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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第一章

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第16話 不穏な森

 三十分ほど歩いただろうか。

 伊織とミュゲイラの探索組はひとつも成果を上げられないでいた。


 小屋らしきものは見当たらず、それどころか切り株すらない。

 完全に手付かずの森が悠然と佇んでいるだけだ。リータの予想が外れていた場合、小屋は森の深い位置に建っている可能性が増してくる。

 しかも森の中からは動物の声や足音が聞こえ、時たま不意打ちのように大きなものが耳に届くため心臓に悪かった。

 雰囲気のせいかもしれないが随分と不気味だ。


「す、すごい声ですね。猿とかいるのかな」

「もしかしたら魔獣でもいるのか……?」


 伊織はごくりと喉を鳴らす。ミュゲイラの一言に不安が増すが、そのリスクは二手に分かれた時点で把握済みだ。

 もし敵性のものに遭遇し、ミュゲイラでも太刀打ちできない場合は一目散に静夏たちの元へ逃げる。原始的且つ単純な取り決めだが、混乱して棒立ちよりはいい。


 あと三十分探しても見つからなかったら静夏たちと合流しに戻ろう。

 伊織がそう考えているとミュゲイラが「そういえばさ」と口を開いた。

 また真剣な顔をしているが、静夏の好物を訊ねてきた時とは違い、そこには怪訝そうな感情が含まれている。


「ここに来てから違和感があったんだ」

「違和感?」

「切り株すらないから確信に変わったんだけど……」


 ミュゲイラは足を止めてぐるりと辺りを見回した。


「この森、やっぱ鬱蒼としすぎだ。村人が薪や資材目当てで木を利用してるなら、普通はもっと間引くだろ」


 伊織は「そういえば」と記憶をまさぐる。

 植栽密度によって木の成長具合が変わるという話を聞いたことがある。


 見上げればここに生えている木は葉が多く光を遮りやすい。

 その影響か成長を阻害されている木や、根腐れを起したり病気に罹っている木がちらほらと散見された。

 もし日常生活や資材用に木を使っているなら、その質を上げるために適度に木を間引いて間隔を開け、太陽光が当たるようにしていてもおかしくはないはずである。

 もっとも薪にしか使っていないなら話は別だが、それにしても森そのものには無頓着すぎる気もした。


「ま、伐採用の小屋だっつーのも予想だからアテになんないけどな」

「でも気になりますね……これだけ探しても見つからないし、もしかしたら母さんたちが何か情報を仕入れているかもしれないんで、一旦合流しましょうか」


 予定より少し早いがいいだろう。

 伊織は踵を返し、最後にもう一度だけ森の奥を見る。


 暗い森はとても不気味で、相変わらず動物の気配だけがしていた。


     ***


 合流予定地に向かうと静夏とリータたちが一足先に戻っていた。


「伊織、ミュゲ!」

「……?」


 こちらを見つけるなり手招いた静夏に伊織は不思議そうにする。

 何かあったのだろうか。

 どうやらふたりは早い段階で戻ってきていたらしい。伊織とミュゲイラを追おうか迷ったようだが、もし入れ違いになったら大変だということで待機することにしたという。


「村は? なにかわかったのか?」

「村には誰もいなかった」

「へ……!?」

「家を一軒一軒確認したんだが、人っ子ひとりいなかった。しかも人が住まなくなってしばらく経っている」


 魔獣に襲われたか、それとも厄介な病でも流行ったのか。

 静夏の言葉から伊織はそう想像するも、口に出す前にリータが言った。


「死体はありませんでしたし魔獣に襲われた形跡もありませんでした。ただ家の中に足跡が多かったので――もしかすると誰かに攫われたのかもしれません」

「村人全員を……!?」


 十人や二十人といった人数ではないだろう。

 小さな村とはいえ、その労力は計り知れない。

 しかし、もしそうなら村を無人にした原因は何かしらの集団である可能性がある。


「これだけ時が経っていれば犯人はもうこの周辺にはいないかもしれないが、万に一つということもある。小屋を探すのは全員でにしよう」

「ウッス、了解っす!」

「わ、わかった」


     ***


 ――結局その日は小屋を見つけることは叶わず、「夜は離れた場所で野宿するほうが悪目立ちする」ということで誰もいなくなった村の家をひとつ拝借することになった。


 埃っぽい床はあちこちから草が生え始めていたが、まだ使えないことはない。

 ぽっかりと開いた窓から月を見上げながら伊織はウサウミウシを撫でる。


(もしかしてヨルシャミが小屋で倒れることになる原因も、村が無人になった原因と一緒だったりするのかな……?)


 超賢者というのは自称だろう。

 それでも夢を介して現れたり、予知をしたりと魔法に秀でていることはわかる。

 わかるが故に、そんなヨルシャミが行き倒れるのはよっぽどの理由があるのではないか、と伊織は思うのだ。

 村を丸々無人にする何かがいたのだとしたら、それは『よっぽどの理由』になり得るだろう。


 もしかすると今も追われているのかもしれない。

 あの性格でも不安に感じることはあるだろう。

 たまたまとはいえ、伊織からすれば不出来で情けない自分を初めて名指しで頼ってくれた人物だ。お礼を言われるかは怪しいものの、早く助けてあげたいという気持ちが一層強くなる。


「……」


 明日こそ小屋を見つけよう。

 そう心に決め、伊織は早起きに向けて体を休めるべくウサウミウシと横になった。

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