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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第八章

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第283話 甥の心、叔父知らず

 その日は伊織も出発の準備を手伝うことになり、落ち着いた頃にヨルシャミに話を伝えに行った静夏から「どうやら検査の見学がてら作業を手伝うことにしたようだ」と伝えられ、少し残念な気持ちになった。


 朝を除けばこれだけ話していないのは久しぶりだ。

 しかし留守番している子供じゃないんだから、と外見はともかく中身は大人のつもりで伊織は自分に気合いを入れる。


 夕飯の席ではイリアスから視線を感じたがスルーした。


 あれから高圧的な言葉をかけられないのが逆に不気味だが、恐らく傍にアイズザーラたちがいるタイミングばかりだからだろう。

 苛つく気持ちが収まればあとは『年の近い親戚とどう接したらいいかわからない』という戸惑いが残っていたが、今のところ伊織から話しかける気はない。


(またごちゃごちゃ言われたら嫌だしな……ああ、でも)


 ヨルシャミに手は出すなと再度釘を刺しておきたい気はする。

 ナスカテスラに超賢者云々の話をしていた時にイリアスも広間にいたものの、恐らく本人は聞こえていたとしてもなんのことかわかっていないだろう。

 つまり、イリアスはヨルシャミが脳だけ男性だということを知らない。


(きっとこれを伝えればそういう目で見る対象から外れるんだろうけど――)


 人の性別に関わることを、そんな武器のように扱いたくない。


 ヨルシャミ本人は気にもしていないようだが、伊織は気になるのだ。

 イリアスが自然と知るか、せめてこんな対策のため以外のシチュエーションで知ることを祈りつつ伊織は夕飯を終えてから自室で待機した。


 今のところ追加の検査の呼び出しはないが――ナスカテスラのことだ。

 静夏の言う通り、いつ何時お呼びがかかるかわからない。


(早ければ検査結果もいくつか出始めてたりするのかなぁ……)


 ウサウミウシを腹の上にのせ、ベッドでぼんやりとしながら考える。

 こういう時間を魔力操作の訓練にあてたい気もしたが、ここは夢路魔法の世界ではない。現実だ。


 そして監督であるヨルシャミがいない場所で行なうのはまだ危険だった。

 コツは掴めたし譲渡の感覚もまだ覚えているが、万一暴走した場合にどう宥めればいいか伊織は知らないのだ。

 さすがに王の住居でいらぬトラブルを起こすのはまずいだろう。


「せめて自力で夢路魔法の世界に行けたらなぁ……。あ」


 きっとヨルシャミも仮眠くらいはとるはず。というかとってほしい。

 検査の進捗を聞きがてら仮眠のタイミングがあったら夢路魔法を使ってほしいと伝言しに行くくらいはいいのではないか。


(べ、べつになにか理由をつけて会いに行きたいってわけじゃないけどな、うん!)


 ベッドから起き上がった伊織はいつの間にか熟睡していたウサウミウシを枕の上に移し、部屋を出ていきかけて――そうだ、ニルヴァーレさんの魔石も持っていこう、と荷物から魔石を取り出した。


 もし仮眠を勧めた際にその場で寝始めた、もしくは今しか寝るタイミングがないなどと言われたら二度手間だ。

 それになんとなく、仲間のいない個室に彼を置いていくのが気がかりだったのもある。


(夢路魔法は距離が離れてても使えるみたいだけど、魔石は傍にないとニルヴァーレさんがなかなかこっちに来れないみたいだし)


 持って行って損はないだろう、と伊織は手に握った魔石を見下ろして微笑んだ。


     ***


 面白くない。


 ――というのが、ここ二日間のイリアスの感想だった。

 突然現れて妹の味方をし、さもこちらが『悪い兄』のように振る舞った上、最高に好みな美少女への求婚を邪魔してきた少年。

 こちらより年下であるというのに敬う気持ちがなく、しかも王族に対しての畏敬の念もない。


 更にはおかしな服を着ていたその少年が――次に会った時にはまともな服装をしており『甥』として紹介された瞬間の気持ちなど誰もわかってはくれないだろう。


「しかもなんだ、聖女の息子でサモンテイマーって。ぼ、僕だって魔法の才能があるってゼフヤに褒められたんだぞ」


 ちゃんと特訓すれば伊織なんてすぐ追い越せる。

 なのに父は伊織を褒めるばかりで自分に対するフォローを入れてくれない。


 本来は必要ないはずのフォローを欲しているのは我儘というよりも、突然弟妹のできた兄のような心境からだった。

 しかしイリアスは口が裂けても親兄弟にそれを言うつもりはい。


(なにかあいつより注目を浴びる方法はないのか……?)


 頭の回転をいつもより早くしながらイリアスは考える。

 才能や家柄を見せつけるのは伊織には効かない。周りの人間だってそうだ。

 それなら、そう、逆にこちらが譲歩してみせることで自分のオトナっぷりを見せつけるのはどうだろうか?


 生意気な甥を可愛がる叔父。

 これなら心の余裕も周囲によく伝わるだろう。

 と、イリアスは主観のみで考えると「これだ!」と立ち上がった。


「もう遅い時間だが……そうだ! あいつを僕のコレクションルームに招待してやろう! ふふふ、興奮して寝れなくなるかもしれないが不可抗力だ、許せ」


 本人が目の前にいないにも関わらずそう言い放ったイリアスは決断するや否や部屋の外へと出ていった。


 聖女マッシヴ様一行の部屋はイリアスのいる位置から少し離れているが、そこまでわざわざ自分から出向いてやる『余裕』も見せつけられるなら悪くない。

 イリアスは足取り軽く廊下を進み――丁字路の先で目的の伊織が横切ったのを見て首を傾げた。


 こんな時間になぜひとりで出歩いているのだろうか。

 そんな自分の行動は棚に上げたことを思いつつも、まあ近場にいるのなら気さくに声をかける叔父でも見せてやろうと作戦を変更した。

 切り替えの早さだけは王族一かもしれないが、イリアスにその自覚はない。

 そして片側の口角を上げながら手の平を伊織に向けて声をかける。


「こんなところでなにをしてるんだ? ……」


 イオリ、と呼ぼうとして少しだけ悪戯心が湧いた。


 ニックネームを付けてやるのも一興かもしれない。

 そして即座に思いついたものを口にする。


「……バニー君!」

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