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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
第四章

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第119話 薬草探しに向けて 【★】

 酔い止めや気分の悪さを緩和する薬草は山に生えているらしい。


 山は件の内部にトンネルが伸びている山だ。

 枝分かれした出入口の中には薬草や他諸々の採取地への近道があるそうだが、それは通り慣れた村人向けの道であるため、不慣れな伊織たちだと迷うこと必至である。


 そのため今回はトンネルは通らず徒歩で探し回ることとなった。

 薬草は群生地はあるものの、他所にまったく生えていないわけではない。

 あくまで商売に使うため大量に必要な人が群生地に向かうだけで、個人が使用する分なら近場でも問題ないだろう、ということだった。


 ――と、そんな細々とした説明と薬草の特徴を薬屋の主人に聞いた後、伊織たちはトンネルに魔獣が住み着いている話を聞いた。


「なるほど、村長らしき者が時折こちらの様子を窺っていたのはそのためか」


 静夏が納得したように頷く。

 聖女マッシヴ様の噂はベタ村を中心に広がっており、遠くとも筋肉信仰の色濃い地域なら一目で理解してくれる人間が多い。


 しかしどうやらこの村は本当に噂の端の端しか届いていないらしい。

 トンネルを通る際に旅人が寝泊まりすることはあれど、そのまま足早に出立することが多く、情報交換が活発ではないのが原因だろうか。

 それでも「もし聖女マッシヴ様ならなんとかしてくれるかもしれない」とそわそわしていたようだ。


「その魔獣は山のほうには出てこないのか?」

「はい、夜はわかりませんが日の光に弱いようで」


 魔獣や魔物は人を襲うものだが、中には積極的に動かない個体もいる。


 それは自分たちがこの世界に『いる』だけで世界の毒となり、侵略の一因となると理解しているからだろう。いわば戦略的待機だ。

 今回の魔獣もそれに当てはまるようだった。

 静夏が重々しく頷く。


「……よし、ではそれについては私から村長に話を聞きに行こう。伊織とネロは勝負中になにかあったら合図を送ってほしい」

「合図?」

「ふむ、それならこれを持っていけ」


 ヨルシャミが小さな火の魔石ふたつをトントンと叩いて伊織と静夏に手渡す。


 普段使っている炎の魔石ではない。

 以前、魔石を採取しに行った際に入手し、戦闘に使える代物ではないが旅の火種用にと売らずに取っておいたものだ。

 ヨルシャミが叩いた場所から小さな魔法陣が浮かび、そのままスゥっと溶けるように浸透していく。


「なにかあったらそれを地面に思いきり投げろ、爆ぜ上がって空高くで閃光を放つよう調整しておいた」

「器用だな……! これは負担には――」

「ははは、この程度ならどうということはない。ほんのちょっと弄っただけだ、宿屋の階段を往復するほうが堪えるくらいだぞ」


 その様子をまじまじと見ていたネロが呟くように言った。


「魔法が得意って言ってたけど、本当に魔導師だったのか」

「うむ! 魔導師であり超賢者でもある!」

「ちょ、ちょうけんじゃ?」

「あ、ネロさん、そこは真面目に聞かなくて大丈夫なので……」


 小声で耳打ちし、伊織は「それじゃあ山へ行きましょうか!」と足を進めた。


     ***


 山は人の手が入っているところ以外は手付かずといった雰囲気だった。


 だが――たとえば研究施設のあった森などとは違い、まったく光が入らないほど暗い場所はほとんどないため、適切なタイミングで間伐は行なわれているようだ。

 ただし、道が舗装されているわけではないので足元には注意しなくてはならない。


 薬草探し勝負は制限時間式。


 日没までの間、今なら諸々準備をした後のため残り三時間ほどの間に指定された薬草を多く持ってきたほうが勝ちだ。

 もし間違った草が入っていた場合は減点される。

 探し方は自由で、必要なら魔法を使ってもOK。ただしその場合は自分の使った魔法に限る。つまり他人の付与したものは禁止というわけだ。


 勝っても負けても人の役に立てるため、伊織はやる気満々でいた。


 伊織にとって『薬草探し』が自分の得意なことかと問われれば首を縦には振れないが、人助けへの関心の高さはあるため「イオリが本気になれる勝負なんだったら」とネロも納得する。


「かなり歩き回るだろうけど、怪我してるのは肩だけなんで気にしないでください」

「……わかった、勝負中だけは気にしないでおく」


 それでも気になる様子だったが、ネロは無理やり頷いた。

 そこへサルサムが片手を上げて声をかける。


「俺もその辺で追加分の痛み止めの薬草を探しとくから、もし声の届く範囲にいたら呼んでくれ」

「は、はい」

「ありがとうございます、サルサムさん!」


 宿屋に残したパトレアたちになにかあった時のため、リータとミュゲイラは村の中に残ることになった。

 なお、貴重品は持ち歩いているため盗難については心配していない。

 そもそも盗んだとしても聖女一行がもし本気を出せば常人の足くらいならすぐ追いつけるというのもあるかもしれないが。

 静夏は村長に話を聞きに行き、ヨルシャミ、バルド、サルサムの三人が伊織たちと一緒に山を訪れていた。


「……それ、一応貴重品扱いなんだな?」


 ヨルシャミがニルヴァーレの魔石を持っているのを見てバルドが呟く。


「中にいるのがどんな者であれ、効果だけは相当なレアものだからな。無くせば私の調子が戻った際にイオリに回復魔法をかけてやることもできなくなる。――いや、まあ無理すればできるが、アレはそれを望まんだろう」

「へー、なんつーか甲斐甲斐しいなぁ……」


 なんだその感想は! とヨルシャミがバルドに目を剥いている間に伊織とネロは山への出入り口前で並び立っていた。


 山からは鳥のさえずりや、なんの動物か見当もつかない鳴き声が聞こえてくる。

 村人曰く、山に危ない野犬などはいないそうだが緊張する雰囲気だ。

 まだ明るいのに少し不気味に感じてしまうが、致し方ないことだろうと伊織は自分の服を握る。


(大丈夫、ヨルシャミを探し回ってた時に行った森より全然マシだ)


 伊織は自分にそう言い聞かせてネロに向き直った。


「……ネロさん、宜しくお願いします」

「それはこっちのセリフだ」


 どう転んでも全力を出しきる。

 そしてパトレアのために薬草を入手してみせる。

 そう心に決めながらふたりは顔を見合わせ、そして再び前を向くとスタートの合図と共に山の中へと足を進めていった。




挿絵(By みてみん)

包帯姿の伊織(イラスト:縁代まと)

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