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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第一章

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第12話 ふたりの償い

 リータ、ミュゲイラ姉妹は里へ戻ると族長のミルバに経緯を説明した。

 ミルバはテーブルの上からお茶を手に取って一口飲むと、一呼吸置いてからゆっくりと口を開く。


「なるほど。己のためだけではなく、他者のためでもあったのか。褒められたことではないが……それを聞いてどこか安心したよ」

「族長……」

「そしてエルフという種族に凝り固まった印象を抱いていたのは、他でもない我々だったのかもしれないな」


 エルフは弓矢もしくは魔法を用いて狩りを行ない、むやみに体を鍛えない。

 そういった固定観念を抱いていたのは他でもないエルフである自分たちである、とミルバは視線を落とす。

 やはり身内に甘い気がしたが、甘くてもいいじゃないかと思えるのはそこに思いやりが含まれているからだろうかと伊織は三人を見つめた。


「だが里を脅威に晒した償いはしてもらわなくてはならない」

「すみません、族長。けど……あ、あたしは何でもするんで! 妹は許してくれませんか!」

「お姉ちゃん! 言ったでしょ、きっかけの一部は私のせいだし、子供の頃とはいえ決まり事を破ってることには違いないんだから、私も――」


 言い争いを始めかけたふたりをミルバが両手で制する。

 そしてそのまま静夏と伊織を見ると、どこか申し訳なさそうに言った。


「マッシヴ様、聞けばマッシヴ様たちはこれから世直しの旅に出られるとのこと」

「ああ、魔獣や魔物退治と……この世界の外から開けられた穴、それを探し出し塞ぐ役目を担っている」


 ミルバたちは『神様』の存在を知っているのだろうか。

 伊織がじっと見守っていると、ミルバは「過去にも同じ役目を担っていた方々がいらっしゃいました」と口にした。


「時折神に遣わされたとしか思えぬ人々が現れ、世を救済しようとしてくれていたのです。もしかすると今もおふたり以外の救世主がどこかで身を粉にして尽くしてくれているかもしれません。……私は……過去に出会ったそんな方たちの手伝いをしたいと思いながら、結局出来ぬままここまで生きてきました」


 ミルバは目を伏せ、そして深々と頭を下げる。


「恥を忍んでお願い致します。私は族長として里を離れられぬ身、代わりにミュゲイラとリータ姉妹を同行させてはくださいませんか」

「ぞ、族長……!?」

「この姉妹はもっと外の世界で色々と学ぶべきだ、という下心もあります。その上で考えては頂けませんか」


 静夏は下げられたミルバの頭をしばし見た後、ふっと表情を緩めた。


「過酷な道を選ぶこともあるだろう。辛い体験もするかもしれない。それでもいいなら……心強い味方だ」

「マッシヴ様……!」

「さっきの魔獣、あれを相手した時に他者と協力することにより更にいい結果を導き出せると知った。私も学んだというわけだ。旅に同行することでふたりが学べるように、私もまたふたりが同行することで学ぶことができる」


 ならば断わる理由はない、と静夏は笑った。

 ミュゲイラは目を輝かせて静夏の手をぎゅうっと握る。少女漫画的な音ではなく筋肉と筋肉が軋み合うようなハードな音がしたが伊織は聞かなかったことにした。


「マッシヴの姉御! あたしどこへだってついていきます!」

「わっ……私も行きます!」


 ふたりの返答を聞き、では決まりだなとミルバは頷く。


「見送りの祭りは開けないが、今夜は普段より少しだけ良い夕食にしよう。その後準備をし、明朝出発するといい。……マッシヴ様の手伝いをすることがお前たちの償いだ、しっかりと役立つんだぞ」

「ハイッ!」

「はい……!」


 族長の温情と、マッシヴ様に同行しその助けになること。

 それらにより仄かに赤くなったふたりの長い耳を後ろから見ながら、伊織もほっと胸を撫で下ろした。

 このままふたりが厳しい処罰を受けなくてよかったという安堵と、今後どんな魔獣と遭遇することになるかわからない旅路に仲間が加わったことによる安堵だ。

 これでいざという時静夏が危険な目に遭っても助けてくれる仲間ができた。

 助け合える仲間だ。


「……」


 できることならその筆頭は自分がよかった。


 伊織は心の底から湧いてくるそんな感情を無視できなかった。

 静夏のナメクジ型魔獣との戦い方。あれは岩場の魔獣戦の応用だ。

 偵察や索敵に使用した方法を別の目的に使ったのだ。それは静夏が自身の力を使いこなし始めているということでもあった。


 伊織はまだそんな自分の力を応用をする段階まで達していない。

 助けるよりも助けられる側のままである。


「……リータさん、ミュゲイラさん、これから宜しくお願いします!」


 伊織はじわりと湧く焦りの気持ちを抑え、今はただふたりの新たな仲間を迎えるために笑みを浮かべた。


     ***


 その日の夜のこと。


 様々な山菜料理やリータ曰く『珍しい』肉料理を振舞われた後、客人用のツリーハウスに通された伊織は窓から外の景色を眺めていた。

 ミルバから聞いたところによると、次なる目的地のリカオリ山は今覗いている窓の方角にあるのだという。

 さすがにここからは見えはしないが、約束があると思うと少し気が急いた。


「……うーん」


 最近急いてばかりな気がする。


 どれだけ背伸びしてもすぐに成長することはない。

 そうわかってはいるのだが、気がつくと色々考えてしまっていた。


 火の番や見張りもいらないため、静夏はすでにベッドで寝入っている。

 一般的なエルフ用に作られたベッドのため寝返りだけでみしみしと不穏な音を立てていたが、気にせず寝息をたてている姿を見て伊織は頬が緩んだ。

 昔――前世の頃は眠っている時も苦悶の表情を浮かべていることが多く、寝起きの眉間にしわの跡が残っていることもあった。儚げな顔にそういったものが残るほど苦しんでいるのに自分は何もできないと何度悔しく思ったことか。

 今感じている焦りはそれに似ていた。


(でも……今は時間もあるし、僕も母さんも健康だ)


 だから焦ることはないんだぞと己に言い聞かせるも、己がちゃんとそれを聞いてくれるかはわからなかった。

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