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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第七章

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第262話 見捨てる気はない

 ヨルシャミたちが温泉宿ミヤコの里へと戻り、一行が揃ったところで村長と数人の村人が宿へとやってきた。


 きっと不死鳥の件がどうなったのか気になるのだろう。

 騎士団は生きて戻ってきたが、不死鳥をどうにかすることはできなかった。

 聖女一行も生きて戻ったが、果たして――といった表情をしている。


 静夏は緊張した様子の面々を見て口を開く。


「報告は村の者全員に、と思っていたがこちらも手負いの者がいてな。早急に休息をとりたい故、申し訳ないがここにいる者を代表者として報告させてもらってもいいだろうか」

「ええ、ええ、もちろんです。皆には私経由で知らせておきますので」


 村長である老人が何度も頷きながら言った。

 静夏はまず不死鳥との遭遇ポイントと囮作戦について話し、その顛末を簡潔に伝える。追い詰めることには成功したが逃走された、と。


「そして追った先で我々の敵……とある組織の者に不死鳥を奪われてしまった」

「では退治は……」

「この手で成せてはいない。敵の言葉を信じるなら今後ララコアに害を成すことはないだろうが――信じるに値する信用がないも同然だろう。それに火山の異変も治まったかどうか確認しなくてはならない。故に、しばしの間ここに留まり経過観察を行いたいと思うのだが」


 それは願ってもないことです、と村長は涙ぐむ。

 静夏は申し訳なさそうに眉を下げた。


「ありがとう、そしてすまない。はっきりとした吉報ではない知らせは不安だろう」

「いえ――もちろん不安はありますが、マッシヴ様が最後までここを見捨てる気はないということはとてもよく伝わってきました。それがなにより嬉しいのです」


 村の者からすれば騎士団に見捨てられたような、そんな気がしていたのだろう。

 実際には騎士団も少ない余裕をやりくりして遠征してきたのだから、悪意を持ってララコアを離れたわけではない。準備が整えば再び訪れる気もあっただろう。

 しかしここに誰ひとりとして残さなかったことは、村人の不安を大きく煽る結果になっていた。


 静夏は「見捨てる気はない」と力強く言う。


「明日か明後日にでも火山の調査をできる者を数名紹介してくれないか。実際に火山まで向かって確かめてほしい。送迎は我々がしよう」


 もし休火山に戻っていなくとも、周辺で生活が可能なレベルなら話は別だ。

 それを判断するにはしっかりとボシノト山を調べなくてはならない。その際に専門知識が必要だった。

 村長は「承りました」と頷く。


 ずっと見守っていた伊織は固い表情のまま一歩前に出ると、あの、と村長に声をかけた。


「マッシヴ様のご子息様? 他にもなにか必要なものが――」

「いや、その。……ずっと謝りたいと思っていたことがあって」


 謝りたいこと? と村長を含めた全員が不思議そうな顔をした。

 伊織は深呼吸をしてから口を開く。


「さっき母さんが話した敵対組織。その組織が僕と会話する隙を作るためだけにネズミの魔獣を村に呼び込んだんです。だから、……村の人は関係ないのに、巻き込んだ形になってすみませんでした」


 深く頭を下げる伊織を見て村長は慌てる。


「頭を上げてください。話を聞くに、悪いのは貴方ではなくその組織でしょう。責める相手を間違えるほど我々は愚かではありませんよ」


 大丈夫です、と村長はしわしわの手で伊織の肩を叩いた。

 人的被害がなかったからこそかもしれないが――それは命の恩人相手というより、年若い子供がそんな理由で自身を責めるような謝罪をしたことに年長者として驚き、そして慰めようとしている行動に近い。

 要するに、村長は伊織を本心から赦しているのだ。


 そもそも赦す赦さないの問題ではなかったが、どうしても心に引っ掛かっていた伊織は心から安堵した。

 そのまま感謝するように再び頭を下げ、改めて村長を慌てさせる。


「さあさ、皆さんお疲れでしょう。お部屋は前と同じシレトコの間をご用意するので自由に使ってくださいね」


 ミヤタナがそうにっこりと笑い、静夏は礼を述べて馴染みのあるシレトコの間へと向かう。調査に関する細かな取り決めは明日、静夏が直々に村長の家に赴いて行なうこととなった。

 バルタスへの報告は伊織本人から行ないたかったため、予定が合い次第彼のもとへ行っていいと許可をもらってある。

 不死鳥を自分の手で倒すことは叶わなかったが、協力者に顛末の説明をするのは自分がすべきだ、という考えだ。


 ――そうして大部屋に戻った一行はようやく人心地ついた様子で畳の上に座る。

 宿から離れていたのは少しの間だが、随分と長く感じた。


「サルサムさん、寝たままでもいいんですよ」


 治療が済んだとはいえ重傷者だ。

 だというのに当たり前の顔をして座るサルサムに伊織は言ったが、大丈夫だという答えが返ってくる。


「むしろ横になってると傷が床に当たって疼いてな」

「あー……夜に寝るの大変そう……」

「その辺は強めの痛み止めでも飲むさ」


 病院から貰ったものではなくサルサム自身が調合したものだ。

 そうなんとなく察した伊織は「それでも我慢できない時は話し相手になるんで起こしてくださいね」と言った。

 きっとサルサムは伊織を起こしはしないだろうが、本心からそう言いたかったので口にした形だ。


 ありがとな、と答えてサルサムは伊織の頭を軽く撫でる。


(……? ちょっと雰囲気が柔らかくなった、かな? 前から優しくはあったけど、なんか負い目があるような感じだったもんな……)


 サルサムにも内面の変化があったのだろうか。

 それがサルサムが酒の力とはいえ自身の本心に向き合ったことや、扱い慣れない感情に戸惑いつつも忌避していないことから来るものだとは伊織にはわからなかったが、なんとなくそう感じ取って嬉しくなった。

 共に旅をする仲間として前よりもっと近づけた気がする。


「とはいえ体力は消耗してるんでな、眠気が来る前に情報の共有と整理をしよう」

「わかった。簡易的な情報はリーヴァの上で伝えた通りだ、あとは補足を中心に話を進めてゆこう」


 静夏はオルバートと遭遇した状況、おおよその位置、その場にいたメンバーとその様子、消える前に向かっていた方角などをひとつひとつ話していく。

 伊織もその場にいたドライアドの男性が件のシァシァだと補足した。


「凄い量の血が付いてたけど怪我をした……のかな」

「不死鳥に意識がなかったのなら捕獲の際に一戦交えたのかもしれん」

「腕は落ちてなかったぞ、不死鳥が食っちゃったのかな?」


 首を傾げるミュゲイラの言葉に伊織は口角を下げる。

 自分と同じ顔のものが他人の腕を食う様子はあまり想像したくない、といった表情だ。ちょっとしたホラーである。


「やはりナレッジメカニクスは一枚岩ではないようであるな。頭のネジの飛んだ自由気ままな個人が集まって互いを利用し合っているといったところか。一応上下関係はあるようだが」


 シァシァは伊織の再びの勧誘を、オルバートは不死鳥を求めての行動だろう。

 ヘルベールはわからないが補佐ではないかとヨルシャミは言った。


「まあ、こそこそ隠れて我々のことを探るのが目的である可能性も高いがな。こちらの情報を持ちすぎている」

「ずっと監視されてるかもしれないってことか」

「なんかストーカーみたいでやだなー」

「現状対処法がないのが余計にな」


 サルサムとバルドに頷きつつヨルシャミは渋面を作る。


 例えば尾行されているだけなら撒けばいい話だが、相手が神出鬼没且つどんな手段を持っているかわからない状態では難しいどころの話ではない。

 リスクが高いため行なうことはないだろうが、転移魔石を使えば寝室の中に突如現れてもおかしくないくらい神出鬼没なのだ。


 そんなナレッジメカニクスが不死鳥をどんなことに使うのかも不透明な話だが、今後も引き続きできる限りの形で警戒しようということになった。


 次にヨルシャミが自動予知の内容についてもう一度おさらいとして補足を加えつつ話し、これも同じ結論に達する。

 どちらも規模が大きいが曖昧で、それ故に明確な対応が決められないのだ。

 最後にサルサムが診察結果を話したところで「あとは……」とミュゲイラが静夏を見る。


「姉御、あの時気になることがあったって言ってたっすよね?」

「ああ、最後にそれだけ聞いてもらおうか。まず最初に述べておくと――これは本当に、なんの確証もない気になるという感覚頼りの話だ。だが皆の意見も聞きたいためだけに話す。そんな理由で話すにはデリケートな話であるとも感じている故、迷惑をかけるかもしれないが。……特に」


 やや伏せていた目を上げ、その視線を向けた先。

 そこにいたのはバルドだった。


「……バルドには」

「お、俺ぇ?」


 なぜここで自分が名指しされるのかわかっていない様子でバルドは気の抜けるような声を出した。

 だが「やはり違った」などと訂正することなく、静夏は肯定として頷く。

 そして聞き間違いなど到底できないような、はっきりとした口調で言った。


「あの少年、バルドとどこか似ていなかっただろうか」

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