個体が撃破されてからは本能に従っていた。

 そのため伊織たちの元に偏っている、ということだ。


「何度も増援を受けているようなものか」


 それでも持ち堪えるどころか追加されるなり倒している。


 超賢者を自称するヨルシャミというベルクエルフ。

 シエルギータはその名も、彼が成したことも知らないが、血を流しながらも魔法を連発する様子は背筋に冷たいものを感じた。

 しかもその使用する魔法の属性が多岐にわたる。


 人間の魔導師の場合、相性の良い属性なら数種使うこともあるが、大抵は一番得意な属性ひとつに絞るものだ。

 異種族だからだろうか。しかしそれすら凌駕している気がする。

 ヨルシャミを適時回復しているナスカテスラですらあそこまで多種多様なものは使わない。


(そもそも、ベルクエルフだというのに相性の悪い闇属性を愛用しているように見えるが……)


 回復の支援があるなら使い慣れた闇属性の魔法を連発してやろう、というヨルシャミの考えのせいだが、脳移植の件も含めてシエルギータは知らないため不可思議な光景であった。

 そもそもベルクエルフが闇属性の魔法を使っている姿すら初めて見る。


 更には回復を受けつつも肉体に多少どころではないダメージを負っているが、しかしそのダメージが『その程度で済んでいるのがおかしい』と感じる程度には、普通の魔導師ならあれだけ魔法を連発していれば寝込んでもおかしくない状態だった。


「まったく、聖女一行は聖女だけが恐ろしいわけではないようだな」


 ヨルシャミだけでなく伊織も恐ろしい。

 よりにもよってゴーストスライムを口から自分の内側に招いて焼き殺している。

 口に入れる行為の真意を人伝てに報告された時は耳を疑ったものだ。


 加えて不可思議な乗り物とワイバーンを同時に召喚し、言葉なく意思疎通をしているように見える。


 攻撃魔法こそ使えないが、近接戦までこなすサモンテイマーというのは自分の甥ながらゾッとする光景だ。

 サモンテイマーやテイマーは数が少なくシエルギータもあまり馴染みはないが、知っている者は全員後衛か後衛の更に後ろに控えている者ばかりだった。

 そういうものだ、と思っていたところにこれである。


 この場にいる騎士団にも召喚魔法を使う者はいたが、先ほども「なんであんなのをいっぺんに二体も長々召喚できてるんだ……?」と首を傾げていたくらいだった。

 永続召喚以外の同時召喚は難しいもので、強い個体ほど召喚時間は短くなる傾向にあるらしい。


 ――シエルギータは知らないが、ニルヴァーレでさえワイバーンを召喚した状態で多数の魔法を使い続けて延命装置の暴走を招いたくらいである。


 そして魔法弓術を使うフォレストエルフもおかしい。

 正確すぎる命中率はまだフォレストエルフだからと納得できるが、魔法の矢の応用が凄まじいのだ。

 普段フォレストエルフは魔法弓術を主に狩りに使う。

 狩りということは対象を消し炭にしてはならないということだ。

 他者からの防衛に使う場合も同様だろう。


 それが手加減の必要ない魔獣や魔物との戦闘に使用することでタガが外れるとああなるのだろうか。


(外れるとしても……)


 何度も繰り返し戦いの中で技を磨いて初めて起こることかもしれない。


 ぱっと見てただの人間の男も洗練された最小限の動きでゴーストスライムを狙っており、とてもカタギには見えなかった。

 後から合流したもうひとりの男とも慣れた様子で連携を取っている。


 シエルギータとしては伊織や静夏はともかく、自分と同じ『人間』が戦闘慣れしているのは高揚感と憧れのようなものを感じた。

 それは王子という立場上、王都防衛以外ではなかなか実戦に赴くことができないからかもしれない。


「……」


 羨ましい、などと場違いなことすら考えてしまう。

 そう意識が逸れた隙を狙い、屋根の上から大跳躍を見せたゴーストスライム――の隣を、影を落として現れた巨体が先を越してシエルギータを掻っ攫った。


「ボーッとしてたらくっつかれるぞ兄ちゃん! ……ってうわっ、王子様じゃん!」

「お前はたしか……」


 聖女一行、姉が連れてきた仲間のひとりだ。

 たしか魔法弓術を使うフォレストエルフの姉だったはず。


「やっべ、これもしかして不敬だって怒られるやつかな!?」

「……っはっはっは! この程度で不敬などと言っていては戦場には立てん!」

「ならよかった! さっき屋根の上をチェックしてたらそいつが残ってたんだ、さっさと倒してリータたちの援護に行こう!」


 シエルギータを地面に下ろし、そう快活に笑う彼女にシエルギータも笑みを返す。


「たしかミュゲイラといったな。手間をかけさせてすまん、お前の言う通りさっさと撃破し次へ向かうぞ!」

「おうっ!」


 そうして横並びになり、同時に拳を突き出したふたりは奇襲に失敗しうごめくゴーストスライムに向かって駆け出したのだった。

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