【番外編】謎のシァシァランド! 中編(伊織、ヨルシャミなど聖女一行)
C班のサルサムとリータは説明ロボットから教えられた方角へと進み、大きな噴水広場の前を通って目的地へと辿り着いた。
シンプルな鉄門の脇には『わくわくロボット迷路!!』なるテンションの高い看板が立っている。
「随分広そうですけど、ここから調べますか?」
「ああ、広いってことは時間がかかるってことだからな。最初のうちに済ませてしまおう」
後回しにして、もしも迷路の中で日が暮れてしまっては危険度が上がる。
そう判断したサルサムは入り口の周辺をチェックし、特に変わったところはないと確認すると迷路の中へと足を踏み入れた。
門の脇に立っていた円柱状のロボットが『お楽しみくださいませ~!』と棒のような手をブンブンと振って見送る。
デジタルな音声を聞き慣れていないふたりは違和感にぞわりとしながら「ここってじつはオバケ屋敷だったりしないよな?」と再確認したが、コンセプトとしては普通の迷路だった。
通路はクリーム色の壁に囲まれており、天井は無かったが飛び越えるのは難しい高さだ。
サルサムの相方がバルドなら踏み台兼ジャンプ台になってもらい乗り越えられたかもしれないが――迷路と銘打っている以上、まずは普通に攻略しておかしな部分が無いか確認すべきだ、というのがサルサムの見解である。
(こちらが想定外の行動をして見つけた『おかしな部分』が本当におかしいのか判断する必要が出るからな)
それに加えて低い――とても低い可能性だが、この施設がナレッジメカニクスとは関係ないパターンも考えられる。
そのためおかしなことをして施設を破損させることは回避したかったのだ。
斯くしてふたりは順調に道を進み、そして何度か壁に阻まれることになった。
「ま、また行き止まりですね」
「分かれ道が多すぎる。この迷路を作った奴は性格が悪いな」
間違いない、とサルサムは言い重ねる。
サルサムは迷路の必勝法『壁伝いに進む』を行なっているため、いつかはゴールに辿り着けるが、それにしてもぶち当たる壁が多すぎる。
それだけ片側が行き止まりになった分かれ道が多いのだ。
その時である。
きっと悪口に反応したわけではない。
しかしそう思ってしまうほどベストなタイミングでどこからともなくカチッという音がし、行き止まり側の壁が開いて鉄球が転がり出てきた。
「て、鉄球!? 罠ですか!?」
「偽物かもしれないが……リータさん、とりあえず逃げよう!」
リータの魔法弓術の炎なら溶かして壊せるかもしれないが、今のところ破壊は望んでいない。
そしてサルサムの転移魔石も今はまだ使えない上、もし使用できたとしても正規ルートで調査したとは言い難い結果になってしまうだろう。使うのはこれ以外の手段がないほど追い詰められてからだ。
リータがいるため、その使い時の判断を誤るわけにはいかない。
そう緊張しつつサルサムは鉄球に追われながら走り出した。
「次の曲がり角は右だ!」
「は、はいっ!」
元来た道を引き返す形のため、サルサムはすでに地図が頭の中に入っている既知の道を選ぶ。そのまま巧みに行き止まりになっていない道を進んでいった。
鉄球はというと曲がり角で止まることはなく、それどころか加速している。
見れば壁にぶつかるなりサルサムたちのいる方角へ進むようにジェットを噴射していた。やっぱり製作者の性格が悪い、とサルサムは確信する。
ようやく鉄球が止まったのは、燃料が底をついてジェット噴射が機能しなくなってからだった。
壁に激突したままうんともすんとも言わなくなった鉄球を見ながらリータが言う。
「やっと、止まり……ましたね、……っ」
「迷路でこんなに走らされるとは思わなかったな、……怪我はないか?」
サルサムの問いにリータは肩で息をしながら「はい、大丈夫です」と笑みを浮かべた。それは気遣いの笑みではなく心からの笑みに見える。
「むしろ、その、ちょっと楽しかったですね!」
「た、楽しかった?」
「はい、不謹慎かもしれませんが……!」
ぱたぱたと長い耳を揺らすリータは本当に楽しかったのか目を輝かせていた。
鉄球はやりすぎだったが、もしかするとあれもすんでのところで回収されるギミックだったのかもしれない。
サルサムがそう思っていると停止した鉄球の真下に穴が開き、ストンとその中へ落ちていった。そのまま床の穴は何事もなかったかのように閉まっていく。
「……ここで止まるのは決まってたことみたいですね?」
「そうだな、……あー……」
サルサムは咳払いをする。
「とりあえずこの道が鉄球で通れなくなった、なんてこともなくなったわけだ。このまま全ルート確認できそうだな」
調査のためだけではなく、この迷路を楽しんでいたリータに対する言葉である。
それを感じ取ったリータは満面の笑みを浮かべ、
「はい。調査、頑張りましょうね!」
そう言って頷き、ふたりは再び迷路を歩き始めた。
――その後に多種多様なデストラップに見舞われ、一周目のゴールから出る頃にはヘトヘトになっているふたりだが、今はまだ与り知らないことである。
***
ジェットコースターの担当は伊織たち。
デフォルメされたロボットの顔が側面に描かれたジェットコースターで、伊織は初見らしいヨルシャミにジェットコースターの説明を行ないながらそれに乗る。
が、なぜか本物のジェットエンジンが積まれており、風の抵抗と重力により呼吸困難に陥りながらヨルシャミが風魔法の障壁を張ることになった。
本気で死ぬかと思った、というのは気絶した伊織が目覚めた時のセリフである。
ゴーカートの担当は静夏たち。
使用されているのは本物のレースマシン顔負けの車で、小さいながらも静夏の体重を軽々と支える丈夫さがあった。
レースに白熱したバルドとミュゲイラがコースの途中でクラッシュし、吹っ飛んだところを静夏がキャッチするというふたりにとっての黒歴史が再び更新されたが――静夏にとっては『ちょっとしたハプニング』だったのか、楽しげに笑っていたのでセーフということに相成った。
空中ブランコ担当はサルサムたち。
ブランコに乗ったままくるくると回転させられるアトラクションである。
もちろんそれなりの遠心力がかかるが、爽快感はなかなかのものだ。
高い場所を移動することに慣れているふたりでもエンターテインメントとして楽しむことができた。
――絵面が少々シュールになるため、乗っている間はサルサムがずっと「バルドは絶対通りかかるな」と念じていたが、その頃バルドはゴーカートで大クラッシュしていたので祈りは届いたようだ。
そうして様々なアトラクションを楽しみ――もとい調査し、各班がそれぞれ残すところ一ヵ所になったのは夜の気配が西の空から漂い始めた頃だった。





