【番外編】絶好のデート日和 前編(ペルシュシュカ&リータ+サルサム)
作中の時期:最終回前後
出演キャラ:ペルシュシュカ、リータ、サルサム
■簡単なあらすじ:
以前ペルシュシュカとしたデートの約束を守りにきたリータ。
ふたりはトントン拍子で友情的な意味でのデートに繰り出すことになり……?
無事に帰れたらデートしましょう。
そう約束したのは死地であり、ペルシュシュカは無事に五体満足で帰還することができた。
発破をかけるための、そして未来の約束をすることで前を向くための言葉だったが、もちろん嘘の約束ではない。男女間の情がなくともデートはできる。
いつかサルサムの複雑げな顔を拝みながら誘いに行ってあげようと考えていたペルシュシュカだったが――まさかリータから「例のデート、そろそろ行きませんか?」と誘われるとは思っていなかった。
ワールドホール閉塞作戦終了後、季節が廻り国も落ち着いてきた頃である。
聖女一行と出会う以前から長く留まっていたベレリヤのエブラエドラに帰ったペルシュシュカは、再び気が向いた時に金持ち相手に占いを行なって金を稼ぐという生活に戻っていた。
ただし伊織を探していた際のペルシュシュカの活躍はいつの間にか尾ひれが付いて人々の間に噂として出回っており、それを聞きつけた人間が「ぜひ占ってくれ!」と殺到したため以前よりも騒がしい。
全員の依頼を受けることはなく気になったものだけを拾い、あと十年も経てば落ち着くだろうと考えながら暮らしていたものの「断るのも普通に疲れるのよ!」というのがペルシュシュカの正直な感想である。
そんなところに舞い込んだのがデートの誘いだった。
「まさかそっちから誘ってもらえるとは思わなかったわ、リータ」
「だって待てど暮らせどなにも言ってこないんですもん、忘れちゃったのかなと思いましたよ」
「そりゃあそっちは育児だなんだと忙しそうだったじゃない? 気遣いのできるペルシュシュカさんは空気を読むのが上手いのよ」
演技がかった様子でふふんと笑うと向かいの席のリータは肩を揺らした。
リータがデートの誘いに訪れたのは丁度エブラエドラに程近い村に用事があり、その帰りに時間があったからだという。
そのままあっという間にデートの日程が決まり、こうしてふたりで王都まで出てきてオープンカフェでお茶を楽しんでいるというわけだ。
なお、ラキノヴァへの送迎は転移魔石を持つサルサムの担当である。
つまりこのデートは旦那公認なわけだ。
サルサムはそれはもう見事な『複雑げな顔』をしており、この時点でペルシュシュカは大満足だった。
(とはいえ、アタシたちの間になにか起こるんじゃないかって心配は欠片もしてなさそうだったわね。うふふ、信頼と信用のなせる業だわ)
その信頼と信用を活かしていつかまた女装してもらいましょう、と画策しつつペルシュシュカは微笑む。
サルサムとリータの結婚と妊娠で先駆けたのは後者であり、そのためふたりは常に慌ただしくしていた。
自然とペルシュシュカと会う機会も減っていたのだが、個人差は大きいものの長命種にとって長く知人と会わないことはざらにあるため、寂しいなぁと物思いに耽ることはない。少なくともペルシュシュカはそういうタイプだ。
しかし長くサルサムの女装を拝めないことは惜しかった。
じつに惜しかった。
ナレッジメカニクスの発明品であるカメラなるもので姿を残して部屋に飾っておけば良かったと幾度となく思ったものだ。
もし本当に実現できる機会があったとすればサルサムの必死の抵抗により阻止されていただろうが、思う分には自由である。
そこでリータが明るい声を出す。
注文していた料理が運ばれてきたのだ。
「あらまぁ……想像以上におっきいわね、それ!」
「はい、嬉しい誤算です!」
リータが頼んだふわふわチーズパンケーキは四段重ねだと書いてあったが、一段が五センチ近くある代物だった。つまり縦に二十センチもある。
たしかに少し値が張るなと思ったのだが、ここまでとは思っていなかった。
しかもどう焼いているのかまさにふわふわだというのに自重で崩れていない。
ペルシュシュカはこの世の神秘を垣間見た気分になった。
「アタシの占いって対象をなんにも指定してなければ重要なことが優先されて出るんだけど、今日のことを占ってたら絶対にコレのことが出てたわね……リータ、それ全部食べれるの?」
「? 余裕ですよ! 家だと子供たちに優先して食べさせてたんで、こんなに大きなのは久しぶりですけど胃は小さくなってませんから」
リータはナイフとフォークを握ってにっこりと笑う。
元々リータには食いしん坊な気質があったが、母となってからより一層目立つ特徴になっていた。
ペルシュシュカは「見てるアタシのほうがお腹いっぱいになりそうね」と苦笑しながら自分が頼んだガレットを切る。もちろんこちらは通常サイズだ。
そうやってしばらく舌鼓を打ちながら近況を報告し合う。
「――それで、お義父さんに今住んでるところの地酒をあげたんですよ」
「サルサムの父親ね。もしかしてその人もエグい酔い方したんじゃ……」
「それが全然! お義母さんも見た目はサルサムさんに似てるのに何杯も飲み干しててビックリしました。ポーカーフェイスすぎて酔ってるのかどうかわかりにくかったですけど」
酔っぱらって全裸になって走っていったりはしませんでしたよとリータは微笑む。
普段は冷静なサルサムの醜態を思い出したペルシュシュカは肩を揺らして笑った。
もしサルサムの実家の人間がすべて彼並みにアルコールに弱かったら地獄絵図どころではなかっただろう。
しかしその可能性もあったはず。なのにお土産にお酒を持っていくなんて猛者ね、とペルシュシュカが感心するとリータは首を横に振った。
「事前にサルサムさんほどじゃないって聞いてたからです。少し前にサルサムさんの弟のルキウスさんが遊びに来てて、その時に」
「なるほど。そういえばサルサムの弟って会ったことないわね……どう? 女装してくれそう?」
「ブレませんねペルシュシュカさん……」
リータは咳払いしつつ「ルキウスさんは女装を含む変装は不得手みたいです」と答える。
ペルシュシュカは残念そうにすることなく目を輝かせた。
「ってことは指導のし甲斐がある上に不慣れな女装も吸えるわね! 最高!」
「……下の弟のアクアさんは変装の達人だそうですよ」
「サルサム並みに熟成された女装技術も拝めるってこと? あらやだ、アタシあの子の実家に住もうかしら」
サルサム絶叫案件である。
冗談よ、と笑いながらもやけに真剣みを帯びた目をしながらペルシュシュカは紅茶を口に運ぶ。
ガレットは先ほど食べ終わったところだが、なんとリータも同じタイミングで食べ終わっていた。言った通り余裕であり苦しそうな様子は微塵もない。
この後はどこへ行こうか。
時間はまだたっぷりとある。
そうペルシュシュカが相談すると、リータは「じゃあ服屋はどうでしょう?」と提案した。その提案が不思議なものに聞こえてペルシュシュカは首を傾げる。
「服なら自分で作れるでしょ?」
「最新の流行を見ておきたいんです、あと裁縫技術も日々進歩してますし」
「勉強熱心ね~! そういうことならわかったわ、仕事柄そういう話ってよく耳に入るのよ。客が勧めてた店に案内するわね」
ペルシュシュカは王都に出てくる頻度は低いものの、王都からの客自体は多い。
占ってもらうために気に入られようと様々な話をする客も少なくはなく、自然とペルシュシュカのもとには新しい情報が多く入ってきていた。
服屋の次は折角なのでアクセサリーショップへ、その次はお菓子屋、そして最後にどこか好きな店に寄ってから夕食をして帰ろうという話になったふたりはカフェを後にする。
空は快晴で、まだまだ絶好のデート日和だった。





