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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第六章

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第183話 伊織の育成方針 【★】

 本格的な訓練に移る前に、まずは伊織の現在の状態を明瞭にしておこうということになった。

 ニルヴァーレが机の前に立って笑みを浮かべる。


「さて、属性からはっきりさせておいた方がいいかな。イオリは風属性だ、僕が直々に確かめたから間違いない」

「なぜよりにもよってニルヴァーレと同じなのだと思わなくもないが、師のひとりであることを考えれば良いことではあるか……」


 高位の魔導師ともなると他の属性にも精通していることが多い。

 しかしやはり相性の良い属性のほうが教えやすいものだ。

 ニルヴァーレと同じ属性ということに思うところはあるが、それよりも利便性を優先すべきである。そう自分に言い聞かせるように呟き、ヨルシャミは伊織を見た。


「魔力操作は下手、それはイオリ自身の予想では魂の力が強いが故なのだな?」

「うん、コツを掴んだり――ニルヴァーレさんが代わりにやってくれたように道筋さえ付いていればいいんだけれど、それ以外はなんかこう……召喚対象との繋がりを突っぱねちゃってる、って感じが最近よくするんだ」


 初めはなぜ失敗するのかよくわからなかった。

 しかし召喚を重ねることで、おぼろげながら原因がわかってきたのだ。

 突っぱねる感覚も本当なら初めからしていたのだろうが、熟達することでやっと気がつけるようになったということである。


 ヨルシャミは目を細めて言う。


「なるほど、やはりそうか。召喚で一番初めに行なうことは契約でもテイムでもなく、対象との魂の繋がりを作ることだからな」

「魂の繋がり……」


 伊織はゴーストゴーレムを消し去った時のことを思い出す。

 ニルヴァーレも長く憑依していると伊織の魂に消し去られると言っていた。

 つまり、伊織は召喚の基礎として必要な繋がりを作るのに適していない魂だということである。


 ヨルシャミの説明を聞いてニルヴァーレも納得した声を漏らした。


「ああ、だからすぐにとんでもない失敗をしてたのか」

「召喚魔法そのものは発動していたが、繋がりが上手く作れなかったために指定した対象ではなく手近なものが呼び出されたのだろう。恐らくランダムだな、弱いものばかりだったのは強いものよりそちらのほうが母数が多かっただけだ」


 自然界でも大型の生物より小型の生物、もっと言うなら微生物のほうが多い。

 そして条件にもよるが、大抵は観測者より小さくなるほど『弱く』なっていくものだろう。


 伊織は興味深げにしながら質問した。


「じゃあ、バイクみたいに元から上手く繋がりが作れていれば成功する……?」


 うむ、とヨルシャミは頷く。


「条件はわからないが、イオリの魂が『受け入れる』と判断すれば繋がりが保てるようだ。ワイバーンの場合は……まあテイム済みだったのもあるが、一番大きいのはニルヴァーレが召喚のコツを体に教えたからだろうな」

「それに僕は一応ワイバーンの元主だからね。あの時は召喚しなかったけど、それで繋がりが強化されたんだろう。繋がり……絆か。奇妙な基準で召喚する魔導師見習いになったものだね、イオリ」


 魔導師見習い。

 他にも気になるところは沢山あるというのに、伊織はその言葉が一番気になった。


(そうか、そうだよな、ヨルシャミとニルヴァーレさんに召喚魔法をずっと習ってるんだもんな)


 魔法を使えなくてもすでに自分は魔導師の枠に足を踏み入れている。

 そう改めて自覚し、師匠たちの顔に泥を塗らないためにも頑張ろう――と決意し直したところで、思いのほかニルヴァーレの顔が間近にあると気がついて伊織は半歩引いた。


 ニルヴァーレは構わずに伊織の手を取る。


 なにか意味があることなのだろうが、事前に言っておいてほしい。

 そう思いながら伊織が心を落ち着かせていると、握られた手からなにかが流れ込んでくるのがわかった。

 流れ込んできたものには覚えがある。

 記憶にはないが体が覚えていた。


「これ……ニルヴァーレさんの魔力ですか?」


 特殊な存在であるニルヴァーレの場合は魔力というよりも『本人』と言うべきだが、もちろん魔力と呼んでも差し支えないため、ニルヴァーレは微笑んで頷いた。


「ちょっと確かめたいことがあってね。僕はヨルシャミほど目が良くないし、直接探ったほうが――いたたっ!」


 パチッという静電気のような音と共にニルヴァーレが手を離す。

 その後ろでヨルシャミが「私はなにもしていないぞ」というアピールとして両手を上げていた。


「ははは、イオリの魂は相変わらず干渉しようとすると追い返してくるなぁ」

「えっと、なんかすみません……」

「まぁ知りたいことはわかったからいい」


 ピリピリする手をはたきつつニルヴァーレは小さく頷く。


「ふむ、イオリの召喚対象との繋がりは太く短くか」

「太く短く?」

「要するに常に最高パフォーマンスの性能を維持したいなら召喚対象と離れるな、ってことだね。イオリの場合は離れすぎると強制的に送還されるかな……」

「あの時、広場でワイバーンがお前を背に乗せただろう? あれもワイバーンがそれを理解していたのだろうよ」


 ヨルシャミは伊織が羊型の魔獣と対峙した時のことを思い返す。


 ワイバーンは本来なら必要ないというのに、率先して伊織を背中に乗せていた。

 あれはあまり離れると強制的に送還されることを感じ取っていたのだ。


「召喚には一時的な召喚と、ウサウミウシのような永続召喚がある。普通は前者だ、新しい生物を呼び込み根付かせるのは世界の均衡を崩す故な」

「異世界からの侵略を自分たちの手でやってるようなもの、ってことか」

「そうだ。魔導師の大半は侵略のことを懸念せずとも行なっているが」


 あれ? と伊織は首を傾げる。


「じゃあ永続召喚された上に放り出されたウサウミウシって……」

「相当な常識外れなことをされているね、逃げ出したんじゃなかったら召喚主はクズだよクズ」

「……ネコウモリはよかったんですか?」

「うん? ああ、あれは命令を与えてあるから野放しではないよ。それに影響の少ない個体を選んである」


 一応気遣ってはくれてたのか、と伊織はニルヴァーレの返答を聞いてホッとした。

 もし自分たちが世界侵略の手助けをしていたとしたら、伊織としてはショックどころの話ではない。


「話を戻すが、私とニルヴァーレなら召喚獣と離れても大丈夫だ。しかしイオリは常に近くにいる必要がある。我々が召喚したものをテイムした場合は少し異なるが」

「最初にワイバーンを上書きテイムした時みたいな感じか……」

「うむ。とりあえず近接戦の学習や回避方法も学んでおいたほうがいいだろう」


 それなら僕が教えるよ! とニルヴァーレが高く手を上げて申し出た。


 たしかに自分の肉体を使って静夏と一対一で戦っていたくらいだ。

 魔法のサポートがあったとはいえ、教えを乞うのに向いている存在であることには変わりない。そう考え、伊織はニルヴァーレに向かって頭を下げた。


「じゃあニルヴァーレさん、後で宜しくお願いします」

「任せろ、こればっかりはヨルシャミには無理だからね!」

「人並み程度のことはできるわ……!」


 咳払いをしつつヨルシャミは伊織を見る。


「前に少し話したが、召喚対象に自身の魔力を譲渡すれば距離の枷も制限時間の枷もなくなる。が、お前の場合はしばらくの間は無理だろう」

「やっぱり難しい……?」

「普通なら魔力操作が下手な者でもある程度は使えるが、お前の魔力量だとな……少し匙加減を間違えると召喚対象が弾け飛びかねんのだ……」


 ひえ、と伊織は小さく声を漏らした。それはまさに大惨事である。

 無理に試そうとしてバイクの命を危険に晒さなくて良かった、と改めて思う。


「故に! まずは魔力操作の訓練をするぞ!」

「お、おー!」

「同時に近接戦の訓練もするよ。魔力の譲渡さえ完璧にできれば後衛として引っ込んでおけるが、まあ戦略の幅は広いほうがいい」

「わかりました……!」


 ふたりの先生を見ながら伊織は頭を下げて言った。


「ヨルシャミ、ニルヴァーレさん、宜しくお願いします!」





挿絵(By みてみん)

まんざらでもないヨルシャミ(絵:縁代まと)


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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