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【本編完結】マッシヴ様のいうとおり  作者: 縁代まと
番外編章

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【番外編】シャリエトの奇妙な旅 前編(シャリエト+レプターラの面々) 【☆】

作中の時期:ワールドホール閉塞作戦後

出演キャラ:シャリエト、ベンジャミルタ、リオニャ等


簡単なあらすじ:

ベレリヤを徒歩で訪問することになったシャリエト。

ベンジャミルタたちから環境の変化に弱い性質を心配されつつも出発することになり……?

 

 他国を訪問する必要があるのは王族だけではない。

 宰相という立場にあるシャリエトもまた、遠出する必要に迫られていた。


 しかしシャリエトは環境の変化に弱い。

 そんな性質と騙し騙し付き合いながら国を切り盛りし、ようやく慣れてきたところで他国を訪問をするなど体調に影響するのではないか。

 そんな心配をされて真っ先に微妙極まる表情をしたのはシャリエト本人だった。


「そんなに心配することじゃないですよ。それに行き先はベレリヤだし」


 未踏の地だが、他でもない伊織たちの生まれ故郷である。

 そしてワールドホール閉塞作戦の際にはレプターラやその他の友好国と手を取り合って脅威に立ち向かった国でもある。一度くらいは行ってみたかったから大丈夫だとシャリエトは言い重ねた。

 だがシャリエトとは古い友人であるベンジャミルタは「部屋の模様替えするだけで気分転換どころか落ち込むような奴だしなぁ」と苦笑する。


「そんな友人を砂漠の国に放り込んだのは誰だよ」

「あはは、だからこそ荒療治になると思ったんだ。それに前の国の方が地獄だったろ?」


 三白眼を更に半眼にしたシャリエトにベンジャミルタは明るく笑った。

 祖国で心と体を壊し、しかし性格故に離れられなかったシャリエトを無理やり引き剥がしたのは他でもないベンジャミルタである。

 そんなベンジャミルタは友人に対して遠慮がないように見えて今でも気にかけているが――シャリエト本人が「大丈夫だ」と言うなら、それは疑うのではなく喜ぶべきことだった。


「まあ、たしかにベレリヤなら大丈夫か。それにステラリカさんの故郷でもあるしね、折角だしお土産でも買ってきてあげたらどうかな?」

「な、なんでそこでステラリカさんの名前を出すんだ。まあ土産くらいは買ってくるけど……あっ、もちろんリオニャさんや殿下にも買ってきますよ」


 話を振られたリオニャは喜びながら「じゃあドライフルーツで宜しくお願いします~!」と目を輝かせた。タルハも翼をぱたぱたさせているが表情は変わらない。

 シャリエトはしっかりとメモを取ると早速準備に取り掛かる。


 今回はベンジャミルタも別件で用事があるため、彼の転移魔法は使えない。

 だからといってシャリエトの付け焼刃且つ未熟な転移魔法で飛ぶのは本人も御免であり、王都からベレリヤへの陸路と航路の治安確認も兼ねて徒歩で移動することになっていた。これもベンジャミルタたちが心配した理由のひとつである。

 ただし普通の人間と異なり移動は魔法で補助するため、通常よりは早く到着するだろうとシャリエトは予想していた。


 この時は。


     ***


 陸路はベレリヤへ出る船が停泊している港まで舗装された道が続いている――のが理想であるため、その工事と資金繰りをしている真っ最中である。

 ルートが確立されれば道中に街が出来て発展の助けにもなるだろうというのも狙いだった。


 しかし現在はまだ岩石地帯を通ったり砂漠を迂回したりと苦労する。

 道中で立ち寄った様々な街や集落で異種族と人間の諍いが起こっていないか、報告されていない事件などはないかをシャリエトは一般人を装って調べていく。

 少し前までは厄介な思想の人間が組織を作り「異種族から国を解放するのだ!」などと暴れていたが、リオニャに直接壊滅させられ沈黙していた。手荒いが威厳を示す方法としてレプターラには合っている様子だった。


 そうして辿り着いた街の中に含まれていたのがラルガラーシュである。

 ここはシャリエトが長いあいだ薬屋を営んでいた場所だった。方角だけで見るならベレリヤから逸れているが、陸路の確認も兼ねるため道は直線ではない。そして補給地点も必要なため、ラルガラーシュはそれに選ばれたのだ。

 ベンジャミルタかリオニャさんが余計な気を回したんじゃないだろうな、というのがシャリエトの見解である。


「ぅお、まだ普通に残ってるとは……」


 シャリエトがリオニャの願いを聞き入れ、店を畳んで同行したのはもう何年も前のことだ。

 しかし薬屋は扉は固く閉ざされているものの綺麗に形を保っていた。

 両隣の店が景観を気にして周りだけ掃除してくれていたのかもしれない。そう考えたシャリエトは挨拶だけでもしようかと迷ったが、結局首を横に振った。

 シャリエトは長くラルガラーシュで暮らしていたが、しかし周りと仲良くなり和気あいあいとしていたわけではない。異種族への偏見や差別を感じながら、自分からも距離を取って生きていた。

 つまり、突然戻ってきて挨拶をするほど親しくはない。


 ひとまず少し離れた食料店へ足を運ぶと店主が代替わりしていた。

 そこで日持ちする食べ物を買い足してから飲食店へと足を運ぶ。そこもやはり次の代になっていた。


(やっぱり挨拶しなくて正解だったな。これじゃもし仲が良くても気まずい)


 人間と長命種の時の流れ方は異なる。

 それを久しぶりに肌で感じながらシャリエトはミートパスタを口に運んだ。

 王宮ではベンジャミルタもリオニャもミドラもメリーシャも、そしてステラリカも長命種であり、タルハもベンジャミルタとリオニャの血を継いでいるため人間の血が混ざっていても恐らく長く生きる。

 ベンジャミルタの他の妻の中には人間も含まれていたが、シャリエトは一対一で接する機会が少ないため時の流れの差を感じることは少なかった。

 自身以外の宰相に関しては常日頃から顔を突き合わせているが、それはワールドホール閉塞作戦後からだ。老いているのはわかるが大きく差を感じるところまでは至っていない。


 ラルガラーシュの人間は接してきた時間だけは長い。


(でもここに住んでる間も代替わりを見てきたけど、なんか感じ方が変わったな……)


 まあ色々あったから仕方ないか、とシャリエトが最後の麺を啜ったところで店に他の客が入ってきた。

 シャリエトはフード付きローブを着ているため普通の旅人に見えたのか、一瞥はしたものの特に気にすることなく会話をしながら近くの席に座る。

 そしてこんな話をし始めた。


「ラルガラーシュのよく効く薬屋。そこのエルフノワールが帰ってきたらしいぜ」

「ホントか? 長い間見なかったのに?」


 ――麺を飲み込んだ後でよかった。

 シャリエトは心の底からそう思った。危うく噴くところだったのだ。

 そんな様子に気づかないまま、客たちは仕入れたてらしい噂話を嬉々として話している。内心焦りながらシャリエトは口元を拭いた。


(まさか見てただけなのにバレた? いや、そもそも噂になるのが早すぎるだろ。到着したのはついさっきだぞ)


 耳の早い人物が多ければありえるかもしれないが、どうにも拭いきれない違和感に眉を顰めつつシャリエトは耳をそばだてる。


「俺のじいちゃんが毒草食った時にすぐ解毒薬を出してくれて助かったんだよ」

(毒草……ああ、五軒先のパルワイトって人だったかな)

「うちも母さんが歯を抜いてさ、そこが痛んで何日も眠れなかった時に世話になったんだ」

(ああ、パン屋の奥さんか。見るたびやつれてたから気になってたけど効いて良かった)


 素知らぬふりで水を飲みながらシャリエトは横目で二人組を見た。

 そこへ店主まで参加して世話になった薬のエピソードを披露している。


「薬は行商人から買ってるけど、ラルガラーシュに根付いた薬屋はもうないから戻ってきてくれたなら嬉しいんだけどねぇ」

「……」


 シャリエトは視線を下げ、ほんの少し強くコップを握った。

 自分の思っていた以上に周囲に受け入れられていたと今更知ることになったが、しかし今は国を支える柱の一本になっている。ここへ戻って薬屋を再開することはできない。そうシャリエトは瞼を伏せかけたが――次の瞬間それどころではなくなった。

 続けて店に入ってきた客が三人の会話を聞いてとんでもないことを言ったのである。


「ああ! それならさっき広場で薬を広げて売ってたよ。シャリエトって名乗ってたしそいつだろ?」

「は!?」


 思わず発した声に全員の視線がシャリエトへと集まる。

 いそいそとフードを目深に被り直したシャリエトは代金を置くと「じ、じゃ」と店を後にした。

 早歩きで道を進みながら心の中を占領するクエスチョンマークを払い除けていく。


(いや、いやいやいや、ボクはここにいるのに? 人違いか? でも名乗ってたっていうし……)


 シャリエトの歩みは遅くなるどころか早まっていった。

 いつもなら面倒事を前にすると歩みが止まりがちだが、しかし――自分を慕ってくれていたとわかった人々の前に偽者が現れたとなれば話は別だ。


 そう、偽者である。

 そんな正体不明の人物が売る薬など信用ならない。


「どういうつもりかはわからないけど……ゲスい真似に巻き込まれるのはもう真っ平ごめんだ」


 歩みは止まらない。

 向かう先はもちろん、ラルガラーシュの広場である。









挿絵(By みてみん)

京あめこさん(@u_matchaman)が描いてくださったシャリエトです。

掲載許可のご快諾、そして素敵なイラストをありがとうございました!!


※イラストがリンクのみの場合は左上の「表示調整」から挿絵を表示するにチェックを入れると見えるようになります(みてみんメンテ時を除く)

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