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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第八章

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第280話 ライバルが現れた! 【☆】

 伊織の検査は本当に朝まで続き、検査結果は随時教えてくれることになった。

 本人以外は途中で帰ってもいいと言われていたのだが、静夏は母として付き添いたがり、ヨルシャミは治療技術と単純にナスカテスラの話に興味があるからと最後まで残っていた。


 検査中に何度か寝てしまったが、十分な睡眠ではないためへろへろになった伊織は静夏に支えられて部屋を出る。


「うう、早くベッドで寝たい……診察台は硬い……」

「父様が良い部屋を用意したと言っていた。寝心地は保障しよう」

「母さんは同じ部屋?」


 静夏はふるふると首を横に振る。


「……昔、私が王都を出るまで使っていた部屋をそのまま残しておいてくれたそうだ。少なくとも今日はそこで休もうと思う」


 静夏は転生者だと明かした後もアイズザーラたちに愛されていたのだ、と間接的にわかったようで伊織は表情を緩めた。


「む、しかしそうすると伊織たちの部屋とは方向が違うな」

「そうなのか? あ、なら送ってかなくていいから、母さんは母さんで早く休んでくれよ」

「しかし場所はわかるか? それにフラフラだろう」


 久しぶりに心配性を発揮してるなあと伊織は笑った。

 そこまで気にしなくていいのに、とは思うがやはり嬉しいものだ。


「それなら私が送っていきましょうか?」

「ステラリカさん?」


 部屋の出入り口まで来ていたナスカテスラの後ろからステラリカが顔を出す。


「でも検査の助手の仕事があるんじゃ……」

「今からする検査は叔父固有の魔法がメインなんで、私はしばらく暇してるんです。仮眠前に少し足を解しておきたいですしね」

「ほう、固有の魔法とな!」


 そう反応したのはヨルシャミだった。

 そのままそわそわとしながらナスカテスラを見上げる。


「少し見学しても良いか? 門外不出なら控えるが」

「おっ、いいよ!! 俺様の技術に興味を持つとはセンスいいね!! ついでに超賢者ヨルシャミの話も聞かせてもらっていいかな?」

「おお、いいとも! 魔法について語り合おうではないか、わはは!」


 恐らくヨルシャミは魔導師の知り合いが少なかった。

 しかもここまでストレートで善性の興味を持たれたことがなかったのだろう、突然同志を得てわくわくしているのが伊織にまでよく伝わってきた。


「でもヨルシャミも寝てないだろ、大丈夫なのか?」

「ふふん、研究に没頭していた頃など徹夜を連発していたぞ。一晩くらい屁でもない!」


 そう言った直後に特大のあくびをしそうになり、ヨルシャミは無理やりそれを噛み殺した。

 それを眺めて笑いながら静夏は頷く。


「ではヨルシャミはここで見学、伊織のことはステラリカに託そう。宜しく頼む」

「任せてください!」

「イオリよ、日中逆転しているがよく寝るのだぞ! おやすみ!」


 いつになくテンションの高いヨルシャミが手を振り、ナスカテスラと共に部屋の中へと消える。

 それを見送りつつ伊織は手を振り返した。


「お、おやすみ。……?」


 なんだか不思議な気持ちか胸の中に湧く。

 首を傾げつつ伊織はドアから視線を離して廊下を歩き始めた。


     ***


 ――寝不足のふわふわした感覚のまま、ステラリカに付き添われながら廊下を進む。


 朝日を浴びているのが場違いな感覚に思えるのが不思議だ。体はまだ夜中のつもりらしい。

 検査中に軽食が出たため腹は減っていないが、なにか口に入れてから寝るべきか迷っていると隣を歩いていたステラリカが申し訳なさそうに言った。


「すみません、叔父が強引に進めちゃって……」

「いえ、必要な検査だったなら仕方ないですよ」


 それが、とステラリカは眉をハの字にする。


「必要は必要なんですけれど、聞けば皆さん時間を取ってくれるらしいじゃないですか。だから本当はこんな一晩のうちにやらなくてもよかったんです」

「あー……もしかして、その、ナスカテスラさんが早くやりたいとか、知りたいって気持ちだけが理由的な……?」


 ステラリカは頷きながら少し驚いた顔をした。

 なぜそこまで的確にわかったのか、という顔だ。伊織は頬を掻く。


「ヨルシャミも多分似たことやりそうだなって。今なら仲間を想って我慢してくれそうですけど、なんか本質がちょっと似てるんですよね」


 あとはニルヴァーレも興味を持ったならとことんまで追求しそうな節がある。

 どうにも縁のある性格の方向性だ。魔法を突き詰める魔導師は研究者気質なのかもしれない。


「ステラリカさんは助手ですし、えっと……他人がこんなこと言うと失礼かもしれませんけど、大変なんじゃないですか?」

「わ……わかってもらえますか!?」


 ずいっと前に出たステラリカはポニーテールと細い三つ編みを揺らして言う。


「ナスカおじさん、ほんっとーにこっちのこと考えてくれなくて! お母さんに告げ口するって言ったら多少効果はあるんですけど、最近それもなかなか効かないんですよね……そろそろ一度里に帰ってお母さんの怖さを思い出してもらわないと……」

(あ、ステラリカさんはミュゲイラさんのフリーダムさに苦労してるリータさんに似てるな……)


 ついそんなことを考えてしまいながら伊織はうんうんと相槌を打つ。


 ステラリカは叔父に関わる苦労エピソードをダイジェストで披露したが、それは数分のことだったというのに十種にも及んだ。

 身内の悪口は簡単に言うべきではない、という考えの者もいるだろうが、どれもこれも「こりゃ仕方ないな……」と思えるものだったため、伊織は大人しくそれを聞く。

 きっと鬱憤が溜まっていても話せる相手が少ないのだろう。


「南の密林にヒカリゴケタケの採取に行った時なんて、専用の布を忘れたからって私のスカートで胞子の採取をしようとしたんですよ……! しかも汚れただけで失敗しちゃったし!」

「それは怒っていいやつですね……!」

「まあ後で数倍高いスカート買ってもらいましたけど」


 それでも足りないくらいですよとステラリカはジト目を更に細める。


「でも弟子から昇格して、それだけ苦労させられても離れないってことは……」

「……ええ、まあ、学ぶことは多いし実力は本物ですからね」


 それに、とステラリカは少し声を潜めた。


「心配なんですよ、これだけ長い間私の献身的サポートがあることに慣れたおじさんをひとりにしたらどうなるか……不摂生して半年くらいで倒れそう……」

「そ、そんなに」

「そんなにです」


 どうやらナスカテスラは長期的に付き合えば付き合うほど苦労をかけられるが、色んな意味で離れ難くなる人物らしい。

 伊織は冷や汗を流しつつもステラリカを見る。


「けど、ステラリカさんも無理しないでくださいね。今だって徹夜してるのに案内まで買って出てくれましたし……」

「あ、いいんですよ、あの時に言った理由は本当ですから」


 この後おじさんに呼ばれるまで爆睡してやります! とステラリカはにっこりと笑った。

 笑顔の時だけジト目が隠れて外見年齢相応に見える。

 きっと実際はもっと年上なのだろうが――と。


 そう考えていると、注意力散漫になっていたのか足がもつれた。


「っうお!」

「わっ……!?」


 踏ん張ろうとするも寝不足と長時間座るか寝るかしかしていなかった影響か、膝が衝撃を受け止めてくれない。

 そのままステラリカの方によろめいた伊織は思いきり壁に手の平をついて止まった。


     ***


 リータの朝は早い。

 普段ならば。


 部屋の豪華さはなにもミュゲイラたちにだけ緊張感を与えたわけではない。

 ああは言ったもののリータもそれなりに緊張しており、普段よりもなかなか寝つけなかった。


(そういえばイオリさんたちはもう帰ってきたのかな……?)


 検査がどれくらいで終わるのかはわからないが、さすがに各自の部屋に戻っているかもしれない。

 伊織とヨルシャミに割り当てられた部屋はリータの部屋の向かいだ。

 王族だからか伊織の部屋のみ少しドアの作りが違う。きっと中も異なる様子なのだろう。


 気になったリータは顔を洗って身支度し、そうっと出入口に向かった。

 ちなみに新しい服はすでに部屋に何着か用意されていたため、一番動きやすそうなものを選んでいる。

 縫製がとても丁寧だ。

 後でちょっと参考にさせてもらおう、と気が逸れた状態でドアを開き――


(んっ……!?)


 ――廊下の向こうに伊織と見知らぬ女の子がいるのに気がついて顔を引っ込める。

 再び部屋の中に戻ったリータは目をぱちくりさせた。

 女の子は初めて見る子だ。

 身体特徴からベルクエルフだとすると、ナスカテスラの関係者だろう。


(なんとなく目元の雰囲気がリーヴァさんに似てた……?)


 なお、これは伊織を好きな者によるフィルターがかかっている感想である。


(少なくともヨルシャミさんよりは似てたかも。ってことはつまり、伊織さんの好みどんぴしゃりなんじゃ……!)


 フィルターは色濃い。

 それでもリータは深呼吸すると自分を宥めた。


(べ、べつにヨルシャミさんのライバルが出現したわけじゃないし、ここまで急に思考が飛ぶのもおかしいわよね。うん、落ち着かなきゃ!)


 挨拶して自己紹介をしてすっきりすれば落ち着くだろう。

 そう思いリータは再びドアを開けた。

 伊織が壁を背にした女の子の顔の脇に手をついていた。見事についていた。

 しかも女の子がやや膝を折っていたせいか位置が絶妙だった。現代日本でいう壁ドンである。


「……これは……」


 これは警戒が必要かもしれない。


 そんなことを真顔で考えながら、リータは嫉妬半分使命感半分といった顔で拳を握った。










挿絵(By みてみん)

紺雨さんがシァシァを描いてくれました!

アナログ塗りが綺麗! ありがとうございます~!!(掲載許可有)


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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