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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第七章

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第232話 模倣

 不死鳥は鳥の形をしているが、その体は濃厚な紫色の炎で構成されているという。


 不死鳥、フェニックス、火の鳥。

 それならば炎で構成されているのはむしろ当たり前と言ってもいい。

 しかしバルタスは最後まで集落に残り、そして間近で不死鳥を見たからこそわかったことがあると言った。


 紫色の不死鳥は一度だけこちらを模そうとした。


「模そうとした……真似か? 攻撃方法とかの?」


 バルタスの話を聞いたミュゲイラは首を傾げる。

 人間でも相手の技を模倣する者や、一部にはそういった魔法があると聞いていた。

 しかしバルタスは首を横に振る。


「ただの猿真似ならオレにだってできる。それに……いいか、集落に最後まで残ったのは腕に覚えのある奴ばっかりだ。オレも含めてな。初めに不死鳥の討伐に向かったボスが一番強かったはずだが、きっと油断したんだろう。そういう性格だった」


 それ故に、不死鳥にとっては初めて出会った攻略し難い強敵だったわけだ。

 そんな脅威を前に、不死鳥はその脅威になろうとした。

 ただ単に擬態するのではなく、元から不定形である体を駆使して『なりきろうとした』のだ。


「その時オレは思ったんだ、こいつは炎を纏った不死鳥じゃない。紫色の炎そのものが正体で、出会った強いものに次から次へとなり替わる形で強くなっていく魔物じゃないか、と」

「炎そのものの魔物……」


 魔物は魔獣を含めた呼称だが、それとは別に元々いる動植物の形をしていないものも指す。要するに害を成す幽霊や幻想生物のようなものだ。

 バルタスは恐怖を込め、そちらの意味も含ませて口にしている。


 伊織たちがカザトユアで遭遇したウィスプウィザードも姿を変えて様々な戦術で対応していた。が、しかし。


(バルタスさんはこちらを模そうとしたって言った。ってことは不死鳥は人間を模せるのか……?)


 ウィスプウィザードは最後まで人間は模そうとしなかった。

 考えてみれば強敵から逃げながら街を燃やすなら周囲にごまんといる人間になる個体がいてもおかしくなかったはずだ。紛れ込めば時間も稼げただろう。

 伊織が考え込んでいるとバルタスが「それだけじゃない」と乾燥した唇を噛んだ。


「あいつの擬態は炎でできているのに『本人だ』と周りが思っちまうくらい繊細で細やかだ。あれはきっと対象のなにからなにまで真似しようとしてる」

「それってつまり――」

「記憶や人格や持ってる魔法、技能、それらすべてだよ」


 脅威が脅威たる所以。

 対象を真似て手に入れたいもの。


 不死鳥は相手のすべてを真似て取り込むことでひとつ上の強さを手に入れる。

 そのために相手を形作るものを欠けさせてはならないと理解していた。

 故に一からすべて再現しようとするのだという。それはまだ稚拙ではあったが、成長の余地を感じさせるものだった。


「あいつはまず、……」


 バルタスは眉根を寄せた後、そのしわが消えきる前に再び口を開いた。


「ボスの姿になってオレたちに応戦した。本人がそこにいなくてもいつでも変じることができるらしい。オレたち相手にゃこれが一番だと判断したんだろうな。……そして、よりにもよってボスの声でオレらの名前を呼びやがったんだ」

「呼んだ!? それって意思疎通可能ってことか!?」


 ギョッとして驚くバルドにバルタスは「わからん」と呟く。


「会話は成立したような、しないような微妙なところだった。過去の会話を模しただけって可能性もある。明確な判断ができなかった」


 普通の鳥にも人間の言葉を真似るものがいる。

 それはコミュニケーションの一種として用いられることもあるが、人間のような感情が伴っているわけではない。つまり人間と会話が成立することはないわけだ。


 それとの見分けがつかない、と言いながらバルタスは酷く憔悴した顔をする。


「ボスはよ、オレの親父だったんだ」


 心乱され観察をすることすら難しくなり、それでも残った仲間と力を合わせて追い返そうとした。

 そしてボスの姿で、ボスの声で、ボスの技を使う『それ』を、捨て身で発動させた強力な魔法で斬り伏せたのだという。

 まるで父親を斬ったようだったとバルタスは小さく付け加えた。


 その際、不死鳥は次にバルタスの姿を模そうとしたが――それは目に見えて失敗し、その場から去っていったらしい。


「形は真似したんだが、あっという間に瓦解して鳥の姿に戻ったんだ。回復すりゃ再びボスの姿になれるのかはわからないが、厄介な相手だっていうのは変わらねぇ。本当に倒す気があるんなら覚悟しとけ」

「……はい」

「真面目なアドバイスとして受け取るんじゃねぇよ」


 バルタスは一瞬黙った後、ゆっくりと腕を上げて手の平を向けた。


「オレたちは酷ぇ死に方すると思いながら盗賊をやってきた。けど死後も姿形や、それ以上のモンを我が物顔で使われるのは我慢ならねぇ。あいつを殺すならきちんと殺してくれ。……だから、協力できるところは協力してやる」

「……!」

「どうせオレはもう満足に魔法を使えないからな。最後の一撃で無理しすぎた。……ほら、なにか書くもん寄越せ、抜け道含めた地図を作ってやる」


 盗賊たちの集落にいた魔導師は一点に特化した者や、条件を付けて無理やり力を強化している者が大半だったと伊織は聞いている。


 きっとバルタスも最後の最後、父親の姿を真似した相手を屠るために相当な無理をしてしまい魔法を使えなくなったのだろう。

 伊織たちは村長から聞いていた。

 バルタスはもう魔法を使えないから一般の牢に入れている、と。


 魔導師の犯罪者用の牢はもっと特殊らしい。

 そう聞いた際、魔法を使えなくなった理由を伊織は不死鳥との戦闘でなにかあったのだろうと思っていたが――バルタスはバルタスなりに、仲間のために戦ったのだと知ることができた。


 伊織は頭を下げる。


「バルタスさん……ありがとうございます」


 礼は気味悪いからやめろ、とバルタスは小さく言った。

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