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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第七章

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第249話 notフラット

 ボシノト火山までの道のりは決して短いものではなかったが、バルタスに教えられた近道は長い間使っていなくても比較的快適に通れるよう整備されていた。

 如何に盗賊団がこの土地に根付いていたかわかる証拠でもある。


 何度かそういった道を抜け、時には崖の間近という危険な場所も経由しつつ、一行はまず盗賊たちが住んでいた里の跡地に訪れた。


「これは……酷いな……」


 静夏が周囲を見回しながら呟く。

 盗賊の隠れ里は木々に覆い隠された場所にあったようだが、今やその木々ごと焼き払われていた。

 家屋はほとんど基礎しか残っておらず、奇跡的に原型を留めていても中に足を踏み入れるのは躊躇されるほどぼろぼろだ。


 もはや焼けたような臭いすらせず、ただただ静かに廃れている。


「雑草すら生えてないけど、これって不死鳥が焼いたからか?」

「どうであろうな、奴の炎にそういった力がある……というよりは魔獣に汚染された結果かもしれん」


 ミュゲイラにそう答えつつヨルシャミは墨の混じった土を摘まみ上げて凝視した。

 魔法の残滓は見当たらず、しかしあまり長時間触れていたくないような禍々しさを感じる。不死鳥はどうやら力の強い魔獣のようであるため、こういった影響が出ているのかもしれない。

 やはり魔獣は世界の毒なのだ。


(とすれば、火口に巣食っているなら火山はどのようなことになっているやら……)


 休火山が再び活動をし始めたのも明らかに魔獣の影響である。

 先日の雪女といい、自然を動かすことのできる魔獣が頻出するようになった、そんな薄ら寒い予感がした。


     ***


 しばらく里の跡地を見て回ったものの――遺留品も不死鳥の手がかりも見つからなかったため、伊織たちは火山に向かって進むことにした。

 縄張り意識の強い魔獣だ、里では気がつかなくても根城付近まで近づけば姿を現すかもしれない。


「それでも出てこなければ火口まで覗きに行くしかないな。そうなれば厚着ともおさらばできる」

「いやー、それどころじゃないと思うな……」


 山道を進みながら苦笑いする伊織に「冗談だ」とヨルシャミは笑った。


「その時は火口へ向かう前に我々の存在をアピールしてみよう」

「のろしを上げるとか?」

「魔法は魔力を消費するのが惜しい故、極力使わないつもりだったが……ほら」


 ヨルシャミはポケットから指先程度の大きさをした白い石を取り出す。

 魔法についてヨルシャミとニルヴァーレから扱かれ――もとい教わったおかげか、伊織は一目見てそれが魔石だとわかった。


「光を発する魔石だ。物資調達をしていた時に運よく仕入れられてな。攻撃には使えんが、私が魔力を流し調整すれば相当の光源を作れる」

「あっ、前に火の魔石でやったみたいなやつか」

「うむ。魔石由来の魔力を使用しているおかげでこちらの消耗も少ない。それに光は闇と相性がいいのだ。戦闘に差し支えあるまいよ」


 それならさー、とバルドが荷物を背負い直して言う。


「なんかこの先に見晴らしのいい高台みたいになってるところがあるから、そこでこっちから仕掛けたらどうだ?」

「ふむ? その選択肢もありであろうな、動けば動くほど体力は削れてゆく。……よし、立地をチェックしていけそうなら試してみないか、シズカよ」


 先頭を歩いていた静夏はヨルシャミの言葉に頷いた。

 不死鳥を待ち構えるのに最適な場所があるというのに無暗に動き回って消耗する意味はない。


「あまり高くまで登れば空気が薄くなる。加えて夜が来る前に決着をつけようと思うなら有効な手段だろう」

「よし、では立地が良ければ決行だ」


 進んでいく話に伊織はごくりと唾を飲み込む。

 あと少しで話に聞く不死鳥と相対することになるのだ。


 盗賊の生き残りである双子たちを遠方へ追いやり、バルタスにトラウマを植えつけ、騎士団を追い返した魔獣。

 初めてその存在を耳にしてから時が経ち、ついにこの日がやってきた。

 今はどのような姿をしているのかもわからないが、ここで倒しておかなくては近い将来ララコアにまで被害を及ぼすかもしれない。


(僕にできることは少ないかもしれないけれど……)


 精一杯やりたい。

 これが本心だ、と改めて自分に言い聞かせるように思ったのは一瞬シァシァの言葉が頭の中に蘇ったからだ。

 それを振り払い、伊織は辿り着いた高台を確認する。


 背の低い雑草が群生する広場といった印象だ。

 その雑草も今はほとんど雪に隠れている。


 少し離れると雪を被った木々があり、二手に分かれた後に隠れることができそうだった。

 伊織はヨルシャミと滑落した時のことを思い出し、慎重に足を伸ばして草と雪を踏み締めてみる。――地面はきちんと存在しており問題はなさそうだ。


「あちら側が崖になっているのが気になるが、落下の危険は山ならどこでもあるからな。なら見通しが利くこの場所を活用したほうがいいかもしれない」


 サルサムが安全に動ける範囲を目測で計りながら言う。

 今回の作戦で囮且つ切り込み隊長になるのはサルサムだ。

 入念に地形情報を頭に叩き込み、動きのシミュレーションを行なっている。


 とはいえ相手は不定形であるため、シミュレーションも程々にしておかないと思い込みで動きが鈍りそうだ。

 そう考えてサルサムは深呼吸をする。


 ――今までサルサムが仕事をする際はひとりか、バルドと組んでいたように二人組で行なうことが多かった。


 複数の仲間と連携を取る作戦で要になるのは彼にとっては珍しい経験だ。

 だが慣れていないからといって失敗することは許されない。

 やるべきことを確実にこなす。サルサムがそう自分に語り掛けているとリータが声をかけた。


「後方支援、ヨルシャミさんと頑張りますね。危なくなったらすぐ退いてください」

「あ、ああ、わかった」


 今朝のことがあるためどうしても返事がぎこちなくなってしまう。

 作戦に支障が出ないように早く調子を戻さなくては。そう思っているというのに、どうしても上手くコントロールできずサルサムは意味もなく眉間を揉んだ。


(どんな心理状態でも命懸けの仕事中なら心をフラットにできるはずなんだが……)


 そういった訓練も実家で嫌というほど積んできたが、どうにもこのパーティーに入ってから調子を乱されがちだ。

 下手をすると家族に対してよりも弱点を見せているかもしれないな、とサルサムは小さく息を吐いて思った。

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